最終更新日:2016.06.29
地学分野の学芸員講座はここ数年、「ジオツアー」と題して、地質や地形の観察会を行っています。「ジオツアー」とは、地層や地形の観察を通して、大地の成り立ちや自然景観の仕組みを読み解くことを目的としたツアーです。普段目にすることのできない地層や地形を観察する野外活動ということもあり毎年、多数参加があります。
今年度も昨年12月同様、実施場所を宜野座村としましたが、前回、潮の関係で行けなかったところまで行くために、昼の干潮時の潮位が冬季より低い5月実施としました。梅雨入り前の大変蒸し暑い中ではありましたが、今年度も多数の応募があり、小学生から60代まで幅広い年齢層の方にご参加いただきました。
(1)観察地1(宜野座漁港南側)
嘉陽層は砂岩と泥岩(頁岩)の互層を主体としますが、ここでは砂岩が優勢です。その中には級化層理(一つの地層中の粒子が大きなものから小さなものへ連続的に変化している状態;写真1)や、玉ねぎ状風化(写真2)、変形し垂直になった地層(写真3)等を様々な角度から観察することができます。水平に堆積した地層がなぜこのように変化・変形してしまったのでしょうか。堆積当時から、現在に至るまでの間に、何らかの大きな力がはたらいたことが考えられます。嘉陽層は、タービダイト(混濁流堆積物;大陸棚から大陸斜面にかけて堆積した砂や泥が海溝付近へ流れ下ってできた堆積物)であるということが研究で明らかになっています。級化層理や地層が所々ちぎれてバラバラになった構造等は、このような嘉陽層の成因を示す証拠の一つであり、褶曲や断層などによる変形は海溝付近でプレート運動による大きな力を受けたために生じたと考えられています。
観察地1の最後には、何万年もかかって形成された地層や地形がこれで変化を終えるのではなく、今もなお太陽エネルギーや水の作用により、風化し変化していることをお伝えしました。風化した大地は土壌(中北部であれば国頭マージ)となり、水の流れで海へ流出します。それがまた海底に新しい地層を作ります。観察を通して、過去から現在、未来に至る大地の変化の流れを感じていただけたらと.思います。
(3)他地域の嘉陽層
嘉陽層と一言で言っても、場所によって、その構造や構成する岩石の割合が異なり、見た感じも大きく異なります。また、ここでは観察できませんでしたが、生痕化石やカヘイ石の化石を含みます。ぜひ、他地域へも出かけ探してみて下さい。
参加された皆さんは大変熱心で質問に圧倒されましたが、私自身も大変勉強になる楽しい時間となりました。特に印象に残ったのは、今回、最年少、小学生のお子さんの観察眼の鋭さです。観察にあたり少しのヒントを与えることだけで、次々と新しい発見をして一つひとつ私に報告してくれました。将来がとても楽しみですね。
今、陸上で同時に見える地層から、何年も前の過去の地球の営みによる大地の変化を想像することは、ロマンに溢れ考えただけでワクワクします。また今回の実習地に限らず、野外観察は何回行っても新しい発見があり、楽しいものです。これを機会に、言葉は語らないが過去の事象を教えてくれる大地の成り立ちについて考え、身近な地域の地形や地質に目を向ける機会が増えると幸いです。また他地域の地層にも目を向けるとともに博物館へも足を運んでいいただき、他地域の岩石と比較し、島々の成り立ちについても考えていただけたらと思います。
参加された皆さん、本当に蒸し暑い中、最後までお疲れ様でした。また野外でお会いしましょう。
主任学芸員 宇佐美 賢