1. 倭寇について考える⑩                            ―壁に囲われた集落・狩俣―

倭寇について考える⑩                            ―壁に囲われた集落・狩俣―

最終更新日:2024.07.04

 東南アジアや中国大陸では今でも壁に囲われた町や集落を、現在においても見ることができます。しかし、琉球列島はおろか日本列島にてそのような町や集落は全く見ることができません。それは国内の治安状況がそれらの地域と大きく異なることや、交通の便に支障を来たすこと、山や谷、河川といった自然の地形で囲まれた場所が多く見られることなどの理由により、日本国内では一部例外を除いて古来より壁は設けられませんでした。
 今回のコラムでは宮古島にある古い集落において、かつて壁の囲われていたことについての詳細に触れていきたいと思います。

1.唯一無二の特徴を持つ狩俣集落

 宮古島の最北端近くに位置する狩俣集落(写真1)には約120年前まで集落の外周を石積みや土塁で囲われた壁が存在していました。そして、集落内外を行き来する道には石門が南東側、東側、北側と計3カ所設えていました。集落を囲っていた壁は1906年に撤去され、以降はその面影を辿ることは難しくなっています(写真2)。南東側にあった石門だけは平成に入ってから新たに造り変えられて、今も集落のランドマークとなっていることがかつての姿を偲ぶ数少ない遺構となっています(写真3)。このように、集落が石積みなどによる壁で囲われる例は琉球列島の他の地域では見ることはできないことから、狩俣集落がとても特徴的であると言えます。

        
写真1 狩俣集落空撮                  写真2 現在見る狩俣集落の様子

写真3 狩俣集落へ入る石門

2.集落を城壁で囲うことの理由

 かつて狩俣集落を囲っていた石積みや土塁ですが、いつ頃に築かれたのかということは明らかとなっていません。伝承では集落の長であったクバラパーズ(玖波良葉按司)が生きていた頃に築かれたとされていることから、約800年前に石積みや土塁が築かれたことなります。クバラパーズは中国南部から津堅島(写真4)を経由して宮古島へ渡ってきたとされている人物になります。狩俣にはすでに日本本土から宮古島へ渡ってきた人々が住んでいたとされ、クバラパーズはそれら先住者を支配し、狩俣の長として集落を統治したとされています。


写真4 津堅島空撮

 狩俣集落が村立てして間もない時期のこれらの話は伝承の域を出ることはありませんが、様々な地域から宮古島へ来島していたことを端的に示していると言えます。それと、これらの外来者を排除しようとする島の人々と間に軋轢が生じたことや、更には島外から来島する人々の中には略奪行為を行う集団も存在したことから、城壁としての石積み等を築き、自身とその周辺の人々の生活域を守っていたことが想像されます。

3.一集落から東アジア世界を読む

 近年、狩俣集落にかつて存在していた壁が注目されるようになり、その実態を明らかにする目的での発掘調査や測量調査が行われています。この調査にて野城式土器と呼ばれる土器片が出土したことから、狩俣集落は13世紀頃まで遡ることが明らかとなっています。また、14~16世紀の中国産陶磁器片が発掘調査により多数、出土していることからも外から持ち込まれる物品も多く存在していたことが窺えます。更に、かつて集落を囲っていた城壁の一部が集落の南端で高さ2~3mの土塁として残っていることも確認されています(写真5)。
 この様に発掘調査により明らかにされていく狩俣集落は単なる狩俣地域だけの歴史解明に止まらず、東アジア海域において様々な人々が往来し、琉球列島の各島々にも渡来していたことを示す確かな歴史的証拠として見ることができます。


写真5 狩俣集落の南端に残る土塁

4.まとめ

 今回は狩俣集落を取り上げましたが、宮古諸島には未だ明らかになっていない集落遺跡が多く存在しています。とくに14~16世紀の集落遺跡の中にはオイオキ原遺跡(写真6)や上比屋山遺跡(写真7)といった石積みを伴っている事例も多く見ることができます。それらは倭寇の実態を考えていく上で重要なヒントが隠されていると言っても大げさではないでしょう。
   
写真6 オイオキ原遺跡の石積み             写真7 上比屋山遺跡の石積み

最後に、

◎展示情報

 令和6年9月25日から10月1日にかけて、沖縄県立博物館・美術館のエントランスにてミニ展示『壁の時代―宮古島クバカ城跡・狩俣集落の発掘調査―』を開催します。今回のコラムで取り上げた狩俣集落の発掘調査で出土した遺物も展示する予定となっている他、狩俣集落の発掘調査成果についても詳しく紹介する予定です。更に9月25日、29日、10月1日には展示解説会も行います。詳しくは下記のチラシをご覧ください。




 

主任学芸員 山本正昭

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