最終更新日:2021.10.25
10月上旬から北大東島に大量に軽石が漂着しているとニュースが流れた数日後、沖縄島や奄美諸島各地でも軽石が漂着し始めました。各地の海岸でその様子を観察した方も多いことでしょう。大量の軽石の漂着は、多くの人が自然や岩石を見つめ考える機会になったと思います。しかし一方で漁業や観光にも甚大な被害が出ており、同時にサンゴや魚類等の生態系への影響も懸念されています。これ以上、被害が大きくならないことを願います。
(写真:漂着した軽石 恩納村 2021年10月21日)
今回の軽石は、2021年8月16日に小笠原諸島の南、福徳岡の場で起こった噴火によって噴出した軽石とされています。加藤祐三琉球大学名誉教授によると、漂着した軽石の多くは灰色で黒色のゴマ粒から豆粒大の黒い石(捕獲岩)を含み、1986年に漂着した軽石と見かけだけでは区別がつかないくらいそっくりだそうです。福徳岡の場の軽石は、1986年の噴火では約4ヶ月後に県内各地に漂着しました。今回の軽石はその時よりも、2カ月近く早く漂着したことになります。早く漂着した原因として、前回は海流によって運ばれた影響が大きく、今回は台風によって運ばれた影響が大きいと加藤祐三名誉教授は言います。また今回の漂着量は前回よりも桁違いに多く、大規模な噴火だったことが推定されます。海底火山で生まれた大量の軽石が海流に乗って約1500kmも漂流し県内各地に漂着、中には今もなお漂流しているものもあると思うと、地球の壮大な活動を感じられずにはいられません。今後の火山学、岩石学等の詳細な調査研究が待たれます。
ところで昨年の岩石展を機会に岩石に興味をもつようになった小学生が現在、軽石に夢中になり自分なりに調査を進めていると聞いています。
昨年の岩石展では目的の一つに子どもたちの岩石鉱物への興味関心の喚起を挙げました。そこで軽石研究者の加藤祐三名誉教授には、1986年福徳岡の場の噴火によって漂着した軽石の標本提供とともに「軽石はおもしろい」というコラムを展覧会図録に寄稿していただきました。このような経緯から最近の軽石漂着調査を始めた少年の行動は、大変嬉しく加藤祐三名誉教授とともに喜んでいます。博物館に勤務するものとして、研究者と来館者、特に子供たちをつなぐ役割でありたいとあらためて感じた最近の出来事でした。
(写真:少年たちが見つけた子どもの頭ほどある大きな軽石)
今回の県内漂着軽石の中では最大級の軽石が10月末に当館へ寄贈されました。寄贈にあたっては軽石に魅せられた少年がつなぐ多くの方のご縁がありました。石には力があると聞きますが、今回の一連の出来事は本当に不思議な力を感じます。寄贈していただいた方をはじめ、関わった多くの皆様に感謝申し上げます。ところで大型標本はその構造が観察しやすく、展示用というだけでなく研究資料としても有効です。その構造は噴出時の様々な情報を私達に教えてくれます。今回の大量の軽石漂着は、大きな被害をもたらしていますが、リアルタイムに起きている地球の活動をを私達に伝えてくれる生きた教材でもあります。また他の岩石と同様に地球の活動を記録したカプセルでもあります。今回、収集・寄贈いただいた標本は、噴火や海流という地球の活動を記録した標本として、次世代へ引き継ぐため大切に収蔵し、機会を見て展示したいと思いますので、その際にはぜひご来館下さい。
(写真:採集時の大型漂着軽石) 記録動画 写真提供:ネコのわくわく自然教室:寄贈者)
10月より久しぶりに開館したおきみゅー、10月15日より企画展「海とジュゴンと貝塚人」、好評開催中です。コロナが落ち着いている現在、早めのご観覧をおすすめします。また常設展示室、情報センターもオープンしています。ぜひご来館下さい。
企画展 | 海とジュゴンと貝塚人 |
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展示期間 | 2021年10月15日(金) ~ 2021年12月05日(日) |
場所 | 博物館 特別展示室 |
主任学芸員 宇佐美 賢