1. 狩猟採集から農耕へー復帰50年の節目に人類史の画期を振り返るー

狩猟採集から農耕へー復帰50年の節目に人類史の画期を振り返るー

最終更新日:2023.03.24

 2022年は沖縄の本土復帰から50年目の節目で、今年度はその関連イベント目白押しの年でした。当館でも、復帰そのものをテーマにした展示が開催され、その中で歴史分野だけでなく各分野がトピック展示を行いました。
 
 私は人類学の分野を担当しており、主に遺跡から出土した先史時代の資料を専門にしています。先史人類学では復帰を直接扱うことは難しいので、どうしたものか、と頭を悩ませました。あれこれ悩んだ挙句たどり着いたのは、現代史における復帰のような先史時代の人類史の大きな節目を取り上げる、という苦し紛れの発想です。
 
 異論は数多くあろうと思いますが、私見ではそれは2つあります。ひとつは、アフリカを出発した現生人類が海を越えて琉球列島へ到達したこと。もうひとつは、狩猟採集から農耕へと人々の暮らしぶりが変化したことです。
 
 ひとつ目は、3万年以上前の旧石器時代のことです。この時代は私がもっとも関心を寄せる時代で、日々の調査研究活動の中心テーマになっています。琉球列島に最初に海を越えてやってきた人々はどのような人々で、どんな暮らしを送っていたのでしょうか?次年度はこうした問いに答えるべく、当館が関係諸機関と連携しながら継続してきた調査研究の新しい成果を特別展でお披露目する予定ですので、ぜひお楽しみに。
 
 さて、ふたつ目の狩猟採集から農耕への変化は、いつ起きたのでしょうか?

 最終氷期が終わり全球的に温暖化へと向かう環境変動と期を同じくし、約12,000年前の西アジアで、世界で最初にその変化が起こります。その後、いくつかの地域で独立してこうした変化が起き周辺地域へと波及していきますが、本土日本では、約3,000年前の縄文時代から弥生時代への移行期に渡来民によってこの変化がもたらされます。琉球列島では、それから2,000年ほど遅れ、今からおよそ1,000年前からこの変化が起きました。
 農耕を導入するということは、野生植物を管理下に置き、自然環境を積極的に改変していくということにほかなりませんが、1,000年前までの琉球列島では近隣地域で行われている農耕技術の存在を知りながらもその導入の必要がなかった、あるいは受け入れることのできない事情があった、と見ることもできるでしょう。こう見ると、琉球列島はかつて、自然を大きく改変することなくその恵みだけに頼った暮らしを他地域よりも長く継続した島々だった、ということになります。

 この独自の選択と歩みは、現代を生きる私たちにとても示唆的だと感じます。環境問題の解決と持続可能な社会の実現が叫ばれて久しい昨今、私たちに求められているのは、先進的な科学技術の導入による課題解決法ばかりでなく、狩猟採集活動で島々に3万年近く暮らした先人たちの持続性への理解を深めることなのかもしれません。
 

主任:澤浦亮平

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