1. カサガイの観察 その1

カサガイの観察 その1

最終更新日:2010.08.27

図1  コウダカカラマツ

図1 コウダカカラマツ

図2  調査地風景

図2 調査地風景

図3  B6を襲うヒラムシ(1)

図3 B6を襲うヒラムシ(1)

図4  B6を襲うヒラムシ(2)

図4 B6を襲うヒラムシ(2)

図5  B6の残した卵塊

図5 B6の残した卵塊

この夏は、7月21日から2週間、沖縄島中部の海岸でコウダカカラマツというカサガイの生態を調査しました。カサガイ(笠貝)というのは、その名のとおりすげ笠に似た形をしていて、海岸の岩にぺったり張り付いている貝類を指す言葉で、えら呼吸をする普通の海産巻貝のグループと、肺呼吸をするカタツムリやナメクジの仲間があります。コウダカカラマツは後者に属する有肺類のカサガイです。(図1 岩に張り付いているコウダカカラマツ)

コウダカカラマツは、「潮間帯」といって満潮のときは海面下に没し干潮時には空気中に出る場所に住んでいます。カサガイには岩の決まった場所を「家」として、摂餌など用事で出かけた後はそこに帰る性質を持つものが多くあります。コウダカカラマツもこの帰家行動をする貝です。

今回の調査では、コウダカカラマツの活動の全体像を把握するため、活動している時間帯の行動を全て観察しようと試みました。観察範囲が広すぎたり、対象の個体が多すぎると、全部の行動を追いきれません。そこで、観察対象は突堤を構成している岩二つの表面に住む個体としました。それぞれの岩の大きさは長径1.3mと1mで、その上にコウダカカラマツは19個体と15個体、それぞれ住んでいました。コウダカカラマツは自分の家のある岩の外へ出ることはありませんでしたので(1つだけ例外がありますが)、彼らにとっては1つの岩とその上の個体群が「世界」ということになります。観察区の詳細な地形図を作り、個体識別が出来るようにマニキュアでマークをして調査開始です。(図2 調査区を設定した突堤)

さて、2週間コウダカカラマツの世界を覗いたわけですが、いろいろな出来事がありました。詳しいことはいずれ別の形で公表することといたしまして、印象的な出来事を3つほど…。

 

  • その1 殺貝事件
  • その2 行方不明
  • その3 家盗り合戦

 

■その1 殺貝事件
ピンボケの写真がまさに殺貝現場です。ピンク色の膜みたいなものがカサガイにのしかかっていますが、これは「ヒラムシ」という動物です。カサガイは私が「B6」と名付けて観察していた個体でした。夜間の干出時は時々ヒラムシが出現します。この晩もヒラムシが出てきて岩盤上を滑るように這い回っていました。そこまではいつもの光景ですが、この日はヒラムシが産卵中のB6にまつわりついたまま離れなくなりました。B6は体を激しく上下させて、どうみても喜んでいるようには見えません。それでもヒラムシはどかず、まさか捕食していると思わない私は「妙に絡むなあ…」とぼんやり見ていると、B6はヒラムシの後端部で巻き取られるように持ち上げられ連れ去られました。カサガイが岩から外れるということは死につながる大変なこと。このとき初めてヒラムシがカサガイを襲っていたことに気付きました。岩盤が傾斜しているため、B6は連れ去られる途中で転げ落ちましたが、ヒラムシはそれを追いかけてあらためて覆いかぶさります。B6は泡を出しながら溶けて小さくなっていきました。
B6は卵塊にのっかった形だったので、貝殻と岩の隙間をピッタリ閉じることが出来ず、ヒラムシに狙われたのではないかと考えています。B6のいた場所には、卵塊がこの世への置き土産として残されていました。幼生はその後無事孵化したようですが、はたしてどれぐらいが子どもとして生き残れるのか…。(図3、4 B6を襲うヒラムシ;図5 B6の残した卵塊)

カサガイの観察 その2へ続く

博物館班長 濱口 寿夫

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