《大迫猪之助》は、1955年頃、山城見信が初めて描いた油絵です。
縦25センチ、横19センチほどの板に描かれています。
工業高校で建築を学んでいた山城は、恩師の建築家・呉我春明から「建築家は絵を描かんとだめだ」と励まされ、
油絵具とペインティングナイフを贈られました。その日のうちに描いたのが本作です。
モデルは、幼い頃に世話になった、目の不自由な伯父・大迫猪之助でした。
厚く重ねた油彩と、黄色く光る眼に注目してください。
見ることのかなわない眼を光として描く姿に、人物の内面へ迫ろうとするまなざしが感じられます。
山城は後年、この体験を「心の解放」と語りました。
貧しさや言葉にできない思い、戦争の記憶が、描くことでほどけていったのです。
長く山城家で大切にされてきたこの小品は、画家の原点を伝えています。