最終更新日:2017.11.29
那覇空港の近くに瀬長島という小さな島がある。空港から車で5分、那覇の都心部からは15分、人口密集地のすぐそばにある島は、週末や休日になるとのんびりバーベキューや釣り、ジョギングなどを楽しめる、地元の豊見城市や那覇市の住民の憩いの場所だった。
沖縄県立博物館・美術館からも比較的近かったので、2012年から私はここを調査地にして、2次林の生物相やオカガニの繁殖生態(産卵降海)を調べ始めた。ちょうどその頃から島の西側の丘の上にホテルの建設が始まった。豊見城市による瀬長島のリゾート化計画をまったく知らなかった私だが、偶然にもその後に起こる大きな環境改変がオカガニの産卵生態に及ぼす影響を目の当たりにすることになる。この詳細は博物館紀要2013~2017にゆずるとして、ここで紹介したいのは2種の海岸動物だ。
数年にわたる瀬長島調査のなかで、私は驚くべき生きものに出会った。それはオオナキオカヤドカリとヤシガニである。
オオナキオカヤドカリは、宮古・八重山地域では普通だが沖縄本島ではほとんど観察例がなく、沖縄県教育庁文化課(現文化財課)による2004~2005年のオカヤドカリ類全島一斉調査でも捕獲例がなかった。数例伝聞的に存在が示されていただけである。その、本島では大変珍しいオオナキオカヤドカリが、瀬長島という都会的な島で繁殖していたのである。
ヤシガニは宮古・八重山地域では多く見られ食用にもされるが、近年個体数が激減し、地域によっては条例により保護されている。沖縄本島では一時絶滅の風評もあったが、本部町の海洋博公園敷地内で観察・研究が進められていることは有名で、その他、沿岸の岩礁海岸ではたいてい見られることは関係者には周知の事実である。しかし、まさか瀬長島のような開発の進んだ小さな島で1kg級の大型ヤシガニがいまだ生存していようとは予想だにしなかった。先日はヤシガニメスの放幼生も観察した。
瀬長島のような大都市近郊の小さな島にも、希少な生きものが生息できるのが沖縄の自然の懐の大きさだが、このふしぎの答えは、瀬長島の位置と海流にあると私は推測している。島の西側を流れる黒潮が、南方より幼生を供給しており、ちょうど瀬長島が岸にたどり着きやすい位置にあるのではないかという仮説である。この答えを出すには、今後の研究を待たねばならないが、昨今の瀬長島の環境改変は、そのスピードも規模もとても大きかったため、答えが出る前に、希少種の生息そのものが難しくなってしまった印象がある。沖縄での環境改変は、一見たいした自然は残っていないと思うような所でも、もっと慎重に進めるべきではないだろうか。
そして老婆心ながら付け加えると、くれぐれも、ヤシガニを獲って食おうなどと考えてはいけない。
みなさんは瀬長島の未来はどうあってほしいと願うだろうか。
主任学芸員 山﨑仁也