はじめに
令和8年5月9日に5月学芸員講座で「グスクとは何か-これまでのグスク論とグスク認識-」というタイトルで報告させていただきました(写真1)。
写真1 学芸員講座開始直前の演台
当日は朝からあいにくの雨天により、聴衆の集まりも少ないだろうと勝手に予想しておりました。しかし、その予想に反して190名を越える方々が会場に足を運びました。開始時間前には会場が満員になってしまったため、拝聴していただけなかった方々も多くいらっしゃったことを後ほど耳にしました。
それだけグスクに対して興味を抱いている方が多いということ、そしてグスクに対する熱量の高さに驚きを伴いながら、話をさせていただきました。
今回は当講座の様子と講座を終えた後で考えたことについて2回に分けて触れさせていただこうと思います。
1.話の内容をまとめると
グスクと呼ばれる対象が何かについて、最初に各地に点在するグスク呼ばれる場所を紹介し、次にグスクの研究史を解説しながら、過去の文献資料に見るグスクの性格を紐解いていくという流れで話をさせていただきました。最後に自身のグスクに対する理解について4つの観点で披露させていただきました。
4つの観点を簡単に列挙すると、
①グスクは一義的に解釈することができない。
②グスクとは何かといった場合、いつの時期のグスクであるのかを明らかにしなければならない。
③グスクの遡源について何かと問われた時は物質的な意味か、グスク名称としての意味かでその答えが分かれる。
④グスクについて観念的な意味で問われた場合は様々な解釈が成り立つため、議論の土台が築けない。
以上のような形で、90分間の中で話をまとめさせていただきました(写真2)。
写真2 学芸員講座会場の様子
最後の質疑応答では多くの方々が手を挙げて質問をしていただきましたが、時間制限のために全ての質問を受け付けることができなかったことが心残りとなりました。それでも講座終了後、個人的に質問を投げていただいた方がたくさんいらっしゃったことから参加者の皆さんはグスクに対する熱量が高いことを改めて感じました。
※過去の当コラムでもグスクの性格についての雑感をつづっておりますので、グスクにご興味のある方は以下のURLからアクセスして下さい。
2025年7月25日
学芸員講座から得られたグスクへの興味 ―グスクの性格は変わるのか―
http://okimu.jp/museum/column/1753157413/
2.たくさんのアンケート結果から見えてきたもの
質疑応答が終了した後にアンケートの記入を切にお願いしました。その理由としては参加者に皆さんにとってグスクとは何か、という質問をアンケートの中に追加で設けたからになります。
この質問の意図としては、グスクは過去においてその性格が変化していくことから、現代においてグスクについてどのように認識しているのかについてもグスクの性格を見ていく上で重要であると強く感じたからになります。
おかげさまで多くの方々がアンケートに記入していただけました。その中の一意見として「解釈論ではグスクは一概に説明できないとあったのですが、それでも答えを求めていくのが研究ではないのか」という手厳しいご意見が挙がっていました。こちらとしてはグスクとは何かについて一義的に理解していくことそのものに学問的な意義はすでに失われていることについて研究史を辿りながら長々と解説したつもりでした。その意図が伝わっていなかったことについては反省すべきことではあります。グスクとは何かということよりもグスクが果たしてきた歴史的な役割についての検証に、現在はその学問的な意義が見出されています。
他には「『グスクとは何か』という講座なのに、個別実証だけではその問いに答えられない、という話になっていないか。」、そのためにグスクの全体論についての研究が停滞していることを肯定している、というご意見も賜りました。この点については勝手な解釈を排除するために個別実証作業を通してグスクの実態を明確にし、その中からグスクの性格が浮かび上がらせるという考察過程を重視していることが考え方の根底にあります。結果として個別事例を検証してもグスクを一義的に捉えていけないことが成果であること、時代によってその性格が変わることを講座の中で示し、それをグスクの全体論として位置づけました。反対にグスクの実態を把握しないで個人的な解釈を前提に個別のグスクに当ては嵌めていくことは、如何様にもグスクの定義を変えることができてしまうため、グスクの全体論に向けての議論が嚙み合わない状況になってしまうのが容易に想像されます。これではグスク論争と同じ轍を踏むことは火を見るよりも明らかです。
今回の講座で歴史資料に見えるグスクについて触れたのは、過去にグスクはどのように把握されていたのかを史料を根拠にして示すためであり、それは自身の勝手な解釈でグスクについて語ることが無いようにするためでもあります。
何れも率直なご意見をアンケートに記して頂いたことで、考える契機になりました。有意義なご意見を賜りましたことを、この場を借りて感謝申し上げます。
3.グスクをどのように捉えているのか
他には自身のグスク観について触れて欲しかったというご意見もありました。グスク観と言えるほどの見識は不学無術のため持ち合わせておりませんが、今回の講座の中でグスクと呼ばれるものは15世紀には城館としての性格が現れ出ており、16世紀に入ると聖域としての性格が強く見られるようになる、といったことが全てになります。
端的に言うと、グスクとは時代によって性格が変化するものであると共に、最初に歴史的な裏付けができるその性格は防御性であり、聖域性がその後に強く現れてくるのがグスクであると解釈しています。
写真3 中城グスク内にある御當蔵火之神での拝み
現在もグスクには拝所が存在し、地域の方々が手を合わせに来られているグスクも多く存在しています(写真3)。その意味でもグスクとは聖域であるという理解も成り立ちますが、一方で世界遺産に登録されているグスクに見るように城跡としてグスクを理解している方も多くいます(写真4)。
写真4 中城グスク三之郭の城壁
聖域、城跡以外にもグスクに対するイメージを現代人が持っているのか、そしてグスクのイメージがどこまで多様であるのか。それを知ることはグスクとは何かの答えを知ることに繋がっていくような気がします。
次回は講座のアンケート結果から見える「グスクとは何か」について触れていきたいと思います。
(次回へ続く)
◎おすすめの文化講座
6月博物館文化講座 主催:沖縄県立博物館・美術館
『護佐丸のグスク
―築城の名手と云われた人の城―』
琉球史上において唯一とも言える、築城家という評価が与えられている護佐丸ですが、
彼が築いた、もしくは増築したグスクについて考古学の視点から読み込んでいきます。と共に、彼にゆかりのある与論島のグスクについても発掘調査成果を中心にして触れていきます。
①開催日時:
2026年6月20日(土)14:00~17:00(13:30から開場)
②講師:「昭和48年度から行われた座喜味城跡の環境整備と発掘調査について」太田美緒(読谷村教育委員会)
「中城城跡の調査成果について(仮)」太田樹也(中城村教育委員会)
「護佐丸が連れていった島のグスクー与論島の与論城跡の発掘調査成果を中心にー」南 勇輔(与論町教育委員会)
③場所:
沖縄県立博物館・美術館3階 講堂
④参加定員:
200名
⑤参加方法:
当日受付・先着順
⑥参加費:
無料
⑦その他:近日中に当館HPにて詳細をアップしますのでご参照ください。
主任学芸員 山本正昭