1. 落葉の山をつくった正体は?:その1

落葉の山をつくった正体は?:その1

最終更新日:2009.11.06

時は1986年4月。当時、私は沖縄市にあるコザ高等学校に勤務していました。その頃学校は週5日制でなかったため、毎週土曜日の午前中の授業(業務)を終えたあと、沖縄島北部にイモリ類の調査に出かけていました。その日も地表で活動しているイモリがいないか、調査地の地面を見ながらゆっくり歩いていたところ、視野のなかに妙なものがあるのに気づきました。それは、ドーム状にまとまった「落葉の山」で、見わたすと地面のいたるところにありました(写真1)。

「落葉の山」は直径が20cmほどで、高さは5cmをこえるものもありました(写真2)。直感的に、何か動物がつくったものに違いないと思い、まずは落葉を手でどけてみると、中央に湿った腐植の塊がありました(写真3)。それをピンセットで少しずつ取り除くと、直径7mmほどの穴が一つ(写真4)。この中に住んでいる何者かがこの落葉の山をつくったのは明らかでした。それでは、いったい何が・・・。何がつくったかはまったく見当がつかなかったのですが、頭のなかでは「落葉の山」をつくることの意味について考えていました。

琉球列島の森林の特徴の一つに、落葉・落枝(plant litter)の堆積量が少ないということがあります。落葉量は少なくはないのですが、年間を通して温暖な気候の下、シロアリ、ワラジムシ、カタツムリなどの多くの土壌動物たちが落葉・落枝をどんどん分解していくために温帯域の森のようには落葉が堆積しないのです。つまり、落葉や落葉に由来する腐植などを餌にする動物にとって、このような森では落葉が不足がちな資源(限定資源)ということになります。正体不明の動物は、限定資源である落葉・落枝を他の動物にとられる前に、自分の巣穴の近くに集める行動を進化させたのだと考えられるのです。
何か動物がこれをつくったのだとすれば、この穴の中にその動物がいるに違いありません。そこで、シャベルを使って穴を掘ることにしました。ところが、この場所は少し掘り進むと岩盤にぶつかるような場所です。いくつも掘りましたが、結局、一定以上掘り進めることができませんでした。次に考えたのが水攻めです。自動車に積んであるバケツに水をくみ、穴に水を流しこみ、溺れさせて穴から追い出そうとしました。しかし、何度も試みましたが、水は岩盤の間隙に浸透していき、結局その動物は姿を現しませんでした。あとはその動物が姿を現すのを待つしかありません。昼間落葉を運んでいる姿が見られないわけですから、その動物は夜行性に違いありません。わくわくしながら日が暮れるのを待ち、その夜、懐中電灯をもってその姿を探すことにしました。

さて、皆さんはこの動物は何だと思いますか?この続きは、来月のコラムをご覧ください。

 
  • 写真1 地面のいたるところにある「落葉の山」(赤丸で示す)

    写真1 地面のいたるところにある「落葉の山」(赤丸で示す)

  • 写真2 「落葉の山」の一つ

    写真2 「落葉の山」の一つ

  • 写真3 腐食の塊(プラグ)(赤丸で示す)

    写真3 腐食の塊(プラグ)(赤丸で示す)

  • 写真4 腐食がつめられていた穴

    写真4 腐食がつめられていた穴


 

主任学芸員 田中 聡

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