はじめに
前回は、第一尚氏王統の時期がどのような時代背景を持っていたのかについて、主に征討と戦乱をキーワードにして触れていきました。今回はこの王統の全盛期を築き上げた第2代国王である尚巴志を偲ぶことができる尚巴志王之墓を取り上げていきたいと思います。
1.王の墓が暴かれそうになったので移転
尚巴志は1429年に山南を滅ぼし、三山統一という覇業を成し遂げます。沖縄本島にて3つに分かれていた国を統一するといった、前代未聞の成果を打ち出した尚巴志でしたが1439年に首里城にて67歳で逝去します。その亡骸は首里の天山陵へ葬られて、その後の歴代国王達もまた天山陵に追葬されていくことになります。
この状況が一変したのは1470年で、その年に金丸によるクーデターが勃発したことから、天山陵が暴かれる事態に直面します。
伝承では尚巴志の関係者がそれを事前に察知し、密かに天山陵から尚巴志の遺骨を運び出して別の場所に安置することになったとされています。その際には他の王達の遺骨も天山陵から運び出されて、各地に散在することになりました。尚巴志の遺骨が移された場所については秘匿されながら様々な場所を転々としていましたが、最終的に読谷村伊良皆のとある森に安置されることになりました。これが現在「尚巴志王之墓」と呼ばれる場所になります(写真1)。
写真1 尚巴志王之墓
2.現在見る尚巴志王永眠の地
尚巴志王之墓がある読谷村伊良皆のとある森とは、現地では「サシチムイ」と呼ばれている森になります。「サシチムイ」とは「佐敷の森」という意味であり、元々は尚巴志が南城市佐敷を根拠地にしていたことになぞられています。ムイと呼ばれる小さな丘を覆う木々の中に尚巴志王之墓があります。墓口は現在、コンクリートで塞がれており、その中には尚巴志以外にも次男の尚忠、孫の尚思達の遺骨もこの墓に納められていると伝えられています。
実際にこの墓の内部がこれまでに詳しく調査されていないことから、尚巴志の遺骨についての有無は分かっていません。しかし、サシチムイが現在も尚巴志が永眠する場所として拝まれ続けていることに関しては否定することはできません。
それでは現在までこの墓を守り伝えてきたのはどのような人々であったのか。それを知るためにはこのサシチムイの周辺を散策するとそのヒントを見つけることができます。
3.王の墓を守り伝えた人々
サシチムイには
尚巴志王之墓以外に平田子之墓、屋比久子之墓と呼ばれる2つの墓があります。
何れも石灰岩の岩陰を利用した墓口はコンクリートで塞がれています。
写真2 平田子之墓

写真3 屋比久子之墓
平田子之墓(写真2)には平田子の遺骨が納められていると伝わっています。平田子は尚巴志の長男であり、尚巴志の実弟である平田大比屋の跡目を継いだ人物になります。屋比久子之墓(写真3)には尚巴志の孫で平田子の三男になる屋比久子の遺骨が納められていると伝わっています。参考までに両人物と尚巴志との関係系図を示しておきます。(写真4)
写真4 尚巴志、平田子、屋比久子の関係系図
これら
平田子之墓と屋比久子之墓は共に尚巴志王之墓近くにあることから、平田子と屋比久子の子孫がこの尚巴志之墓を含むサシチムイを護り伝えてきたと見ることができます。また、天山陵が暴かれるのを察して、尚巴志の遺骨を密かに運び出したのは平田子と屋比久子で、最終的にこの地に墓を移すに至ったとも考えられます。
4.尚巴志の遺徳
すでに冒頭で触れましたが、琉球王国史上において稀代の英雄とも言える尚巴志は1439年に逝去し、現在は読谷村伊良皆にあるサシチムイにてその墓を見ることができます。一方で英雄の遺骨がこの尚巴志王之墓に現在も納められているかどうかは分かっていません。
しかし、この地が尚巴志の遺徳を偲ぶ場所として長年にわたり受け継がれてきたことは、沖縄の歴史において尚巴志はその存在感を長年にわたって放ち続けていたことを意味しています。このことはまた、尚巴志王之墓は尚巴志の遺徳を将来へ護り伝えていく記憶継承の場所であることからも大いなる歴史遺産としての価値を見出すことができます。
ちなみに尚巴志が国王となった意味については過去の学芸員コラムにて触れておりますのでさらに詳しい内容が知りたい方は以下のURLへアクセスしてください。
学芸員コラム「尚巴志王が国王となったことの意味」
http://okimu.jp/museum/column/1671523904/
第一尚氏王統は国としての体裁が整う前に崩壊してしまいましたが、尚巴志は琉球王国を形作る上で大きな役割を果たした人物であると言え、今後においてもその人物評は大きく変わることは無いでしょう。
(沖縄県立博物館・美術館主任学芸員 山本正昭)
◆第一尚氏等のエントランス展示情報と文化講座「グスク発掘調査最前線」情報
令和7年9月2日(月)~28日(日)までの期間で沖縄県立博物館・美術館エントランスにて、尚巴志が王を正式に名乗って今年で600年目ということを記念した『尚巴志王統の系譜』の展示会を行います。詳細につきましては下の広報用チラシをご覧ください。
また、7月文化講座「グスク発掘調査最前線」を7月19日(土)午後1時30分から当館講堂にて行います。参加は無料で当日受付となります。詳しくは下記URLをご参照ください。
http://okimu.jp/event/1747721663/
博物館班 山本正昭