1. 琉球王族の女性が着た大和の衣裳?-麻白地松桜雲滝模様衣裳について-

琉球王族の女性が着た大和の衣裳?-麻白地松桜雲滝模様衣裳について-

最終更新日:2021.06.17

 令和元年度にご寄贈いただいた資料をご紹介します。白い麻に藍で模様が染められた涼しげな衣裳です。作風から19世紀のものと考えられます。鮮やかな色使いが多い琉球の染織品とは異なる雰囲気ですが、それもそのはず大和(日本)の茶屋染(茶屋辻)という技法で染められています。茶屋染は、江戸時代に武家女性の間で流行した染物です。藍の濃淡で模様を表した麻の単衣で、夏用の衣裳として仕立てられました。こちらの衣裳をご寄贈してくださったのは、尚泰王の子孫にあたる女性です。ご婚礼の際に持たされた衣裳のうちの1点だそうで、大和の染織品が琉球王家で所有されていたことがわかる非常に貴重な作例です。


麻白地松桜模様衣裳

 では、衣裳を詳しく見てみましょう。茶屋染では、水に関係する風景模様が表されることが多いです。中には、象徴的なモチーフを風景の中に紛れ込ませるように描き、文学や能の内容を暗示するものも多くあります。こちらの衣裳の場合、全体に桜や松が配され、間に雲や霞がただよっています。春の美しい野山を遠くから眺めているような風景です。裾の近くを見ると、一筋の滝が流れていることがわかります。さらに滝の近く、(おくみ)の部分には、柴の束とひょうたんが表現されています。何気ない模様のようですが、実はここに見る人の教養を試す主題が隠されています。滝、柴の束、ひょうたんのキーワードから導き出されるのは、謡曲の「養老」というテーマです。養老は、きこりの孝行の徳で養老の滝に霊泉が湧くようになった由来を脚色したもので、柴の束はきこりを、ひょうたんは霊泉を象徴しているそうです。まるで謎解きのようですが、当時の人々の知的なセンスが垣間見えます。琉球王族の女性も、模様に込められた意味を知りながら、おしゃれを楽しんでいたのでしょうか。
 

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参考文献
国立歴史民俗博物館編集『江戸モード大図鑑-小袖模様にみる美の系譜-』NHKプロモーション発行、1999年
長崎巌『きものと裂のことば案内』株式会社小学館、2005年


 
学芸員 篠原あかね

学芸員 篠原あかね

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