2023年4月に、館長に就任し、2026年3月で任期切れで退任します。
思い起こせば、就任の辞で、当館の社会的責任について 研究・対応等を検証し、博物館・美術館への信頼を取り戻すための施策を、学芸員をはじめとする全スタッフとともに生み出し、県民の力をお借りし、研究の新たな地平を開けるよう努力していくことだと述べました。
この3年間、学芸員や関係する方々とともに、実務・研究の有り様を豊かにするための努力を重ねてきました。
2023年6月21日から9月3日まで開かれた『進化展-命はつながっている-』は私の進化論に対するイメージを変えました。「優勢保護法」の理論的根拠が進化論だと思っていたのですが、チャールズ・ダーウィンは、すべての生物は共通の祖先から「修正を伴う継承」によって多様化したということを知りました。多様が大切であるということがダーウィンのメッセージでした。
2024年11月1日から2025年1月13日まで、『〇(マル)でも×(バツ)でもないもの!~「ARTと私」正解のない「教育普及」展~』が開催されました。開館後はじめての教育普及展でした。美術館の教育普及では様々なワークショップを行い、非営利という理念を体現させ、作品と個の往還を参加者と共有する試みを続けてきた。そこで展開される営みは価値あるものです。しかし、教育普及展はワークショップを止揚して、有償の展覧会として成立させねばなりません。そこに本展の難しさがあり、美術館学芸員全員の悩みとなりました。議論する中で、美術館が開館以来収集してきた作品を展示し、その展覧会というコミュニティに参加する学びの共有プロセスを分節化して考えていく中に展望を見いだしました。分節化とは、美術を楽しむ世界を、最初に触ってはいけないとされてきた作品に「さわる」ってから始まり、ついで、音が聞こえる作品と出会う「きく」って、に繋なぎ、「さわる」って、と「聞く」って、を経た上に「見る」って、がきます。そして、「向き合うって」が作品と自分との対話の場です。最後には、この展覧会で得た気持ちを、言葉・手紙・絵に託して「つたえる」ってで、自分を凝縮・解放していただきました。海外の人を含む、多くの方々に『「つたえる」って』に参加していただきました。『「つたえる」って』の作品を賞味するというように、2022年のICOM(国際博物館会議)プラハ大会で採択された博物館の新しい定義、従来の「収集・保存・調査・展示」機能に加え、社会性(包摂性、多様性、持続可能性、倫理、コミュニティ参加)に即した展覧会となりました。詳しくは、図録をご覧ください。
2025年には沖縄戦後80年を振り返り、博物館特別展「戦災文化財―失われた沖縄の文化財と取り戻した軌跡」、美術館企画「戦ぬ前(いくさぬめー)―沖縄文化の近代―」、同じくベトナム戦争終結50年祈念「ベトナム、記憶の風景」、が、続々展開されました。これらの展示のプロセスの中で、担当学芸員任せにはしない風土が醸成され、様々な困難はありながらも、学芸員はもちろんのこと、博物館総員の智慧と協力をうけ、展覧会を成功裏に終了させました。
2026年2月11日には、恩納村博物館で行われた移動展が終了しました。移動展は、首里にあった博物館が、離島や遠隔地の方々に、県民共有の財産を共有していただきたいと1980年に始めたものです。私は、国頭・多良間・恩納と三回の移動展で、お話をする機会を得ることができました。お話をすることによって、私はその地域のことを考え、新しい認識を得ることができました。恩納では、ペリー艦隊が派遣した測量隊の一兵士が撃った鉄砲にあたった少年の視点で琉球王府末期の恩納間切を考えることができました。少年の住む恩納村の川ベリにある倉庫がペリー探検隊によって描かれています。その川は今でも深く、年貢を運ぶ伝馬船が接岸していたであろうことが目に浮かびました。そして、その倉庫の周辺には、ウコン畑があることを、仲松弥秀先生が編集した「恩納村誌」から発見しました。琉球王府時代、夫役によって、ウコン栽培と製品化が課せられていたことを2001年に私が「近世琉球におけるウコン専売制の起源と展開 ―夫役がささえるウコン経営―」『琉球王国評定所文書』第18巻に記したことと結びつきました。仲松弥秀先生はウコン栽培地の位置を地図上に記してくれていました。私は、その地図をもとに、実際の場所を訪ね歩きました。ウコン栽培地は、北側に山もしくは森があり、北風を防ぐ場所にあり、かつ海岸に近い場所でした。安富祖では、自治会長さんの紹介で金城啓さんにウコン畑が上地にあるというお話をうかがい、地域の人々が薩摩や王府の目を盗んで那覇市場にウコンを出荷していたということもお聞きしました。

安富祖 ウコン栽培地
このような地域の先人との出会いは国頭でも、多良間でもありました。移動展のたびに私は豊かになっていく思いをしました。
さて、現在、「つくる冒険-日本のアールブリュット典」が開かれています。また、「アートキャンプ-素朴の大砲-」が2月25日から3月8日まで県民ギャラリーで開かれま した。ともに美術の専門教育受けていない作家が生み出した、思いもしない豊かな表現が私たちを魅了します。
特に、「アートキャンプ-素朴の大砲-」は2001年から始まり、ちょうど四半世紀を経て開催し続けてきた継続してきた意志に敬意を表したい思いに私はかられました。
博物館・美術館には、県民の財産としての文化財が収集・寄贈されています。それら文化財の面白さを発見・紡ぎ上げ、県民とともに分かち合う営み、の一端を担わさせていただく機会を与えていただいたことに、深く感謝申しあげます。
2026年3月
沖縄県立博物館・美術館
館長 里井 洋一