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現在の集落に見る石積みについての雑感②

最終更新日:2026.03.13

(前回からの続き)

5.集落に見られる石積み技法

 現在の集落内に見られる石積みの多くは野面積みになりますが、これら石積みの表面に見られる面石を外すと、その内部には裏込め石と呼ばれる小さな石が充填されています(写真1)。この裏込め石については面石の控え部分が石積み内部で噛み合うことで、強度を高めて崩壊を防ぐといった役割があります。更に雨水が石積み内部に入っても裏込め石の隙間を通って地下へ排水されていくという効果もあります。

写真1 面石と裏込め石(前島集落跡)

 このように裏込め石は野面積みをはじめとする沖縄の伝統的な石積みでは一般的に見ることができ、言わずもがなその始まりはグスクの石積みになります。
 また、面石を組み上げていく際には上部の石を支えるために下部の石は2石以上であることも集落に見られる野面積みでよく見ることができます(写真2)。この点についても石積みが簡単に崩落しないための工夫であると言えます。

写真2 野面積みの積み方(矢印は加重の方向を示す)

 戦後に築かれた野面積みの石積みについては石と石の間にモルタルを入れて接着し補強するといった工法を割と目にすることがあります。この場合においても裏込め石を内部に充填している石積みも多く見ることができます(写真3)。

写真3 モルタルで固められた石積みの裏込め石(祖納集落)

6.独自に発展していく集落の石積み

 先に触れたように近代に入ってから集落内に石積みが普及していく中で、独自に積み方が発展していった地域があります。それは慶良間諸島で、以前に当コラムで紹介した前島集落跡の石積みはその典型であると言えます。
 前島集落跡の石積みについては以前の学芸員コラムに詳しく触れたので、ここでは簡単に触れますが、テーブル状のサンゴ石を多用していることと、そして斜めにして組み上げていくといった特徴があります。

※渡嘉敷村の前島集落跡の石積みについては学芸員コラム「慶良間諸島の東にある廃村遺跡⑤ ―前島集落跡に残る石積みの謎を解き明かす―」で詳しく触れておりますので、気になる方は下記URLからアクセスして下さい。
http://okimu.jp/museum/column/1766622871/


 このような石積み技法は阿嘉島や座間味島の集落でも板状に加工したサンゴ石を斜めに組み上げていくといった石積みを散見することができることから、おそらく同様の石積み技法が島々で共有されていることが窺われます(写真4)。


写真4 座間味集落の石積み(上)と阿嘉集落の石積み(下)

 そして、前島集落跡は昭和初めごろに石積みが集落のほぼ全域に築かれ、そして阿嘉集落でも近くの海岸にある石切り場が大正から戦前にかけて集落の石積み構築のために切り出されていることから、短期間に慶良間諸島では各地において独自の技術で石積みが構築されていったことが解ります(写真5)。

写真5 阿嘉の海岸に見られる石切り場跡

 更にテーブル状のサンゴ石や板状に加工したサンゴ石を多用する石積み技法は慶良間諸島以外ではほとんど見ることが無いことから、慶良間諸島内で発展していった石積み技法であると言えます(写真6)。

写真6 各集落位置図

7.石積みを通して集落景観を見てみる

 伝統的な集落景観と言っても実はそれほど古くはなくまた、現在見られる集落の風景とは大きく異なっていることは往々にしてあることを集落の石積みを通して理解していただいたかと思います。
 重要なのは我々が今見ることができる石積みがどのような形でどのような技術が投影されているのかをしっかり観察し、そして歴史的な事実へと紐付けていくことにあります。そのためには石積みが築かれた時期、石積み技術の特徴、そしてその分布域を押さえていくことがその地域の石積みについて理解を促していく上での第一歩であると言えます。
 更には石材が供給されている場所、すなわち石切り場跡との関係を見ていくことで石積み構築に関わった人々の動向まで読み取ることができます(写真7)。このように石積みを築く技術を体系的に捉えることで初めて集落における石積みの意味、そして現在の集落景観の実態を見出せていけるものと考えています。

写真7 読谷村 宇座海岸の石切り場跡

8.集落を見て歩く

 去る2月14日に南城市で知名集落内の各所を歩きながら歴史を学ぶワークショップが沖縄県立玉城青少年の家、南城市教育委員会の主催で実施されました(写真8)。

写真8 知名での集落めぐりの様子(沖縄県立玉城青少年の家提供)

 この中で石積みが井戸跡や屋敷周り、拝所などで見ることができました。それぞれが知名集落の景観に馴染んでいると共に、それらは知名集落の方々にとっては身近にある歴史を刻んだ遺産であることを強く感じました(写真9)。更に参加者の方から知名には石工職人が住んでいたという情報を提供していただきました。集落近くの知名崎にて戦前に採石が行われていたことから、かつて石工職人が知名にも在住されていたとのことでした。

写真9 知名集落に残る野面積みの石積み

 このように集落の石積みには様々な地域の知られざる歴史情報が含まれていることから、近い将来に集落景観が変化していくとしてもそれら石積みは永く守られていくことを強く願うところです。
                                                 (おわり)  

主任学芸員 山本正昭

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