
最終更新日:2026.04.20
沖縄の春の風物詩に清明祭があります。清明祭とは二十四節気「清明」の時期に親族が墓前に集まり、祖先を供養する行事です。『球陽』尚穆王17年(1768)の項に清明祭についての記述があり、少なくとも18世紀後半には行われていたことがうかがえます。その後、首里士族を中心に広まり、次第に地方農村へも伝わっていきました。一方で沖縄島北部や宮古・八重山では、正月旧十六日祭のほうが一般的に行われるなど、地域差が大きい行事でもあります。清明祭の特徴は、「ウサンデー」としてお供えした料理を墓前で食する点にあります。清明祭が行われる4月上旬は、寒さが落ち着きおだやかで過ごしやすい時期であるため、墓前で飲食して語らう時間は親族や門中(父系出自集団、墓に入る単位となる)の親睦を深める機会にもなっています(写真1)。地域や家庭によって細かな違いはありますが、清明祭では、ごぼうや大根の煮しめ、揚げ豆腐、かまぼこ、三枚肉、昆布巻き、魚の天ぷらなどを詰めた重と、白餅を入れた重をお供えします(写真2)。このお供え物は「重箱料理」と呼ばれ、沖縄の行事食の定番です。

写真1 清明祭の様子(南城市佐敷) 写真2 清明祭のお供え物の一例(南城市大里)
沖縄県立博物館・美術館常設展の民俗部門展示室では、沖縄の行事に合わせた祭祀料理の展示を行っています。2026年4月は重箱料理(レプリカ)を展示しています(写真3)

写真3 民俗部門展示室の仏壇展示
お墓でお供え物を飲食する清明祭の光景は、日本のなかでは「珍しい習俗」として取り上げられることが少なくありません。一方で、広く東アジアに目を向けると、中国・台湾では「清明節(节)」との名称で同様の習俗が行われています。本コラムでは台湾の清明節、特に食べ物について紹介します。
台湾の「清明節」は「掃墓節」とも表現され、沖縄同様、お墓参りの日とされています。台湾では清明節(2026年は4月5日)が公休日とされ、前日4月4日の「児童節」(こどもの日)と合わせて連休となっています。墓参りの習俗という点においては、沖縄との共通点が指摘できますが、行事食は大きく異なります。台湾の清明節では、特色のある食べ物を食べる日とも認識されています。その背景には、「寒食節」と呼ばれる祭日との関係があります。寒食節は冬至から105日後(清明の数日前)にあたり、この日は火気の使用禁止のほか、あらかじめ用意しておいた冷たいものを食べる習俗がありました。清明節と寒食節は日取りが近いため、その影響から、火を使わない、あるいはあらかじめ用意した食べ物を食べる習俗と結びついて理解されることがあります。
火を使わない清明節の食べ物の代表例が「潤餅」です。潤餅は薄い皮で野菜や肉を包んだ生春巻のような食べ物です。潤餅に包む食材や店や家庭によって異なりますが、台湾南部の台南の潤餅はキャベツやもやし、台湾ソーセージ、卵焼きにパクチーやピーナッツがアクセントとなっています。清明節の時期は潤餅の屋台に大行列ができています。また、台湾では北部と南部で潤餅の味にも違いがあると言われており、南部の潤餅は砂糖が多く入った甘めの味付けが特徴です。(写真4)

写真4 台湾の潤餅屋(台湾台南市)
そのほか、「草仔粿」や「紅龜粿」も清明節の定番です。草仔粿はもち米、あんこ、ヨモギから作られ、日本の草餅に似たお菓子です。紅龜粿は亀の甲羅に似た赤い餅菓子で、中には小豆やピーナッツ、ゴマなどが入ることが多いです。亀甲文様は長寿と平安を象徴し、赤色が吉祥を意味していることから、祭祀の供え物として食されます(写真5)。

写真5 紅龜粿が売られている風景(台湾台北市)
日本国内では「珍しい」とされる沖縄の清明祭も、東アジアに目を向ければ、共通する文化の広がりのなかで捉えることができます。一方で、沖縄の清明祭と台湾の清明節の食べ物を比べてみると、それぞれの地域ならではの違いも見えてきます。こうした「共通性」と「独自性」に気づくことも、文化を学ぶ楽しさの一つといえるでしょう。
学芸員 大城沙織