1. 三線の音へのアプローチ ―平成25年度企画展「三線のチカラ―形の美と音の妙」へ寄せて―

三線の音へのアプローチ ―平成25年度企画展「三線のチカラ―形の美と音の妙」へ寄せて―

最終更新日:2012.12.14

図1「開鐘」の首座といわれる盛嶋開鐘

図1「開鐘」の首座といわれる盛嶋開鐘

図2盛嶋開鐘の胴部分のCTスキャン映像(九州国立博物館で撮影)

図2 盛嶋開鐘の胴部分のCTスキャン映像
(九州国立博物館で撮影)

沖縄の伝統楽器である三線が、県の伝統的工芸品になりました。沖縄県工芸産業振興審議会の審議により、指定の妥当性が知事に答申されました。そのことは県民にとっての朗報であり、大変嬉しく思いました。同時に意外さも感じたものです。戦後、新聞社事業として歌・三線をはじめとする古典音楽が隆盛をきわめ、毎年コンクールが開催され、国内外から多くの参加者を数えています。当たり前のように三線はその必需品になっており、声楽を引き立てる名脇役としての働きをしてきました。余りに普段のモノ過ぎて、「工芸品」(=高級品として)認識されてこなかったことが原因なのでしょうか。

この三線をテーマにした展示会が当館では過去2回あります。1回目は昭和63年(1988)の「三線名器100挺展」。2回目は平成11年(1999)の「三線のひろがりと可能性展」。どちらも県民の支持を得た人気の展示会でした。とりわけ、2度目は三線盛嶋開鐘や江戸与那など沖縄県有形指定文化財の名器実演などの関連催事を開催したことも手伝ってか、その催し物の際には、博物館の講堂は聴衆で満杯になり、嬉しい悲鳴をあげたほどでした。

さて、戦後67年目にして、晴れて沖縄県伝統的工芸品に仲間入りした三線ですが、文化財指定はかなり先行しており、琉球政府時代にまで遡ります。昭和30年(1955)に、3挺の「開鐘」三線が特別重要文化財として指定されました。さらに33年(1958)までにさらに8挺の三線が指定されました。これら11挺の三線は、復帰に伴い、沖縄県指定有形文化財(工芸品)になりました。ただ、当時の指定名称は、三線ではなく三味線という用語を用いていました。その後、追加の三線指定が復帰後の平成6年(1994)に行われました。文化庁の補助事業の「県内所在琉球三味線調査」に基づき、9挺の三線が追加指定されたのです。その中には、開鐘の首座といわれる旧王家伝来の「盛嶋開鐘」やハワイ帰りの「富盛開鐘」の2つの開鐘が含まれました。加えて、従来の「三味線」の指定名称は「三線」に改められました。博物館での2度目の展示会では、これら県指定20挺の三線が一堂に会した壮観なもので、三線ファンにはまさに千載一遇の機会であり、垂涎の的であったにちがいありません。

さて、過去2回の展示会に負けない売りを考えないといけないジレンマを感じつつ、新博物館・美術館初の三線展を来年度実施するための準備を現在行っているところです。このことは、10数年間を経ての三線研究の成果が問われる展示会でもあります。そのひとつとして考えたのが、楽器としてのアプローチ、すなわち「名器の音」をテーマにすることです。

今回、琉球三線楽器保存育成会や琉球大学工学部の指導、協力をいただき、三線の音の周波数(スペクトル)計測や実演家や一般の人々を対象に聞き取り調査(聴取実験)を試みたいと思っております。果たして、現代人は開鐘三線の音をいい音(「上等」音)と感じるのでしょうか。糸や胴、棹の新旧、棹材質、型の違いによって、音の差異について聞き分けることができるのでしょうか。美音として感じることができるのでしょうか。聞き取り調査はプロ用と一般用と2回実施します。1回目は実演家の皆さんを対象としたものです。2回目は私の学芸員講座で行うものです。その講座の日時は、12月23日(日)午後2時からです。その結果を分析して、来年度の展示会の内容に反映したいと思っています。

三線の音にこだわることには、理由があります。実は、盛嶋開鐘には特殊な胴が用いられています。現在一般的に使用される胴の内部形状は扁平なものですが、盛嶋のものは、凹凸の複雑な細工が施されています。盛嶋開鐘は、「附胴」といって、胴も含めた文化財指定をしています。蛇皮に覆われて見えない胴内部に、先人のこだわりを見ることができます。実際、現代の胴製作の名工に複製品を作ってもらいました。電動糸鋸などの最新器具を用いても、時間と労力と高度な手わざが求められることが、その製作工程からわかりました。それゆえに、その胴の意味を見過ごすわけにはいかないのです。

琉球王国時代の人々が執着した音とはどのようなものだったのでしょうか。琉球古典音楽は、「歌三線」といわれます。主従の関係でいえば、主が声楽の歌であり、従が伴奏楽器の三線です。しかしながら、三線奏楽を伴わない声楽は、なんと味気のないものでしょう。善い絃音を奏でる三線は、よりよく声楽を引き立たせ、演出します。そのことが、開鐘の志向を扇いだのかもしれません。12月23日の講座受講時には、200名の受講者に聞き取り調査の協力をお願いします。耳ヂカラ(聞き分けるチカラ)で盛嶋開鐘の音色を聞き分けることができるか、トライしてみてください。当日は先着順ですので、溢れたら、ご容赦ください。

主幹(学芸員) 園原 謙

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