最終更新日:2014.04.24
2014年2月。沖縄県立博物館・美術館の港川人が新しくなりました。 八重瀬町で発見された、約2万年前の港川人は、その驚異的な保存のよさでよく知られます。その中でもI号男性は、頭骨の保存状態がとてもよく、私たちが顔を見ることのできる唯一の日本の旧石器人です。
はるか昔の旧石器人の生活を、想像してみてください。狩猟をしたり、何か道具を作ったり、さまざまな姿を思い描くことができますが、そのとき、彼らはどんな顔をしていますか?
その顔が、「へのへのもへじ」だったら、何だか残念ですよね。
「原始人だから、なんとなくワイルドにしておこうぜ」というのも安直じゃないかなあ…。
そこで、遺跡から得られる証拠に基づいて、私たち研究者は一生懸命考えます。
でも、顔を知るための証拠って、何でしょうか。
もちろん、顔の骨です。旧石器人の顔ならば、港川I号ってことですね。
港川人は、発見以来、縄文人の祖先だと考えられてきました。縄文人は、弥生人とともに私たち日本人の祖先であり、その顔立ちの特徴は、沖縄の人々や北海道アイヌに強く受け継がれていると考えられています。そうすると、港川人が縄文人の祖先であるならば、きっと港川人も今の沖縄の人たちに似ていたはずです。
今までの港川人は、そんな発想で復元されていました(例えば当館の2007年版)。
ところが、最近の研究では、港川人のアゴの骨、眉間部の盛り上がり方、歯根の長さなどの特徴が、縄文人や現代日本人とはかなり違うということがわかってきました。特に、アゴの骨の特徴をみると、オーストラロメラネシアン(オーストラリア先住民やパプワニューギニアの人々などを含む)に似ているのではという仮説が発表されました。
この結果に基づいて、国立科学博物館が2011年に発表した復元画は、髪がカールしたり目が落ちくぼんだ印象で、今までの港川人と一味ちがった新鮮なものでした。
…沖縄県立博物館・美術館に新しい港川人の復元がないのは、ちょっと、かなり、すごく悔しいわけですよ。俺たちも、そういう刺激的な展示を作りたいぜ、と思うわけですよ。
だったら作ればいいじゃない。
というわけで、作っちゃいました。新しい復元模型。
制作工程では、オーストラリア先住民の写真を見ながら眉の部分の盛り上がりや小鼻のふくらみを強調したり、髪を短くカールさせたり、肌の色も濃くしてみました。
でも、「沖縄県職員のくせに、港川人を外国人にしやがって!」と怒られたらどうしよう。「変な顔」って嫌われたらどうしよう。
チキンハートな私にとって、内心ドキドキの、いよいよ初公開です。
さあ、みなさんの反応は…?
「前より沖縄っぽくなったね」(複数の博物館職員)
「これは、宮古の顔だよ」(南城市在住の男性来館者)
「私のお父さんに生き写しだわ」(奄美在住の女性来館者)
…あれ?おかしいな。外国人にしたつもりだったのに…。
…ちょっと思惑がはずれましたが、みなさん大変よろこんで見てくださっているので、まあいいか…(ちょっと悔しい)。ちなみに、手に持っているものも、サキタリ洞出土遺物をもとに新しくなっているので、まだ見ていない方は、ぜひ見に来てください!
2007年に製作した模型(左)と2014年に製作した新型(右)。どちらが沖縄っぽいかは、みなさんで判断してください(博物館常設展で両方見ることができます)。何を持っているかって?それは見てのお楽しみさ。
主任 藤田祐樹