沖縄にも寒い冬が来て、桜の花が北から南に順次咲き、更に寒波が押し寄せました。沖縄に来て50年になりますが、ひときわ今年の冬は寒く感じます。
さて、当館の移動展は1月24日〜26日まで多良間島で行われました。38年ぶり2回目の展示となり、常時島にいる人口500〜600人という中、延べ403人の来館者が参観されました。展示の中には、当館の総合調査で明らかになった内容も紹介されました。参観者の皆様と、日常に接してきた自然や文化が価値あるものであるということを共有できたことを嬉しく思いました。また、24日には60人の参加で星空観察が行われ、降るような星の有様を認識し、多良間の夜に魅了されました。25日には参加者21人でジオツアーが行われ、多良間島そのもののでき方を地質・地形を通して考えました。
前日には、多良間小学校で出前授業が行われ、1年生から3年生と、多良間の民話を味わいました。その際、話者である多良間ふつ(多良間言葉)で語られた方を、地域の方に紹介してもらったことが、多良間の民話であるという実感を子どもたちにもたらしました。4・5年生の複式学級では、多良間島の生物、特に身近な陸貝(かたつむり)を通して、宮古や八重山との結びつきや、絶滅が危惧されるタラマケマイマイの話に子どもたちは目を見張っていました。
私は開会式前日の1月23日に多良間小学校6年生に、『多良間島諸物代付帳』という史料を基に、人頭税の話をしました。
写真1 『多良間島諸物代付帳』(部分)
写真1は『多良間島諸物代付帳』の一部です。この資料は夫役、すなわち首里王府や役人が使役する代わりに、百姓が差し出した物が、夫役何人に当たるかを示すものです。この中で、一番高いのは「上唐苧」と「紅花」の拾(10)人です。「上唐苧」は、人頭税制下女性が納める上布の材料となる糸を示しています。「紅花」は、多良間村の村花で、別名多良間花とも言われています。両方とも1斤、すなわち600㌘ですが、それを生み出すための労働は一斗が入る土器5個、1mのサトウキビ300本、サツマイモ150斤(90㎏)、上納を義務づけられている粟15㎏に相当することを示しました。
上唐苧は、苧麻の茎の表皮から繊維を取り繊維を細く裂くこと、手で績み、糸束にする手間をイメージ化しました。糸一束の重さは15㌘であり、600㌘の糸にする労働の煩雑さを考える素材を多良間村教育委員会の方に提供していただきました。
多良間花(紅花)にはとげがあるため、収穫するのが大変であり、花びらを踏み潰し、蒸して発酵させ、臼と杵でつき、粘り気が出てきたら餅にするという話が参観の多良間の方から出たときには、私自身の認識を揺さぶり感動してしまいました。このようにして、紅餅という紅色染料ができ上がります。50㌘の紅餅をつくるのに300輪の紅花が必要だといいます。1斤(600㌘)なら、3600輪の紅花が必要だということになります。
「上唐苧」と「紅花」ともに『多良間島諸物代付帳』は過去の人頭税の一端を伝えるだけでなく、現在も多良間島の産業として位置づけられ、今につながる労働の価値を示してくれています。このような発見を子どもと一緒に味わうことができたのが、多良間小学校6年生との出前授業でした。
当館では、3月7日からHello Kitty展 ―わたしが変わるとキティも変わる―、3月25日からは大嶺薫コレクション展~大嶺薫と東恩納博物館~、が始まります。また、戦後80年展として、博物館では「戦災文化財」展、美術館では「戦ぬ前(いくさぬめー)―沖縄文化の近代―」展と「ベトナム、記憶の風景(仮)」展を用意しています。これからも、ぜひ当館に足をお運びいただき、様々な歴史の記憶と「対話」していただければ幸いです。
2025年3月
沖縄県立博物館・美術館
館長 里井 洋一