最終更新日:2020.03.16
第1章「手わざの秘密を探る」コーナー
「石彫の世界」コーナー
「王都のくらし」コーナー
沖縄県は戦後復興の中で、工芸王国として認められてきた。国や県指定の工芸技術や選定保存技術の指定件数は全国有数である。復帰後、喜如嘉の芭蕉布、読谷山花織、首里の織物、久米島紬、宮古や八重山の上布織物や紅型、漆器、陶器、琉球藍製造は、次々と国や県指定になった。今から20年前、これら団体の結束を図るため沖縄県無形文化財保持団体協議会が発足し、文化庁予算を活用して工程見本づくり、手わざの映画製作などを行なったことがある。この事業を行なうことで、保持者らの作品づくりを通して、その製作技術を保存し、現代の手わざの技術見本を保管できた。ただその時は、十分な時間がなく、学術的な深化の余力がなかったことの反省もあった。
沖縄振興特別推進交付金(一括交付金)は沖縄振興特別措置法の中で、沖縄の自立的・戦略的発展に資するものとして、平成24年度~令和3年度までの期限付きの事業である。博物館では、平成27年度から令和3年度までの7年計画で、王国時代の手わざを現代に甦らせ、発信する琉球王国文化遺産集積・再興事業を起した。この事業は20年前の経験から生まれた。資料を収集、調査、展示、教育普及する機能を有する博物館ゆえにできた事業だ。明治以降の近代化や75年前の沖縄戦で消失した有形・無形の文化遺産に関して、絵画、彫刻(木彫、石彫)、工芸品(漆芸、陶芸、染織、金工、三線)の8分野65件のその製作技術を復元し、展示を通してその成果品や新たな知見を発信する博物館の戦略的事業だ。原材料や用具にこだわり、その製作の手順、工程にこだわった製作を行なうことで、単に同様なものを製作する以上に、王国時代当時の形や色彩、製作技法を現代に蘇らせる現代の文化財の製作事業でもある。製作者は、可能な限り県内で活躍する人材を活用することに努めた。それでも、絵画、木彫や金工の一部の技術は途絶えたものがあり、県外の職人の支援をいただいた。この事業に係わった研究者、職人等は延べ300人を超える。その対象物の一部は、戦前沖縄の王国文化の輝きに魅力され、研究された鎌倉芳太郎の『沖縄文化の遺宝』を参考にした。戦争で失った文化財写真や博物館が所蔵する木や石の欠片、布裂からも復元した。また、国内外に所在する王国時代の文化財や那覇市所蔵の貴重な国宝も対象にした。
実在するモノを、鑑賞を通して、色彩や文様を調査する、いわゆる学芸業務と、無から形を形成し、飾りつけを行なう製作業務は異質な業務である。今回の事業では、失われたモノは、博物館等が所蔵する類似資料を参考にした。非破壊の科学分析を行ない、モノの素材や構造、着色される顔料等の組成元素の成分分析を行なうことができる。それらの知見を踏まえて、原材料、用具の選択、製作の作業手順や方法を検討し、最終的には、職人がもつ手わざに委ねる。監修者ともどもに試行錯誤の中で、現段階の最高レベルの模造復元品を作り上げた。そこには、王国時代の職人たちの手わざや息づかいと同調する現代の職人魂やその心意気があり、追体験の学びがあった。
各分野を通して、王国時代のものづくりの心と美意識がみえてきた。模様の大らかさ、計算した上のゆるやかさ、切れ味鋭い緊張感を抱かせるのでなく、包容力のある温かさを感じさせる工芸の力。工芸品は、鑑賞されるのでなく、使われてはじめてその良さが体感できる。
今回の事業では、各分野とも多くの新たな知見が得られたが、最も大きな成果は、戦後世代が戦前の失った文化遺産の一部を再興し、その価値を再認識し、次代につなげる契機を作ったことである。これこそが博物館の働きの真骨頂といえる。この事業の第一弾の発信が2月4日~3月15日まで博物館で開催した特別展「手わざ-琉球王国の文化-」で、新型コロナウィルスの影響もあった中で、4500人余の入館者を数えた。今後、県内外の巡回展を計画している。この展覧会では、博物館の心意気と現代に甦った琉球王国の職人と現代職人の美の競演をみせることができる。
主任学芸員 園原 謙
主任学芸員 園原 謙