1. 【国際博物館の日2021】「素材」から美術工芸の継承を考える

【国際博物館の日2021】「素材」から美術工芸の継承を考える

最終更新日:2021.05.21

 現在、国内に流通している漆の約97%が中国製と言われています。残りの3%のうち、約7割近くが岩手県二戸市浄法寺(じょうぼうじ)で採取されています。しかし、近年では漆を採取する「掻子(かきこ)」が高齢化、後継者も少なくなり数年前の調査では50代が一番若いと報告されていました。このまま高齢化が進むと、国産漆の維持は難しくなるのが現状です。
 しかし、それ以上に深刻な問題があります。漆を採取する時に使う「漆カンナ」を作る職人がいなくなってしまうかもしれないという問題です。現在は青森県在住の中畑文利さんの工房でのみ製作されていますが、生産中止となれば供給そのものがなくなってしまいます。厄介なことに、形をまねできても刃物として使い物になるかは別問題らしく、カンナの良し悪しは漆の質にまで影響するそうです。この問題が国産漆に与える影響は、掻子の減少以上のものです。
 首里城復興に関しても言えることですが、美術工芸の素材となる材料や道具が入手できないという問題がたびたび話題に上がります。今後モノづくりを継承する上で、作ることと同時に素材の維持に必要な技術を継承できる事業を起こす必要が出てくるでしょう。しかも技術はすぐに身につくものではないため、長期的にです。
 モノづくりの技術は作品という形に直結し目に見えやすいものですが、素材はそうはいきません。私たちは作るということと同様に、素材をどのように継承するかを考える時期に来ているのです。
 

漆カンナで木に傷をつける掻子
美術工芸担当 学芸員 伊禮 拓郎

美術工芸担当 学芸員 伊禮 拓郎

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