はじめに
令和7年11月18日から八重瀬町立具志頭歴史民俗資料館にて企画展『国の礎となった尚巴志王統の残像を探る』が開催されていますが、早いもので最終日の12月21日まで残りわずかとなりました。
この企画展に合わせて11月29日に展示解説会を行いましたが、24名もの参加者が集まり、その場で様々なご質問や感想を賜りました(写真1)。参加された皆さんは第一尚氏にゆかりのある方、琉球史について興味、関心がある方、展示内容が面白そうなので、といったように参加の動機は様々で、とても有意義な時間を過ごさせていただきました。参加者の中には冨里・當山地区で12月7日に行うフィールドツアーに参加されるという方もいらっしゃったので、今回は冨里・當山地区と第一尚氏について触れていきたいと思います。
写真1 八重瀬町立具志頭歴史民俗資料館での展示解説会
1.知られざる冨里・當山の歴史
現在の南城市は4つの町村が平成14年に合併してできた市になりますが、冨里地区にはかつて、合併前の町村の一つ玉城村の村役場がありました。
かつての玉城村の中心であったとも言える冨里地区には第一尚氏に関係する遺跡が多く点在しています。その代表的な遺跡として主留前殿内があります(写真2)。
写真2 主留前殿内
ここは第一尚氏第6代国王である尚泰久の長男、次男、三男が首里から落ち延びて仮住まいした場所であるという伝承が今に伝わっています。
尚泰久の長男、次男、四男の3王子は護佐丸の娘と尚泰久との間にもうけた息子たちで、1458年に護佐丸を尚泰久が討伐したことで3王子は密かに首里から逃亡することになります。落ち着いた先は冨里集落の北側に位置する主留前殿内で、その後は長男である安次富金橋は安次富グスク、次男である三津葉多武喜は大川グスクを築き、四男である八幡加那志は仲栄真グスクを改築してそれぞれ居を構えることになりました。
安次富グスクと大川グスクは當山集落内に仲栄真グスクは冨里地区にあり、それぞれが近接しています。
別図 尚泰久王とその子女の系図
2.王子たちの墓
この3王子が主留前殿内へ逃れてきて約11年後に尚泰久の長女である
百十踏揚が弟の三津葉多武喜を頼って當山の大川グスクへ逃れてくることになります(写真3)。それは1469年の金丸によるクーデターにより、第一尚氏の関係者は首里から四散し、夫であった越来賢勇も討たれたことにより百十踏揚も越来から密かに逃亡することになりました。
写真3 大川グスク
この百十踏揚は冨里・當山の地でその人生を終えたとされており、その遺骨は三津葉多武喜の墓に合葬されています(写真4)。かつては現在の玉城中学校敷地内にある大岩に遺骨が納められ墓としていましたが、戦後の学校建設に伴って現在の場所に遺骨が移されました。
写真4 百十踏揚、三津葉多武喜の墓
また、長男である安次富金橋の墓は當山地区にありますが、その隣には尚泰久の墓があります。もともと尚泰久の墓は現在のうるま市石川の伊波にありましたが1908年に安次富金橋のご子孫により現在の場所へ移されました(写真5)。
写真5 尚泰久王の墓(左)と安次富金橋の墓(右)
最後に四男である八幡加那志の墓も當山地区内にあり、現在もその関係者によって拝まれています。
3.3人の王子はなぜ冨里・當山へ逃れたのか
ここではなぜ3王子は冨里・當山へ逃れてきたのかという一つの疑問が挙がってきます。この疑問に対する明確な回答はありませんが、それを知る手掛かりが當山集落内にあります。それは布里の墓になります。
布里は第一尚氏王統第2代国王である尚巴志の息子で尚泰久の兄にあたり、甥の志魯と1453年に王位継承を争って敗れた人物になります。この布里も首里から冨里・當山へ逃れてきた人物であるという伝承が残っています。最終的に3王子はこの布里を頼って冨里へ逃げてきたことが考えられます。と同時に布里についての人物像についても触れていかないといけません。
(次回へ続く)
◎おすすめの講演会情報
「琉球王国・尚王統成立600年記念講演会」
令和8年1月18日に沖縄県立博物館友の会主催の文化講演会を行います。当館館長の里井洋一、同じく当館学芸員の大城直也による第一尚氏に関連した講演をおこないます。2名の講師ともそれぞれの専門分野から第一尚氏の実態について迫っていく内容となっております。詳細につきましては下記のチラシをご覧ください。
①開催日時:2026年1月18日(日)13:00~16:30
②講師:里井洋一(沖縄県立博物館・美術館 館長)
大城直也(沖縄県立博物館・美術館 学芸員)
③参加定員:200名
④参加方法:当日受付・先着順
⑤参加費:無料
主催:沖縄県立博物館友の会
共催:沖縄県立博物館・美術館、沖縄美ら島財団
◎おすすめの催事情報
フィールドツアー
「南城市de歴史散歩 知名地区―太平洋を望む東御廻りの聖地と接した集落―」
内容
南城市知名にて知名集落内の史跡をめぐるフィールドツアーを沖縄県立玉城青少年の家が主催して実施します。知名集落内には東御廻りの巡拝地の一つである知名大川や神の島とされる久高島の遥拝所といった史跡が数多く存在しています。今回は知名集落の成り立ちについてこれらの史跡をめぐりながら知見を広げていく内容となっています。
①開催日時:2026年2月14日(土)13:30~16:30
②講師:山本正昭(沖縄県立博物館・美術館 主任学芸員)
③参加定員:20名
④対象:小学3年生~(小学生以下は要保護者)
⑤参加費:一人1,000円
⑥申込み方法:電話または来館での事前申し込み
⑦申込み期間:2026年1月29日(木)~2月9日(月)にかけて事前申し込み
(tel:098-948-1513 沖縄県立玉城青少年の家)
主任学芸員 山本正昭