あなたはジュゴンを見たことがありますか?
ジュゴンは「人魚」と呼ばれることもあるカイギュウ目ジュゴン科の海棲(かいせい)哺乳類で、現生動物ではゾウに近縁な生き物です。成体では体長約3m、体重450㎏ ほどになります。太平洋とインド洋の熱帯~亜熱帯海域に分布し、沖縄はその北限に位置しています。かつては沖縄近海にも多く生息していましたが、乱獲や混獲によって個体数が減少し、近年では絶滅が危惧(きぐ)されています。ジュゴンの飼育・繁殖は難しく、世界でも三か所の施設で三頭だけが飼育されています。そのうちの一頭は三重県の鳥羽(とば)水族館で飼育されている「セレナ」で、長年にわたって人々に愛されてきました。
海草を主食とするジュゴンは、豊かな海草藻場(もば)を必要とします。海草藻場にはジュゴンだけでなく、様々な魚介類が集まり、豊かな漁場にもなっています。海とジュゴンそして人は、この島で何千年にもわたって共存してきたのです。沖縄では、約1万年前から1000年前まで約9000年間にわたって、人と海が調和した貝塚のくらしが長く続きました。沖縄には、昔の人々が捨てた貝殻が堆積した遺跡としての貝塚が358 カ所あり、これは全国の中でも千葉県(744 箇所) 、茨城県( 376 箇所) に次いで第3 位の数です。貝塚人が築き上げた海洋文化は、その後のグスク時代や王国時代にも続く基層的文化となっていきました。
ところが、この百年ほどで沖縄の海域環境は激変してしまいました。ジュゴンが棲み処としていた豊かな海は護岸や人工物で覆われ、沿岸漁獲量も1990年代以降減少を続けています。温暖化によって進行するサンゴ礁の白化現象も、年々深刻なものとなっています。1998年に確認された世界規模での白化現象以降も、毎年のように大規模な白化現象が報告され、沖縄のサンゴ礁は取り返しのつかないダメージを受けています。海洋汚染も深刻です。世界各地でプラスチックゴミが海を覆い、人類が現在までに作り出したプラスチックの総量は、70億の世界人口に対して1人あたり1tに達すると言われています。
現在、世界の海洋環境は危機的状況を迎えています。かつては共存していた海とジュゴンそして人の関わりは、なぜ大きく変化してしまったのでしょうか?豊かな海と人が共存していた古代のくらしを知ることで、現代そして未来の人と海との関わりを考える上で、新たな手がかりが得られるかもしれません。幸いにも、古代の人々が残した貝塚には、人と海との関わりを物語る多くの情報が詰まっています。貝塚は古代のビッグ・データを秘めたタイムカプセルなのです。
2021年10月15日(金)より開催中の企画展「海とジュゴンと貝塚人―貝塚が語る9000 年のくらし―」では、貝塚から出土するジュゴンの骨や人骨、さまざまな動物骨や貝殻などから、古代の人々の「豊かなくらし」を読み解きます。
さあ皆さんも、今こそ貝塚をめぐる古代への冒険に出かけてみませんか?
企画展「海とジュゴンと貝塚人ー貝塚が語る9000年のくらしー」
会 期:2021年10月15日(金) ~ 2021年12月05日(日)
会 場:沖縄県立博物館・美術館 特別展示室
観覧料:一般 1,000円(800円)、高校・大学生 500円(400円)、小・中学生 200円(160円)
※( )内は前売りおよび20名以上の団体料金
※ 障がい者手帳か療育手帳をお持ちの方と介助者の方1名は無料
【プレイガイド】
ミュージアムショップゆいむい(沖縄県立博物館・美術館内)、ローソンチケット(Lコード 81546)
※前売券は、2021年10月14日(木)まで販売
開館時間:9:00~18:00(金・土は20:00まで) ※入場は閉館の30分前まで
休館日:毎週月曜日
主催:沖縄県立博物館・美術館
共催:うるま市教育委員会
後援:沖縄県教育委員会 沖縄考古学会 日本動物考古学会 沖縄タイムス社 琉球新報社 NHK沖縄放送局 沖縄テレビ放送 琉球放送 琉球朝日放送 ラジオ沖縄 FM琉球
ジュゴンの剥製(沖縄県立博物館・美術館 所蔵)
伊波貝塚(うるま市)の貝層
主任学芸員 山崎真治