最終更新日:2010.07.16
博物館や美術館の収蔵品の中には、数百年から数千年も前の木製品や紙、布などでできたものがたくさんあります。これらの収蔵品を、最も良い状態で未来永劫残していくことが、博物館や美術館の使命の一つです。しかし、この使命を脅かす存在がいるのです。それが文化財害虫といわれている「虫」なのです。たとえばシロアリやキクイムシの仲真たちは、木材に穴をあけ、産卵し、木材を餌として生活します。またゴキブリやシミ(写真1)の仲間は、紙や布などを餌にしたりします。当然紙や布も元々は植物からできているわけですから、虫たちにとっては加工食品ということになります。そのほかにも多くの文化財害虫がいますが、館内において、これらの虫たちをのさばらせて置く訳にはいきません。つまり、貴重な収蔵品を虫たちの餌にしてはならないということです。そこで、沖縄県立博物館・美術館では、害虫の繁殖期にさしかかる6月~7月の時期に全館を休館して「虫」の駆除を行う「全館燻蒸・消毒」を行っています。以下では、2010年の6月に行われた「全館燻蒸・消毒」の様子をご紹介します。
今年は6月7日(月)~6月15日(火)まで9日間、館全体を休館とした上で、消毒作業を行いました。まずはじめに取り組むのは、ビニールを使用して精密機械などを養生する作業です。精密機器の多い当館では、かなりの労力を使います(写真2~写真4)。次に展示されている収蔵品の中で、薬剤による変質や劣化の恐れがあるものを、養生します。さらに展示ケースや棚をすべて開け、薬剤がいきわたるようにします(写真5~写真7)。特に収蔵庫では、すべての収蔵品に薬剤がいきわたるように、細心の注意を払いながら、箱から出したり、ケースを開けたりします。館内にある空間(トイレや機械室など)はすべてと、屋外にある展示物(民家や高倉など)も消毒するため、全職員で取り組みます(総勢100名以上)。今年は準備に3日かかりました。
準備ができると、今度は消毒です。専門の業者以外は全員立ち入り禁止です(写真9・10)。館内全体に投薬するのに4~5時間ぐらいかかります。薬剤の散布後、丸1日放置し、虫を全滅させます。その後薬剤を除去するための換気に丸3日かかります。安全な空間が確保できると、今度は会館に向けての作業が始まります。今度はすべてもとの状態に戻します。不備がないように点検も行うため、結構気を使います。
一通り紹介しましたが、このような消毒だけでなく、日ごろから虫への対策を行っています。専門的な言葉で言うとIPM(Integrated Pest Management:総合的有害生物防除管理)といいます。具体的には、館内飲食物の持ち込み禁止や、花束などの持ち込み禁止、温度湿度を23℃・55%を全館で維持するなどです。たまに、「冷房効きすぎで寒いから温度を上げてください」というお客さんがいますが、すみません。博物館・美術館での冷房は、お客様に涼んでもらうためでなく、収蔵品の保管に適し、虫やカビから守るためなのです。ご了承ください。職員は1年中この中ですごしています(夏は寒いけど冬は暖かいです:人によっては1年中半袖で仕事できます)。
ということで、今後も博物館・美術館では「虫」との終わりなき格闘が続いていきます。
主任学芸員 仲里 健