新型コロナウイルスの感染拡大によって、私たちの日常は一変し、先行きの見えない世界に誰もが不安を抱えることになってしまいました。
当館は、例年であれば県内外の来館者でにぎわうGWや夏休みも休館を余儀なくされ、閑散とした館内に職員は寂しさとやるせなさを感じながら過ごしました。
こうした悲しい状況にどのように対応すべきか、当館も難しい課題を抱えることになりました。
国内外の文化施設の対応にならい、展示やワークショップをリモートで疑似体験するための様々なコンテンツを作成しオンラインで公開する活動を当館も進めていますが、博物館での生の体験は、リモートでは代用しがたいものがあると思います。
生の体験に勝るものはないことは承知の上ですが、遠隔地におられる方々や感染を警戒されるあまりご来館いただけない方々へ向けて、収蔵資料の魅力をお伝えするために、3Dモデルという新しい形でここに発信してみたいと思います。
私は人類学の担当ですが、この際、分野の垣根は通り越して、厄除けに力をもつ他分野の収蔵資料を2つ紹介します。
オンライン、リモートならではの自由な鑑賞を楽しんでもらえれば幸いです。
沖縄から新型コロナウイルスによるパンデミックの1日も早い収束を願って。
1.
首里城正殿
(解説:美術工芸担当 篠原あかね)
皆さんは、
龍と聞いたらどんな姿を想像しますか。ヘビのような長い身体…、ワニのような顔……、想像する龍の姿はきっと人それぞれですが、本物の龍を見たことがなくても、多くの人が龍の姿を想像できると思います。では、昔の人はどのような龍をイメージしていたのでしょうか。沖縄を代表する龍の姿を見てみましょう。「
龍柱」は、首里城の
正殿前に建てられていた龍の形をした柱です。龍は国王の象徴であり、水を司る守り神のような存在でもあります。この龍柱は18世紀初期に作られたと言われていますが、戦争で破壊されてしまいました。なので、所々欠けていますが、その造形は素晴らしく、
崇高な龍の姿を表しています。
まずは、正面から顔を見てみましょう。意外と面長な顔立ちで、前に突き出した大きな鼻が特徴的です。ぎょろりとした目玉はくぼみ、眉間の辺りにはしわが寄っています。さて、この龍はどこを見ているでしょうか。目線をたどると、どうやら下の方を見ているようです。壊れる前は高さが4メートル近くあったため、近づいてきた者をにらみつけるように下を見ていたことがわかります。さすが正殿の守り神です。では続いて、大きな鼻に注目します。鼻の下にあるふたつの模様が気になりますね。ヒトデか紅葉のようにも見えますが、これはヒゲの表現の一部だと思われます。次に口元を見てみましょう。ぐっと閉じた口は、横を見ると目元の下まで繋がっています。とても大きな口です。欠けていますが、脇から牙がとびだしています。さらに、もう一度正面の真下から龍の口を見てみてください。2本の出っ歯が見えます。一見怖い龍ですが、愛嬌も感じられますね。次に、顔を横から見てみましょう。頰からギザギザと生えるヒゲや尖った耳、顔に沿って生える柔らかい毛がそれぞれ表現されています。彫り方だけで硬い石の質感を変化させる技術は見事です。現代のような機械はないので、もちろん手彫りですが、当時の職人は非常に高い技術を持っていたことがわかります。
さて、真横から見ていると、龍の頭に空洞があることに気づきます。まっすぐ首を伸ばして立っているかと思えますが、そうではなく、首から頭を下ろして鎌首をもたげた姿なのです。このように、正面から見ているだけでは気付かない造形の面白さがあります。見る角度によって表現が違うので、色々見比べてみると発見があるかもしれません。ぜひ3Dを回しながら、観察してみてください。実は、この龍柱のどこかに
宝珠を掴んだ前脚が表現されています。宝珠は、少し頭がとがった丸い形の玉です。龍が持つ宝珠は、願いを叶える玉と言われます。宝珠を見つけたら、皆さんは、何をお願いしますか。
2.
獅子頭
(沖縄県立博物館・美術館編 2018『開館10周年記念 博物館収蔵資料100選』より)
獅子頭は、沖縄各地に伝わる獅子舞の面です。中国から伝わったとされる獅子舞は、百獣の王である獅子の力で魔物や邪鬼を払い、村落祭祀では祭りの場を清める役割をします。本土の獅子舞では、唐草文様の布を被り独り立ちで舞うのに対し、沖縄の獅子舞は、獅子頭と胴体の着ぐるみがセットになり、獅子頭と前脚、後脚と尾の部分の2人体制で踊られます。獅子は、ホラガイや笛、三線等の囃しにのせて踊り手二人が息を合わせ、寝返り、立ち上がりなどユーモラスな技を連続して行います。その踊りも、村々によって違いますが、何よりも獅子頭は、その地域に伝えられてきた風貌を受け継いでいます。
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学芸員 澤浦亮平