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第一尚氏王統の知れざる物語② ―謎多き志魯・布里の乱―

最終更新日:2025.12.15

(前回からの続き)

4. 布里という人物について

  布里は尚巴志の六男とされていますが、生年と出生地は共に不明で、正室とされる真鍋金を実母としていないという謎多き人物になります。
   琉球王国は1440年代に毎年のように奄美方面へ毎年のように遠征を行っており、その指揮を執っていたのが第5代国王尚金福の弟であると『朝鮮王朝実録』には記されています。この中では「王弟」として記されており、この人物こそが布里に当たるという説もあります。
 また、布里は1453年まで現在の沖縄市江洲一帯を領地として与えられ、江洲グスクを拠点にしていたことから「江洲王子」とも呼ばれています。

5.火に包まれた首里城での大乱

 布里の実兄である尚金福が1453年に逝去すると、その嗣子である志魯が次期国王として即位するはずでした。しかし、それに対して布里は異を唱えたとされています。
 この第6代王位をめぐる継承問題は最終的に軍事衝突へと発展し、それによって首里城が広く焼けることになります。布里がこの時、速やかに軍事行動へ移すことができたのは奄美への遠征を何度も行っていたことにより、軍事動員に手慣れていたとも考えることができます。なお、過去に行われた沖縄県教育委員会による首里城跡正殿地区の発掘調査ではこの際の被熱痕を確認したと報告されています。
 『明実録』には志魯・布里の乱によって明朝から賜った鍍金銀印が溶解し失われてしまったこと、そして両者が共に斃れたことが記されています。これは琉球使節から皇帝に対しての報告であったことから外交上の面で脚色されているという指摘があります。よって、その真偽については検証の余地があることは言うまでもありません。

6.布里は生き延びていた?

 南城市玉城當山には布里が首里城から落ち延びてきたという伝承が残っており、そして「布里の墓」とされる場所があります(写真1)。 

写真1 布里の墓

 また、その近くには布里の妻とされる「真佳度金の墓」、布里とその関係者の神位を祀った「上江洲の神屋」、そして布里を祀っている拝所「上江洲の殿」も存在しています(写真2)。 

写真2 上江洲の殿
 
 更に布里の墓と並んでその次男とされる「布里子の墓」まで存在していることから、布里は最終的に當山まで逃げて居を構え、その後は子孫がこの地に根付いたことが窺われます(写真3)。

写真3 布里子の墓

 『明実録』に記されている志魯と布里が共に斃れたということを琉球使節は報告しているものの、このように當山集落内には布里に関係する史跡が今に残っていることから事実かどうかは疑わしく見えてきます。加えて、17世紀に編纂された正史『中山世鑑』には不可解なことに志魯・布里の乱そのものが記されていません。何らかの都合により志魯と布里の存在とそれに関連する出来事が文献上では歪められていることが見て取れます。

7.現地を歩いて考えてみる

 以上、布里にまつわる内容を簡単にまとめてみたのですが、とても多くの謎があることが理解できたかと思います。そこで少しでも歴史の事実に迫ってみようということを目的に冨里と當山地区にある第一尚氏に関係する史跡を実際に見てまわるフィールドツアーを去る令和7年12月4日に沖縄美ら島財団が主催で行いました(写真4)。

写真4 冨里集落と當山集落空撮

 参加希望多数の中、抽選で選ばれた24名の参加者と共に前回同コラムで紹介した安次富金橋、三津葉多武喜、八幡加那志、百十踏揚ゆかりの史跡と今回取り上げた布里ゆかりの史跡を中心に約3時間かけて冨里と當山集落各所を訪ね歩きました(写真5)。

写真5 フィールドツアーの様子(沖縄美ら島財団提供)

 志魯・布里の乱と現地に残る伝承を交えながら布里の墓を見学しましたが、やはり史跡を目の前にすると歴史のリアリティーを感じられると参加者から感想を頂きました(写真6)。

写真6 布里の墓前での解説(沖縄美ら島財団提供)

 歴史的事件の顛末を考えていく中で現地の史跡を見てみると、新たな知見を得られることが多々あります。しかしながら、訪れたい場所の特定や、事前の情報収集といったように調べることが多くあることから中々、実行に移すのは困難であると言えます。そのため、このようなフィールドツアーは歴史を学ぶ絶好の機会となりますので、ご興味ある方は積極的に参加していくことをお勧めいたします。
                                                (おわり)

◎関連動画

 琉球王国尚王統成立600年記念事業
 博物館学芸員講座「王権の痕跡-第一尚氏ゆかりの遺跡を辿る-」


◎おすすめの催事情報

フィールドツアー
南城市de歴史散歩 知名区 【区民編】
―太平洋を望む東廻りの聖地に接する集落―
 令和8年1月31日に南城市教育委員会主催で南城市の知名集落内の史跡をめぐるフィールドツアーを知名区在住もしくは知名区にゆかりのある方に限定して行います。詳細につきましては下記のチラシをご覧ください。
※一般参加の回は前回の学芸員コラムの最後に告知しています。
https://okimu.jp/museum/column/1765179728/

①開催日時:2026年1月31日(土)13:30~16:30
②講師:山本正昭(沖縄県立博物館・美術館 主任学芸員)
③参加定員:30名
④対象:小学3年生~(小学生以下は要保護者)
⑤参加費:無料
⑥申込み方法:当日受付



                           




 

主任学芸員 山本正昭

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