1はじめに
みなさんは、学生の頃にどのような歴史の授業を受けてきましたか。
縄文人の狩猟採集生活の様子から始まり、まじないでクニを治めた卑弥呼、聖徳太子の冠位十二階、「鳴くよウグイス平安京」、「いい国つくろう鎌倉幕府」、徳川幕府の成立と討幕運動。そして、後に続く明治、大正、昭和、平成と私たちの社会がどのような歩みを経て形成されてきたのかを通史的に学習してきたと思います。また、戦国時代に活躍した武将などの個性やエピソードに惹かれて学習した人も多いことでしょう。教科書の内容に興味を持って学習することはとても意義のあることだと思いますが、何か抜け落ちてはいないでしょうか。それは「郷土の学習」です。教科書が全国標準の教材であるがゆえに、どうしても郷土の学習が不十分になってしまいがちです。地域によっては独自の副教材を活用し、素晴らしい実践をしているところも沢山あります。今回の学芸員講座では、私のこれまでの経験を少しでも参考にしてもらえればと思い、「郷土を題材にした歴史教育について」と題して、お話をさせてもらいました。(写真1)
写真1
2アンケートからわかる中学生の実態
まず初めに、中学生を対象にした沖縄に関するアンケートの結果をいくつか紹介したいと思います。私は学校現場で勤務していたこともあって、子ども達の学習状況を把握してきたつもりですが、沖縄の事についてどの程度理解しているのか調査したことがありませんでした。そこで、沖縄市内のA中学校2年生159名を対象にアンケートを実施しました。考察できることがいくつか得られましたが、全県的な調査ではなく学年も限定的なので、参考程度に捉えて頂きたいと思います。
グラフ(1)(2)からは、沖縄の自然・歴史・文化についての興味・関心があまり高くないことが分かりました。沖縄をテーマにした授業などでは生徒達の反応も良く、興味・関心が高いものだと思っていただけに意外な結果となりました。現代の社会は都市化や情報化がますます進展し、それに伴い自然体験、社会体験、生活体験の機会が減少し、地域との関わりが希薄になりつつあります。身近な地域に目を向ける機会が少なくなってきたことが、地域に対する興味・関心を低下させている要因の1つになっているのではないでしょうか。
グラフ(3)から(6)では、沖縄の歴史的事象についてあまり理解していない生徒が多いことが分かりました。ここでは掲載していませんが、計24の質問項目から同様の結果となりました。様々な要因があると思いますが、学習する機会が不十分だということが考えられます。中学校の歴史の教科書では「琉球王国の成立」「薩摩藩の琉球支配」「沖縄県設置」「沖縄戦」「復帰」などについて取り扱っているものが多いのですが、出版社により量も内容も差があります。学校教育で不十分な部分を、私たち博物館のような教育施設が補っていく必要があると強く感じています。
3出かけよう!フィールドワーク
子ども達の郷土に対する興味を高め、理解を深めるためには、ホンモノにふれるフィールドワークが効果的だと考えます。自然体験・社会体験などの機会が減少しつつある現在、体験的な活動を通して質の高い学びを進めることができるのではないでしょうか。フィールドワークの利点としては五感にふれ、多面的な視点から物事を捉えることができるとともに、ガイド役の先生方も生徒から地域の情報を得ることができるなどWin‐Winの学習活動ができることだと思います。私自身、学校現場で勤務していた頃は地域にある博物館の学芸員さんの力をお借りしながらフィールドワークを実施していました。教室では経験することができない生の学びだったと感じています。
4おわりに
今回の学芸員講座ではフィールドワーク以外にも、これまでの授業の実践例や教科書に掲載されている沖縄関係資料の解説を行いました。(写真2)(写真3)
博物館には郷土資料が沢山展示されています。これらの資料を子ども達や一般の方々の学びに役立ててほしいと願っています。出前講座なども是非活用しながら、博物館で学びを深めてみませんか。
写真2「八重山風俗図」
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写真3「琉球貿易図屏風(複製)」
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主任学芸員 宮城 修
主任学芸員 宮城 修