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慶良間諸島の東にある廃村遺跡⑤ ―前島集落跡に残る石積みの謎を解き明かす―

最終更新日:2025.12.25

(前回からの続き)

1.前島集落で採れる石材

 前島では海岸線沿いや山中で砂岩や千枚岩の露頭を確認することができます。しかし、琉球石灰岩については全く見ることができません(写真1)。このことは前島が砂岩や千枚岩で形成されている島であることを意味しています。

写真1 前島の海岸縁にある岩の露頭

   一方、前島集落跡に見られる石積みを見るとほとんどが琉球石灰岩のような灰白色の石材で積まれているのが見て取れます(写真2)。これは一体どういうことでしょうか。ひょっとすると沖縄本島をはじめとする周辺の島々から琉球石灰岩が大量に船で運ばれてきたのでしょうか。それとも島内のどこかで切り出されたのでしょうか。
今回は前島集落内に見られる石積みの謎について迫ってみたいと思います。

写真2 集落内にある石積み

2.集落内で見られる野面積みの種類

 前島集落跡に見られる石積みは屋敷を囲うための垣として使われており、その大半は加工が施されない石材を巧みに積み上げた野面積みになります。この野面積みの石材をよく見てみるとサンゴの組織や形が窺えることから、実は琉球石灰岩ではなくサンゴ石になります(写真3)。

写真3 石積みに使われているサンゴ石

  サンゴ石の多くは琉球石灰岩よりも新しい時期に生成された石材になります。また、サンゴ石は琉球石灰岩と比べて柔らかいので、低い石積みを立ち上げる時に使われている場合が多く、また切石として加工されているサンゴ石を前島集落の一部の石積みに見ることができます。
 野面積みは石材の形に合わせて積み上げていきますが、前島集落跡に見られる石積みはテーブルサンゴを石材として使っていない野面積み(写真4)、テーブルサンゴを混在させている野面積み(写真5)、テーブルサンゴを主体として積まれるまたはテーブルサンゴのみを積んでいる野面積み(写真6)に分けることができます。

写真4 サンゴ石のみを使った石積み

写真5 テーブルサンゴを使った石積み

写真6 テーブルサンゴ主体の石積み


 もっとも特徴的なのはテーブルサンゴを主体またはテーブルサンゴのみで積んでいる野面積みになります。セオリー通りで言うと石を積んでいく時、平石は水平に据えて積み上げて横方向に目地を通すのですが(写真7)、この石積みはテーブルサンゴを斜め方向に据えていることから斜めに目地が通っています(写真8)。

写真7 座間味島のシルグスク石積み

写真8 テーブルサンゴのみを使った石積み


 この野面積みは石積みを高く積む、若しくは崩れにくくするという点ではあまり向かない積み方であることから、デザイン性に重きを置いているような積み方であると言えます。

3.拝所近くで見られる切石積み

 一部において石積みで切石を見ることができますが、それは前島集落跡の中でも最も北側に位置する「殿内」周辺に集中しています。かつてのノロ屋敷とされる「前殿内」を囲っている石積みは立方体状に加工された石材を積み上げていく布積み(写真9)で、「前殿内」の南隣にある屋敷を囲う石積みは不正形に加工された石材を積み上げていく、あいかた積みとなっています(写真10)。個々の石材は精緻に加工されていることから、野面積みと比べて立ち上げていくのに手間と時間がかかっていることと、専門の石積み職人が関係していることが窺われます。

写真9 前殿内の石積み

写真10 前殿内近くの石積み


 かつて前島集落で重要な拝所であった殿内とその周辺は他の屋敷区画よりも特別な空間と見なされていたことが石積みの積み方の違いにより理解することができます。それは殿内周辺を聖域としての威厳を高めるといった意味合いがあったものと考えられます。

4.果たしてどこから石材を採ってきたのか

 琉球石灰岩ではなく前島集落跡の石積みはサンゴ石を使っているとなると、前島内でサンゴ石が採れるのかという疑問が湧いて出てきます。
 実は前島集落跡のすぐ東側に広がる海岸「メーバラヌハマ」を見るとサンゴ石の切り出し跡を見ることができます。その一部には直線状に切断されたような形状になっている場所があるのが分かります(写真11)。

写真11 ミィドゥマイに見られるサンゴ石の切り出し跡

 この場所は「ミィドゥマイ」と言って昭和の初めごろ、前島周辺で採れた魚介類を沖縄本島方面だけでなく海外にまで売り捌く前島集落の住民が増えたことにより、ダイナマイトを使って海底のサンゴ石を割取って泊が新たにつくられました。上空から見ると前島集落跡近くの浜に向かって水路状に深くなっているのが分かります(写真12)。

写真12 前島集落跡とミィドゥマイの位置関係

 このミィドゥマイを築く際に割取られたサンゴ石を集落内の屋敷を囲う石積みの材料として使ったようで、それ以前まではギギチャと呼ばれる低木で囲われていた屋敷周りになっていました。
 このように今から約100年前に、ほぼ全域が石積みで囲われるようになったことで前島集落内の景観は一変することとなりました。                                              (次回へ続く)

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主任学芸員 山本正昭

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