最終更新日:2010.05.14
「ものづくり今昔」展のちらし
博物館では毎年多くの展示会(企画展・特別展)が開催されています。
普通、展示場には観覧者の目を楽しませる(はずの)資料がずらりと並べられ、テーマに沿った解説パネルやキャプション(説明文)が整然と置かれています。博物館というと、展示場に数々の貴重な品々が展示されている様子を、思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。しかし、実は展示会のオープニングに漕ぎ着けるまでには、人知れない博物館職員の汗と涙の物語があります。今回は、2010年2月16日から同3月28日まで開催された博物館企画展「ものづくり今昔」を題材に、そんな博物館の裏話をご紹介したいと思います。
展示会を開催するためには、さまざまな下準備が必要ですが、まずはテーマを決めないといけませんね。「ものづくり今昔」では、博物館に収蔵されている植物や貝、石など自然の素材を使った品々をテーマに、展示会を開催しよう!ということになりました。当初の展示会タイトルは、「沖縄のくらしと美に見る自然素材」でしたが、検討を重ねる中で、親しみの持てる表現を、ということになり、「ものづくり今昔」となりました。皆さんはどちらがお好みでしょうか?
展示会のテーマが決まったら、テーマに沿って資料を選定していきます。博物館の収蔵資料や身の回りにある自然素材を使った作品、製品をピックアップしていきます。石の斧や芭蕉布、紬の着物、クバ笠をはじめ、変わったところでは琉球石灰岩を使った博物館の建築材や、久米島安山岩を使った美術作品なども取り上げよう!ということになりました。資料の選定と並行して展示場内のレイアウトも考えなければなりません。展示資料の選定とおおまかなレイアウトが決まった段階で、展示会要項を作成します。この要項が、展示会の土台になります。「ものづくり今昔」では、起承転結に沿った4つの小テーマ「ものづくりのはじまり」、「ものづくりの知恵」、「手わざの美」、「新しい自然素材と新しい表現」に沿って資料を展示し、自然素材の特性を活かした沖縄のものづくりについて紹介することにしました。
要項ができあがったら、展示会でお世話になる関係機関に資料借用や協力、後援を依頼します。他の機関に対して展示会の概要を説明するためにも、要項は重要です。展示会への協力や後援が決定した段階で、展示会のポスター、ちらしを印刷し、関係部署、機関に配布します。ポスター、ちらしの作成はできるだけ早い方が望ましいのですが、ものづくり展のポスター、ちらしの配布は12月頃になりました。
ポスター、ちらしの作成と併せて、図録の執筆・編集も行います。普通、展示図録の内容や文章、写真は、展示会そのものと連動しているので、図録の作成は展示会場に掲示するパネルやキャプションの作成とも連動することになります。図録の作成には、執筆、挿図の作成、写真の撮影など、手間のかかる作業がいくつも含まれています。図録の作成に取り掛かるまでに、展示資料の調査研究を深め、展示方法を十分検討しておく必要があります。特に、他館から資料を借用して展示する場合には、借用資料の写真等を事前に準備しておく必要があります。
従来の博物館の図録はA4版のものが多かったのですが、ものづくり展の図録はA5版で作成しました。A5版だと版面が小さい分、一頁に詰め込める内容には限度があるのですが、版面を埋めるために写真や文章をたくさん容易しなければならないA4版に比べると、レイアウトしやすいという利点もありました。
展示会の開会が近づくと、展示場の設営に取り掛かかります。同じ部屋を使って年間に複数の企画展、特別展を開催する場合には、展示会場の設営、撤収等のスケジューリングを十分調整しておく必要があります。展示場の設営には、展示ケースの搬入、設置、解説パネルの作成、設置、資料の搬入・設置、キャプションの配置、照明の調整などの作業が含まれます。展示ケースの設置や大型資料の設置などは人手を要する力仕事です。解説パネルは、大型プリンタで印刷した図や文章をハレパネに貼り付けて、カッターで切り出します。パネルをまっすぐに美しく切る手先の器用さも必要です。出来上がったパネルは、壁に虫ピンや両面テープで固定していきます。資料やパネルの設置に並行して、展示場内の照明を調整します。照明は天井に取り付けられているため、足場や高所作業車を使って調整します。
展示場内の設営だけではありません。ほかにも展示場入口に設置する看板の作成や、開会式の準備調整、マスコミへの取材依頼など、開会前には慌ただしいスケジュールが続きます。このように、ざっと紹介しただけでも展示会の開会式を迎えるまでには、遠く険しい道のりがありますが、観覧者に「よかったね!」と言ってもらうために、学芸員は日夜がんばっています。
主任 山崎 真治