1. 『沖縄の自然』を語る生きもの、カタツムリ

『沖縄の自然』を語る生きもの、カタツムリ

最終更新日:2023.09.13

1.「沖縄の自然」を語る生きものとは?

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 皆さんは、「沖縄を代表する生きものは?」と問われたら何と答えますか。きっと「ヤンバルクイナ」や「イリオモテヤマネコ」と答える人は多いでしょう。かく言う私も、仕事で沖縄の自然を紹介する際には、見栄えが良く知名度の高いこれらの希少種を「沖縄の自然の象徴」として紹介することが常です。しかし、これには日頃から少し問題を感じていました。めったにお目にかかれない生きものたちを主役の座に据えることで、「沖縄の自然」を遠い存在にしてしまっている気がするのです。もっと身近な生きものにスポットをあて、足元にある「沖縄の自然」の価値を発信できないか、そう問い続け、ついに出会ったのが「カタツムリ」でした。

オキナワヤマタカマイマイ(沖縄島固有種)
オキナワヤマタカマイマイ(沖縄島固有種)
 

2.「カタツムリ」たちが語るのは「琉球列島の生い立ち」

 2021年、琉球列島(奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島)は世界自然遺産に登録されました。その遺産価値は、一言で言えば、固有種たちの存在です。固有種たちは、琉球列島が何百万年もの長い年月をかけて大陸から切り離され、細かく分断される過程で、島々に隔離された結果誕生しました。その歴史的な背景こそが重要なのです。「島々に隔離された生きものたち」とはどんな生きものでしょう。分かりやすい例が両生類や爬虫類です。飛んだり、泳いだりできないため海を渡れない彼らは、島に隔離されると独自の進化を遂げ固有種となるのです。同じ理由で島を行き来できないのが陸貝、つまりカタツムリの仲間です。沖縄には日本産約800種のうち、約140種ものカタツムリが分布していますが、そのほとんどが固有種です。カタツムリたちは、琉球列島の地史を語る生き証人なのです。

イヘヤヤマタカマイマイ(伊平屋島固有種)
イヘヤヤマタカマイマイ(伊平屋島固有種)
 

3.出会いはカタツムリのリアルフィギュア

 仕事柄、知識としてカタツムリに固有種が多いことは知っていました。しかし、展示や教育普及に生かすことは考えもしませんでした。そんな中、カタツムリの軟体部を復元して貝殻にくっつけ、まるで生きているかのようなフィギュアを作る達人(河野甲氏)がいる、という噂を耳にして、会いに行きました。そして、すっかり意気投合し、『ゆる~い かたつむり展』(2021年12月~1月)の開催に繋がりました。河野氏の素晴らしいフィギュアをこれでもかと詰め込んだこの展覧会は、緊急事態宣言中にもかかわらず、多くの人が足を運んでくださり、大変好評に終わりました。
(詳しくはこちら⇒https://okimu.jp/museum/column/1641981790/

かたつむり展の様子
かたつむり展の様子
 

4.足元にいる「沖縄の宝物」

 『かたつむり展』以来、気づけばどこに出かけてもカタツムリが目に飛び込むようになり、私の自宅の周囲だけでも、なんと10種以上のカタツムリがいることに気づきました。しかも、その大半が沖縄の固有種。こんな身近に「沖縄の宝物」がいたなんて! それだけではありません。色や形も多様で個性的。環境に合わせて忍者のように暮らす彼らを見ていると、生命の誕生以来、連綿と続いてきた「進化」という現象について考えずにはいられません。すっかりカタツムリに魅せられた私は、身近なカタツムリの貝殻を拾っては、河野氏の手でリアルフィギュアにしてもらい、展示に活用するようになりました(写真)。

エントランスホールでの展示の様子
エントランスホールでの展示の様子

『進化展』での展示のようす
『進化展』での展示のようす
 

5.この感動を伝えたくて

 カタツムリについて勉強しはじめて2年、まだまだ初心者ですが、こんなにも近くに「沖縄らしい自然」が隠れていることに気づいた私は、どうしてもこの感動を伝えたくて、昨年、意を決して「カタツムリ観察会」を企画しました(2022年10月8日実施)。私自身、名前を調べるのに苦労した経験から、図鑑のような「ガイドブック」を作り、参加者にプレゼントすることにしました。カタツムリの基本的な性質の他、個々の種の特徴について生態写真を交えて紹介し、観察会が終わっても自分でカタツムリの名前を調べてもらえるよう工夫を凝らしました。また、2023年夏には『進化展』の関連催事として、拾い集めた死に殻で立体図鑑を作るという、子ども向けワークショップを実施しました(2023年7月26日実施)。こちらでも、「ガイドブック」を活用してカタツムリについて楽しく学んでもらいました。

ガイドブックを手に観察会を楽しむ参加者
ガイドブックを手に観察会を楽しむ参加者


ワークショップで作った立体図鑑

配布したガイドブック(A5サイズ)
配布したガイドブック(A5サイズ)

※このガイドブックはPDFにして、以下にリンクを貼り付けておきますので、興味のある方はご覧ください。⇒ガイドブックを見る(自由にご活用ください)

 

5.迫りくる外来種の脅威

 そんなカタツムリたちにも外来種の脅威が迫っています。沖縄島に侵入したヤエヤママドボタルです。同じ沖縄県内からの移入種ですが、食欲旺盛、繁殖力が強く、沖縄島のカタツムリたちをどんどん減少させています。数百万年におよぶ琉球列島の生立ちを語る生き証人が今、絶滅の危機にさらされているのです。この問題について多くの人に関心を持ってもらうためには、まず沖縄のカタツムリたちがいかにスゴイ存在なのか、理解してもらう必要があると思っています。

オキナワヤマタカマイマイを襲うヤエヤママドボタル
オキナワヤマタカマイマイを襲うヤエヤママドボタル

※ヤエヤママドボタルについて詳しくはこちらをご覧ください ⇒https://www.pref.okinawa.jp/site/kankyo/shizen/documents/pyrocoelia_atripennis.pdf
 

5.カタツムリは「沖縄の自然」を知る入り口

 確かにカタツムリは地味な生きものかもしれませんが、琉球列島では近年の研究でどんどん新しい知見が増え、ホットな話題が絶えません。そんなカタツムリの魅力を一人でも多くの人に知ってもらい、身近な自然の価値に気づいてもらえるように、これからも展示や観察会などをとおして発信していきたいと思います。
 
リュウキュウハナイカダの葉の上で休むアオミオカタニシ
リュウキュウハナイカダの葉の上で休むアオミオカタニシ

 

主任学芸員 菊川 章

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