当館では、平成27年(2015)から令和3年(2021)にかけて琉球王国文化遺産集積・再興事業を行なっています。この事業は、近代化や戦災により失われた琉球王国時代の文化遺産に関わる学術的知見や科学分析等の情報を集積し、現代の最高水準の手わざで復元(再興)することが目的です。復元する資料は、絵画、木彫、石彫、漆芸、陶芸、染織、金工、三線の8分野65件に及びます。
元来、模造復元とは、ある資料が制作された当時の姿を忠実に再現したものを 現在の職人が新たに制作することをいいます。材料や技法は可能な限り制作当時と同じものを用いるという点でレプリカとは大きく異なります。模造復元するにあたり、オリジナルの作品がある場合は、「原資料」と呼びます。模造復元の第一歩は、原資料をあらゆる方法で詳しく調査・研究することから始まります。さらに原資料についていちばん良く知るための方法は、実際に作ってみることです。また研究者と職人という違う立場の人たちで協力して研究・製作することで、新しい発見が得られる場合もあります。
昨年度までに29件の模造復元製作が完了し、今まで知られていなかった琉球王国時代の手わざについて、様々な新しい発見がありました。本事業で模造復元した作品を2点ご紹介します。
「孔子及び四聖配像」
描かれた時期は18-19世紀といわれますが、詳細は不明で作者もわかっていません。原資料は経年によりややくすんでいますが、摸造復元品は部分的に使った金箔が光り、神々しい印象です。戦前の調査によると久米の孔子廟にあったという記録があるので、人々に拝まれる絵にふさわしい豪華な作品です。調査によって描き方を分析し、制作には複数人の絵師が関わっていることがわかりました。また科学調査による顔料分析の成果を踏まえて制作されました。背景には胡粉が塗られ、鉛白や辰砂、花緑青などの顔料が使用されていると考えられます。
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「線彫雲龍文呉須手焙」
旧王家に伝来し、壺屋の高い技術が表れる手焙です。手焙とは、寒い時期に手を暖めるために使う火鉢の一種です。筒形の側面に躍動感のある龍や雲、宝珠が線描で描かれています。生き生きとした龍の描写と、藍色の呉須の発色が見どころです。材料について検証を重ね、呉須は中国で入手した呉須が近い発色をすることがわかりました。琉球王国時代にも中国から輸入した呉須を使用して製作した可能性があります。まだ試作の段階ですが、写真に映る3点のうち1点が原資料で、2点が模造復元品です。さて、どれが原資料かわかるでしょうか。(答えは文章の一番下をご覧ください) |
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当館では、2020年2月4日から琉球王国文化遺産集積・再興事業の成果を発信する特別展を開催します。本事業を通して製作した模造復元品と、琉球王国の美術工芸に係わる最新の研究成果をご紹介する機会になりますので、ぜひご来館ください。
(線彫雲龍文呉須手焙の原資料は左端です。)
学芸員 篠原あかね
学芸員 篠原あかね