1. 明和津波の襲来から250年 ―不完全燃焼な展示会―

明和津波の襲来から250年 ―不完全燃焼な展示会―

最終更新日:2021.06.14

 今年に入って不思議に思うことがありました。それは明和津波をテーマにしたミニ展示を開催するにあたって強く感じた疑問になります。
 2021年は東北沖太平洋地震から10年という節目になる年であり、例年以上に防災意識が高まっています。それは今年の3月に沖縄県内の報道機関でも東北大震災について多くの紙面や時間を割いて特集を組んでいたことから、東北地方から多く離れた沖縄県でも否応なく日頃における防災意識について喚起させられました。他方で沖縄県内での自然災害について触れられることは東北沖太平洋地震と比べては多くはありませんでした。今年は琉球列島で起こった自然災害の中で最大規模の被害を出した明和津波が襲来して250年という節目の年であるにもかかわらず、なぜか沖縄本島内の報道機関でも取り上げられる機会は極めて限られていました。
 そのような状況に疑問を抱いたことが発端となって、今年4月20日から6月13日にかけて、おきみゅーのエントランスにおいてミニ企画展「大津波の痕跡を探る―発掘調査で確認された、いわゆる明和津波の痕跡―」を開催するに至りました。
 「第1章 明和津波と遺跡に見られる津波の痕跡について」「第2章 津波石と津波の伝承」「第3章 遺跡にあらわれた明和津波の痕跡」「第4章 まとめ―大津波から250年を経て―」の構成で、宮古島市教育委員会、沖縄県立埋蔵文化財センター、城西大学が発掘調査して得られた津波痕跡を残す遺跡の出土遺物約50点の展示もあわせて行いました(写真1、2、3)。おかげさまで多くの県内報道機関がこのミニ展示を取り上げていただく機会に恵まれ、興味関心を持って展示を観覧に来ていただいた方もたくさんいらっしゃったことから、明和津波に対して関心が無いのではないかという疑問は会期中に払拭することができました。
 現在、明和津波の痕跡を示しているとされる津波石は宮古島や石垣島に多く分布しています。これら津波石の中には重量1000tほどの岩塊もあることから、津波の脅威を感じ取ることができます(写真4、5)。しかし、近年の調査ではこれら津波石の全てが明和津波によって海岸から打ち上げられたものではないという見解が出されています。つまり、大規模な津波が宮古諸島ならびに八重山諸島を複数回、襲っていたということになります。これは津波石そのものを理化学年代測定した結果を踏まえた見解であり、その成果は多くの研究者に驚きを与えました。その後、石垣島での遺跡発掘調査で1000年以上前の津波の痕跡が確認されたことから、この見解はよりイメージができるようになりました。今回の展示は遺跡の発掘調査で得られた津波の痕跡について網羅的に紹介したことによって、観覧者は自然災害の脅威を知り、防災意識を高めることになったと思っています。
 残念ながら、沖縄県での緊急事態宣言の発令により、今回の展示は5月23日が最終日となってしまいました。同時に、5月29日の宮古島における津波の痕跡をめぐる現地見学会、6月5日に予定していた展示解説会も中止ということになり、展示担当者としても不完全燃焼な状況となってしまいました。また、多くの方々から今回の展示や関連イベントの問い合わせや参加申し込みがあったことから、明和津波への関心の高さが窺えたと共に、より多くの方々に観覧していただきたかったという思いが強く残ることになりました。

 そこで、今回の展示並びに関連イベントを楽しみにしていた方々に対して、展示解説動画を製作し、youtube上で公開する試みを行うことになりました。前・後編各10分程度の展示解説動画を近日中に公開する予定です。
 「大津波の痕跡を探る―発掘調査で確認された、いわゆる明和津波の痕跡―」は当初の期間より短い日程で終了してしまいましたが、展示解説動画は興味があれば、好きな時間に見ることができますので、気軽にアクセスしていただければ幸いです。


写真1 展示風景(第1~3章)


写真2 展示風景(第3,4章)


写真3 展示入口風景


写真4 伊良部島佐和田の浜に見られる津波石群


写真5 石垣島の崎原公園内ある津波大石(推定重量1000t)
 
当館主任学芸員 山本正昭

当館主任学芸員 山本正昭

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