ガジュマルの花

最終更新日:2019.07.10

私   「みなさんはガジュマルという樹を知っていますか?」
参加者 「知っています。」
私   「では、ガジュマルの“花”を見たことがありますか?」
参加者 「・・・。」
 
 この会話は、去る令和元年6月8日(土)、沖縄本島南部八重瀬町で実施された「学芸員といくフィールドツアー① 沖縄本島南部の自然を見に行こう」のひとコマです。
 今回のツアーは、地学分野と生物分野の学芸員がタッグを組み同じフィールドを解説する、という当館初の試みでした。開催地に選んだ海岸は満潮時も海水に浸ることのない不思議な砂浜で、いろいろな形の巨大な石灰岩がごろごろと転がっています(図1)。地学担当からは、これら石灰岩の成因から沖縄本島中南部の大地の成り立ちについて解説がありました。
図1 ツアー開催地の海岸
 
 浜の後背に広がる森は、沖縄本島南部を代表する石灰岩林となっています(図2)。生物担当の私からは、地学分野と関連づけて石灰岩の上でたくましく生きる生物たちを紹介しました。その中で、石灰岩林を代表する植物である“ガジュマル”の花の秘密を取り上げたのでした。
図2 浜の後背に広がる石灰岩林
 
 ガジュマルは、沖縄県民にはなじみの深い植物ですが、花の秘密について知っている人は意外と少ないようです。ガジュマルは、イチジクの仲間(クワ科イチジク属)で、沖縄では他にアコウやイヌビワなども同じイチジク属です。イチジクの仲間は幹や枝を変化させて作った部屋(花囊)の中に大量の花を咲かせます。果実のように見えるのはこの花囊で、ガジュマルの花を見たことが無いのは当然のことだったのです。
図3 ガジュマルの実(花囊)
 
 花が咲かない(ように見える)のに実がなるので、イチジクは漢字で「無花果」と書きます。沖縄県内でもスーパーで乾燥イチジクが手に入りますので、手にとる機会があれば、ぜひ半分に割って中を見てみて下さい。たくさんの種子が入っているのが分かります。その一粒一粒がもとは花だったのです。今回のツアーでも休憩時間に乾燥イチジクを食べていただき、花囊の構造をお口で感じていただきました(図4)。
図4 乾燥イチジクの断面(種子がたくさん見える)
 
 それにしてもなぜ、イチジクの仲間はそんな花の咲かせかたをするのでしょう?
 そもそも“花”は、昆虫に花粉を運んでもらうために作るものです。花を隠してしまっては、昆虫が来ないのではないでしょうか。でも、ご心配には及びません。イチジクには専属の花粉媒介者がいるのです。
 
 イチジクの場合、花粉を運ぶのは小さなハチ(コバチ類)で、イチジクはメスのコバチを実(花囊)の中に誘い、そこで産卵させます。そしてコバチの幼虫に栄養と住み家を提供するかわりに、成虫になったメスに花粉を運んでもらうのです。あの実(花囊)は、コバチたちのゆりかごだったのですね。そして、興味深いことに、ガジュマルにはガジュマルコバチが、アコウにはアコウコバチが、というぐあいに、それぞれの樹種に対応するコバチがいるそうです。イチジクの仲間とコバチの仲間は何万年もかけて、お互いに切っても切れない関係になったのです。このような関係が築かれる過程を生物学の世界では“共進化”と呼びます。
図5 イヌビワの実(花囊)の断面を観察している様子
 
 今回のツアーでは、ルート沿いにイヌビワ(イチジクの仲間)の実がなっていたので、縦に割って中をのぞいてみました(図5)。そしたらちゃんと、イヌビワコバチの幼虫や翅の生えた成虫がうようよと出てきました。虫が苦手な方には背筋が凍り付く光景かもしれませんが、コバチたちがいなくなると、イチジクの仲間は子孫が残せなくなります。自然は絶妙なバランスを保ちながらつながっているのですね。その夜、私はワインを片手に、コバチたちに感謝しながら、余った乾燥イチジクを食べたのでした。
 

主任学芸員:菊川 章

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