最終更新日:2019.11.29
図1 冒頭部分
図2 タイトル
図3 分割画像
図4 塩屋ウンジャミ
図5 映像最後
青い海と青い空が印象的な映像だったはずです。当館の劣化フィルム保管庫にある16ミリフィルム映画「かりゆしの島-沖縄」のことです。約17分間の映画は、1975年に開催した沖縄国際海洋博覧会Expo75で上映されました。この作品の助監督を務めたのが、あの「ウルトラマン」の生みの親で、南風原町出身の脚本家、金城哲夫(故人)氏なのです。
沖縄の民俗や文化を紹介するパビリオン「沖縄館」で上映されていたもので、ウンジャミなどの神事やエイサー、ハーレー、綱引きなどが取り上げられています。撮影地は国際通りや壺屋、糸満、与那原、喜如嘉や塩屋などの沖縄本島各地に宮古島や渡名喜島、伊江島など各離島で行われました。短編映画ですが、美しい自然や豊かな工芸、信仰や海とともにある沖縄の暮らしを映し出し、まるで画面から44年前の沖縄があふれ出てくるような魅力的な映画です。
しかし、残念ながらその16ミリフィルムは年月とともに劣化し、青や緑の色を失ってしまいました。かろうじて赤色が残っていますが、再生した映画は終始、夕焼けの空や赤茶けた海となっています。40年以上の時を経ていれば、退色は免れないものだといえるでしょう。年月の経過とともに青や緑の色が衰え、全体に赤みを帯びた映像になったのです。
フィルムの劣化については、経年劣化もありますが、保管されていた場所にも大きく影響を受けます。例えケースの中に保管していたとはいえ、直射日光があたる部屋や高音多湿の部屋に置いていたならば、そのダメージは大きく劣化の進行を早めることになります。フィルムは75年に製作したものですが、当館が収蔵した時には退色が始まり、フィルムから酢酸が発生する状態になっていました。
劣化が進行すると退色以外に、フィルム自体のうねりやゆがみといった変形が進み、映写機では上映できない状態になります。フィルムの縁に一定間隔で開けられている四角い送り穴のことをパーフォレーションといいますが、ゆがみによってこの送り穴を固定できず、空回りすることでフィルムを傷つけたり、場合によっては断裂を起こしてしまうのです。フィルムは状態を確認した上で、当館の映像編集室においてデジタル化を行いました。現在はクリーニングを済ませ、酢酸を閉じ込めるために乾燥剤とともにビニールパックで密閉し、室温が15~18℃の劣化フィルム保管庫に配架しています。
さて、このフィルムのデジタル化についてですが、実はこの映画の色を復活させようという取り組みをしています。「かりゆしの島-沖縄」を再度デジタル化することで、映像をデータとしてコンピュータに取り込み、色を分析しながら補正を行うのです。機械的な処理である程度の色は戻りますが、最後は私たち人間の眼と手作業で細かい色補正を行っていきます。
後から色を着色するのではなく、フィルムに残っている色から、再度かつての色を取り戻す作業になります。赤みを帯びた映像が「青い空、青い海、緑の木々や赤瓦の家並み」の映像に復活するのです。色鮮やかになって甦る「かりゆしの島-沖縄」は、きっと私たちを1975年の世界にいざない、心に彩を与えてくれるでしょう。
主任学芸員 外間一先
主任学芸員 外間一先