1. 必見!グスクの石積み③

必見!グスクの石積み③

最終更新日:2024.07.25

 (前回からの続き)
 前回は日本列島の城郭、前々回は琉球列島のグスクについて石積みや石垣が導入されていく経過について触れていきました。今回は中国大陸の城郭に見る石積みがどのような背景で使われているのかについて解説をしていきたいと思います。

1.万里の長城は土壁か石積みか

 紀元前221年に秦が中華を統一した後、北方民族である匈奴の侵入を阻むために万里の長城を築きました。この万里の長城はその後の中国大陸歴代王朝によって修復や増築がなされました。主に土壁や塼積みによる城壁となっていますが、一部石積みも見ることができます。近年の調査では漢代の長城が石積みであったことが明らかとなっていることから、今から約2000年前までには石積みの城壁が築かれていたと言えます(写真1)。 


写真1 石積みによる万里の長城(新華社通信からの引用)

  しかし、華北(中国大陸の北部)は地質的に見ると岩石の分布が乏しく、石材の確保が難しいことから、城壁は土壁や塼積みで立ち上げられているのが一般的です(写真2)。一方で華南(中国大陸の南部)では花崗岩や玄武岩が採石できることから、それらの石材を用いて城壁を立ち上げているのを明代以降に見ることができます。

写真2 登州水城(中国・山東省)の門楼と塼積みの城壁
 

2.花崗岩を多用する城壁

 花崗岩は火成岩で石英と長石が主成分であると共に白色から青色にかけての色合いを呈しています(写真3)。比較的、堅くまた緻密であることからかなり重量があります。加えて、花崗岩を石積みとして用いる際には精加工するのに難易度が高いことから、高度な加工技術を必要とします。

写真3 花崗岩(沖縄県立博物館・美術館所蔵)

 先ほど触れたように華南では花崗岩が採石できることから(写真4)、それらを用材として城壁を構築している城郭が福建省や浙江省で多く見ることができます。それらの石積みを詳しく見てみると自然石に近い粗割りした石材を積み上げたもの(写真5)や方形に精緻に加工して積み上げたものが見られます。とくに城門近くの石積みについては精加工した方形の石材を組み上げている石積みを良く見ることができます(写真6)。

写真4 割り取られた花崗岩の露頭(福建省)

写真5 長興城堡の石積み(中国・福建省)

写真6 大金所城の石積み(中国・福建省) 

このように中国大陸では石材が確保しやすい地域に限って石積みの城壁を築いていると言えます。
 

3.石積みによる城壁の中身は?

 このように福建省や浙江省の一部地域では石積みによる城壁が明代以降において主に見られるようになりますが、琉球列島のグスクに見る石積みによる城壁とは決定的な違いがあります。
中国大陸に見られる石積みの城壁内部には土が押し込まれており、外側の見える部分に石材を積み上げています。つまり土壁の外面に石材を貼り付けたような形となっています(写真7)。この土の部分は幾度も叩き締めて嵩上げしていることから、雨水が城壁の中心部分に浸透せず、その形を長く保つことができます(写真8)。

写真7 長渓城堡の石積みと城壁内部(中国・福建省)


写真8 福全所城に見る面石散乱状況と石積みの内側部分(中国・福建省)

 対してグスクや日本列島の近世城郭に見る石積み、石垣の城壁は内部に小さな自然石(裏込め石)を充填しています(写真9)。これは、あえて雨水を城壁の中心部分に浸透させることによって地下へ流していくといった排水方法で、中国大陸の城壁とは大きく異なる独自の技術であると言えます。
城壁内部の違いは、きめの細かい土が採れる地域と石材が多く採れる地域という違いにそのまま当てはめることができます。中国大陸では黄土と呼ばれる微砂が広く分布していることから、これらを土壁用の材料として使用することができます。一方できめの細かい土よりも石材が豊富に採れる沖縄本島や日本列島の一部地域などでは、石積みの城壁内部にも石材を充填させるといった技術の方が発達したものと考えられます。

写真9 唐津城の石垣の裏込め石(佐賀県唐津市)
 

4.結局のところ、石積みの城壁から何が分かるのか

 以上のように、その場所で採れる石材や確保できる資材といったように地域の特徴や状況に合わせて石積みを立ち上げる技術が異なってくると言えます。また、石積みの技術が海を越えて直接、伝わってくると言うことは、中国大陸、日本列島、沖縄本島の関係においてはほぼ無かったものと見ることができます。
石積みや石垣を見ていく時にはどのような石材が使われているのか、そしてどのように加工されているのかに注目していくことで、その地域の城郭が築かれた当時の背景を読み解く切っ掛けになると言えます。
                

次回へ続く
                                             (主任学芸員 山本 正昭)

◎学芸員講座のお知らせ

 令和6年9月7日(土)の沖縄県立博物館・美術館が主催する学芸員講座では、グスクに見る石積みの成り立ちや石積みの種類について話をする予定です。
本館3階講堂にて14時から開催しますので、グスクの石積みについて興味ある方、そしてより深く知りたい方はぜひご参加ください。




 

主任学芸員 山本正昭

シェアしてみゅー

TOP