最終更新日:2010.03.30
ユムヌハキ(ネズミよけ)
右の写真の資料をみて、「なんだ!!これは?」と思われた方も多いのではないでしょうか?一見するとエイリアンやオバケのお面のようにもみえます。実はこれは、沖縄で高級魚として食されるアバサー(ハリセンボン)のトゲのある皮を乾燥させ、ネズミよけに利用した鉤です。与論島ではユムヌハキといいます。食べ物をねらって上からつたって下りてきたネズミも、このトゲだらけの皮が見事に追い返すというものです(図1参照)。
民具はその素材として、自然の草木や石、貝殻類を利用したもので占められます。なかでも沖縄の民具は、それらを自然のまま、または、素材のほんの一部に手を加えただけの単純でいて機能の面がすぐれた用具が多いことが特徴の一つです。その自然のままの形を活かした民具の代表として挙げられるものが、このユムヌハキ(ネズミよけ)や次に紹介するブラヤックワンとよばれるホラ貝製の薬缶(やかん)などです。
ブラヤックワンのブラとはホラガイ、ヤックワンは薬缶
のことです。ホラ貝の口に近い胴部に穴をあけ、そこに縄や鉤状の木の枝をさしこんで柄とし、いろりの鉤にかけて使います(図2参照)。これで煮たお茶はおいしく、また内臓の病気を治す力があると信じられていました。ホラガイのエキス(?)がしみ出して、本当に美味しく、腹痛なども治ってしまいそうだと感じてしまうのは私だけでしょうか?
2点とも、近代化した現在の生活からは思いつかない形
と用途に驚くばかりで、形から用途を考え出した先人たちの知恵には、発想力の豊かさを感じます。ながめていると、その形には愛嬌やユーモラスがあり、ほのぼのとした気持ちになります。
(2010年3月30日掲載)
主任学芸員 岸本 敬