最終更新日:2024.03.08
(前回から続く)
埼玉県坂戸市にある城西大学水田美術館(写真1)にて実施していた企画展「英雄 尚巴志」は2月21日をもって閉幕しました。決して広くはない展示室でありましたが、できる限りの尚巴志に関係した情報を掲示できたと思っております(写真2)。
多くの方々がご観覧に訪れたこと、そして会場となった城西大学水田美術館のスタッフの方々には重ねて感謝すると共に、今回も前回に引き続いて本企画展並びに関連催事についての概要を触れていきたいと思います。
写真1 城西大学水田美術館外観
写真2 企画展『英雄 尚巴志』展示状況
城西大学水田美術館が主催する企画展『英雄 尚巴志』の閉幕を飾るイベントとして、展示最終日に展示解説会を行いました。開催日時が平日の昼間ということもあり、あまり多くの参加者は見込めないものと思っていました。それでも5名の方が時間前に展示室に参集されていました。
最終日に行った展示解説は尚巴志の死後から第一尚氏政権が崩壊して、1470年に尚円が王権を簒奪するまでの経緯を中心に約1時間お話させていただきました。
実は尚巴志が1439年に逝去した後の顛末をもって今回の展示会を締めたいと以前から考えていました。それは尚巴志亡き後に王権の行方を見ていくことで、改めて尚巴志が生きた時代というものが明確に浮かび上がってくるものと思ったからです。
参加された方々は坂戸市ならびにその近隣の市町村から足を運んだという方で、わざわざお仕事を休んで今回の展示解説会に参加したという方もいらっしゃいました。
話をさせていただきました内容について熱心にメモを取る参加者もいらっしゃって、向学心の高い方々が集まったという印象を受けました。
最後に質疑応答を3名の方から受け付けたのですが、それぞれ15分以上にわたって遣り取りを行いました。多かった意見としては今回の企画展の中で取り上げた尚巴志に関係の深い史跡へ実際に足を運んでみたい、なので詳しいアクセス方法を教えてほしいといったものがありました。そして、尚巴志とは直接関係はありませんが、沖縄の拝所について詳細を教えてほしいという質問も多くありました。
沖縄県外の方々にとって、御嶽や殿、アシャギといった拝所について馴染みが無いことから、その存在をどのように受け入れたらよいのか分からないといった理由で先の質問を投げたものだと思われます。いわゆる仏教やキリスト教のような偶像信仰ではない、自然を崇拝するための拝みの場でそこでは沖縄独自の信仰が行われる、という説明を雑駁ではありますがさせていただきました。崇拝の対象としては樹木や岩、森、更には丘や島といったものまで様々あることから、理解していただくための説明に多少、時間を要しました。少し考えるとこのことに疑問を抱くと言うことは沖縄の独自性がこの拝所に凝縮されていると感じたからだと思われます。
そして、今でも多くの拝所が地元の方々によって定期的に清掃されていることから、その歴史的な精神性は現在までも生き続けているということを説明の最後に付け加えると、参加者が住んでいる地域の信仰のことについてお話を賜ることができました。
会場である城西大学水田美術館から車で東へ約20分の場所に高麗神社というその地域では歴史的に古くから信仰されている神社があります。その名前から想像がつくように古代日本において朝鮮半島からの渡来人がこの地に移り住み、長年にわたって彼らの精神的なよりどころとなった場所になります。それと共に現在は埼玉県日高市や坂戸市、鶴ヶ島市などから多くの方が参拝に訪れる神社になっています。
周辺地域にて信仰篤いこの神社を紹介していただいた参加者は、沖縄における信仰を聞いて際に自身の住む場所における信仰について改めて考えたのだと感じ取りました。
沖縄と縁も所縁もない埼玉県のある地域で尚巴志をキーワードにして展示を行った際に、観覧者それぞれが思うところがあるのだと言うことに気付かされました。
主任学芸員 山本正昭