1. 沖縄からカンボジアへ―平和創造のパッション―

沖縄からカンボジアへ―平和創造のパッション―

最終更新日:2012.12.14

図1.11月9日の当館での開講式

図111月9日の当館での開講式

図2ハンズオン展示の実習(ふれあい体験室)

図2ハンズオン展示の実習(ふれあい体験室)

図3.11月1日那覇市立上山中学校でのカンボジアの歴史と文化の出前講座

図311月1日那覇市立上山中学校でのカンボジアの歴史と文化の出前講座

図4.11月5日沖縄県知事表敬(当館館長、JICA沖縄所長とともに)

図411月5日沖縄県知事表敬(当館館長、JICA沖縄所長とともに)

沖縄県立博物館・美術館は、戦後、5回(5カ所)の設置、移転・新築を繰り返してきました。このような館史の博物館は日本国内でも稀かもしれません。「博物館」の戦後67年間の歴史を振り返るとき、活動の大きな柱である資料収集には、廃墟の中から、王国時代の文化財の欠片を拾い集めた、先輩博物館人の姿が思い出されます。当時、絶望の中にあった人々の思いと描いたビジョンとはどのようなものであったのでしょうか。不条理な戦によって、現実と将来を蹂躙され、喪失しました。その結果、多くの尊い生命が失われ、自然が破壊され、歴史、文化が消失しました。戦後、希望を持って生き抜かれた人々の強かな生き方に、戦後世代の私は感嘆します。その絶望の断崖から這い上がり、自らの文化に対する誇りの再生と社会復興のための努力と将来像を描いた人々がいました。私たちは、収集されたその欠片からその思いを感じることができます。今日10数万件を越える収蔵コレクションの中に私はいます。その成長を支えた原動力は、彼らの不屈なパッションと希望にありました。社会が平和でなくては、博物館の運営や博物館が所蔵する貴重な文化財資料を適切に保存管理することはできません。そのことは沖縄戦を通して学んだ私たちの教訓のひとつです。

沖縄県民は、戦後の67年を経ても、未だに戦後処理を行っている現実があります。開発に伴って現れる不発弾や遺骨。払拭することのできない人々の悲しみの記憶。それゆえ、平和を希求し、こよなく愛する文化、いわば「平和文化」を尊んできました。このことは、とりわけ戦後に限った思潮のようには思えません。15世紀の琉球王国時代の文化財からも見られます。1458年に鋳造された旧首里城正殿鐘には、平和を尊ぶ人々の心や、沖縄のこころの源流があるように思えます。すなわち、「舟楫を以って万国の津梁と為す(船をあやつり万国の架け橋となる」、「異産至宝十方刹に充満す(様々な国からの産物や宝が集積される。)」、「大明を以て輔車と為し、日域を以て唇歯と為す(中国や大和とは不可分の関係を構築する」、「湧出する蓬莱嶋(この世に湧き出るユートピア)」、これらの言葉には、小さな国家琉球王国が近隣諸国と善隣友好の関係を築き、平和文化を創造し、共有していたこと、あるいは、それを志向するビジョンを読み解くことができます。

私たちは、王国時代から、また戦後の復興期においても、平和文化を発信するポテンシャルを備えてきました。とりわけ、戦後米国の支配下に置かれた沖縄の意識は、より一層強かったと思えます。復帰40年の2012年、博物館は自らの歴史を振り返ることも含めて、県として、館としての国際貢献を行うことにしました。JICA(国際協力機構)と連携して、カンボジア王国の人材育成に寄与することを通して、平和文化を創造する拠点施設としての博物館づくりを行う、という先輩博物館人が行った働き、原点を思い出すためにアクションをおこしました。

実は、2009年~2011年の3ヵ年計画で、県平和祈念資料館がカンボジア政府と「平和博物館」の協力事業を行いました。カンボジアの人材育成に協力する事業です。新博物館づくりが終わり、平和祈念資料館へ異動した私は、実はこのプロジェクトを担当することになりました。カンボジア政府からは、その実績を踏まえ、さらなる人材育成の支援が要請されました。本年度から当館が第2弾を担当します。九州国立博物館の視察研修など、日本の最新の修理技術などの研修を組み込み、研修内容のより一層の充実を求めるとともに、研修員の個別ニーズに対応するようなプログラムを工夫しました。カンボジア側も従来のトゥール・スレン虐殺博物館のスタッフに加え、カンボジア国立博物館のスタッフの合計4名が参加しました。事業名は「沖縄・カンボジア『平和文化』創造の博物館づくり協力」です。向こう3年間で、延べ12名のカンボジアの博物館スタッフが沖縄で1ヶ月の研修を行います。また、カンボジア現地でも、2週間程度の沖縄からの専門家派遣によるフォローアップ研修が実施されるなど、研修を通して、カンボジアの博物館が抱える問題や課題の解決のために微力ながら努めます。

カンボジアのスタッフの1回目の沖縄研修が10月11日から11月9日まで行われ、無事終了しました。今後は、それぞれの研修員の活動が期待されます。研修の一環で、カンボジア理解のための展示づくりを行いました。題して、写真企画展「カンボジアの光と影」展。当館では11月9日~25日まで。また県平和祈念資料館では11月28日~12月13日まで開催されました。

実は、カンボジアの博物館の課題解決の歩みは、当館がこの67年間で歩んできたプロセスと軌を一にするものです。その道は、私たち自身の歴史の追体験学習だと思えます。博物館は、知識や感性を磨き、自身の文化的アイデンティを獲得する場であると同時に、「平和文化」創造の拠点であることを、この事業を通して発信することができればと思っています。

主幹(学芸員) 園原 謙

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