久米島にある下地原(しもじばる)洞穴は更新世(約1.8万年前)の乳児の骨格や多量の絶滅シカ類の化石が見つかったことで有名ですが、昨年の10月と今年の3月、洞穴を訪れ予備的な再検討に着手しました(写真1)。久米島町のお許しをいただきシカ化石を含む堆積物の一部を博物館に持ち帰って現在調べているところです。遺跡を調べる仕事の多くは、野外調査にかかる時間よりも室内で行う様々な作業に要する時間のほうがはるかに長いものです。例えば埋まっているモノ(遺物)の回収も野外の発掘作業だけで終わるわけではありません。
どんな手練れの掘り手でも発掘時に小さいものまで含むすべての遺物を回収することは難しいとされています(サンプリングエラーが生じる)。ですので、遺跡の内容について偏りなく調べるためにもサンプリングエラー防止策を講じることがとても大事です。今回いただいてきた堆積物には、微小な遺物(たとえば小さな魚の骨など)を拾いもらさないように水洗選別(2㎜目のフルイを使用)を実施しました(図1)。さらにフルイを透過した残土にもコウモリやネズミのような小さな動物の歯などが含まれていることもありますので、研究材料として大切にとっておきます。
今検討を進めている堆積物サンプルからは残念ながら新しい更新世人類の化石は見つかりませんでしたが、炭化物、シカ類の歯、小動物の骨、海棲貝類のかけらといったものが見つかりました。これらの資料を色々な標本と見比べて、正しく分類し、どのような内容なのか今後明らかにしていきます。洞穴を利用した人々の具体的な暮らしぶりを知るためにはまだまだ時間がかかりそうです。野外調査後にも多くの時間が必要です。
写真1 下地原洞穴の踏査(2020年10月)
図1 下地原洞穴の堆積物の水洗選別
学芸員 澤浦亮平