最終更新日:2008.09.30
写真1 修復前の折れの状況
写真2 絵巻中の金武王子
写真3 修復の様子
写真4 仮張りの状況
ハワイ大学所蔵宝玲文庫巻物「琉球使者金武王子出仕之行列」の修復が完了しました。
宝玲文庫の「宝玲(ホーレー)」は、フランク・ホーレーのことで、英国生まれの言語学者です。リバプール大学卒業後東洋学を各地で学び、1931年(昭和6)東京外国語学校等の語学教師として来日。日本語に堪能で、書誌学にも通じ古書を収集しました。1941年(昭和16)、第2次世界大戦の開戦により英国に送還されましたが、戦後再び来日し、英国の新聞社ザ・タイムズ紙の特派員ともなり、55歳で没するまで京都に住んでいました。
彼のコレクションは質量ともに豊富な古典籍を収集し、本草書、鯨および捕鯨に関する文献、琉球関係書、和紙に関する資料、古辞書などの収集に特徴があります。現在、琉球関係文献・史料類がハワイ大学の宝玲文庫として所蔵されています。
この巻物は長年の経年劣化により、折れや剥離(はくり)がひどく、修復の必要がありました。そのため、ハワイ大学と当館では、本年2月6日に絵巻修復に関する覚書を締結し、沖縄において絵巻を修復することになりました。修復の経費についてはハワイ大学が協賛金による資金を準備していただき、沖縄県在住の文化財修復師の當間巧(たくみ)さんが石川(せきせん)堂の工房及び当館の修復室で修復にあたりました。
本絵巻は1671年(寛文11)の謝恩使の江戸上り行列を描いたものです。正使は金武王子で、附役は越来親方です。記録によれば、琉球人一行の人数は74名でした。絵巻には琉球人64名と薩摩藩の役人122名の総勢186名が描かれています。
日本国内で琉球使節の江戸上りを描いた絵図は、1710年(宝永7)の絵巻が最も古いとされますが、本絵巻はこれよりもさらに古い時期の琉球使節を描いた作品として大変貴重です。琉球人使節の人名を付し、衣装や馬など細かな描き分けをしています。
なお、巻頭に「寶玲文庫」の印、巻末に「月明莊」の朱印が押されています。「月明莊」は元所蔵者(古書鑑定家・反町茂雄)の印です。ホーレーは反町から紹介された品物を購入していたというこです。
修復作業は本年3月から8月にかけておこなわれました。修復前に本紙の状態を調査し、修復方針をたてました。絵具層を補強するために剥落止めをおこない、次に、表装を解体し、本紙の裏打ち紙をめくりとります。縦折れ、折れ止めを施すとともに、汚れの除去をおこない、欠損箇所を補修しました。必要な箇所には補彩を施しました。十分に乾燥させた後、巻子に仕上げました。
なお、上下の軸や掛け紐及び収納箱は新調し、収納保存にあたっては太巻添軸を添えて巻くこととし、折れ破損の要因を軽減するようにしました。
本絵巻は9月23日(火)から10月13日(月)までの期間、当館の常設展示室で展示公開いたします。また、デジタル化の作業をおこない、パソコンの画面上で絵巻全体の画像を見ることができるようにしました。これについても、9月23日(火)から当館の情報センターで閲覧できます。
博物館班長 萩尾 俊章