最終更新日:2010.12.24
野外で調査をしていると、調査地となっている地元の人たちと話をする機会がよくある。商売柄、話の内容は動物や植物、かつての生活の様子などが主である。永年その地域で暮らしてきた古老の話は、含蓄に富んで興味を引くものが多い。先日も、名護市で一人の古老から話を聞いた。若い頃はイノシシ漁をして、山中を歩き回っていたという人だ。
『昔は川に入ると、ワクビチ(渓流にすむ大きなカエル)やカニがたくさん捕れた。よく食べたよ。特にケガニ(おそらくモクズガニ)は籠いっぱいとれたものだ。今はワクビチはいないし、カニは小さくなっている』。
「確かにそうですね」、うなずく私。
『昔は大勢の人が山に入った。特に薪を取るためには、40人から50人くらいが一緒に入っていった。薪を取るときは、取ると決めた場所の木を全部切った。相当な面積を切った。大きい木も小さい木も、全部切って持ち帰って薪にした。』
『山の木も、今ほど大きくはなかった。だから切るのも、そんなに苦労しなかったさぁ~。この向かいの山の斜面にも馬道があってね。みんなそこを通って山に行き来していたんだ。ここからでも馬道を通る人がよく見えたよ。』
『毎日、毎日、あれだけの人が山に入って、たくさんの薪を取っていた。だから、山の状態は今よりも厳しかったと思う。荒れ果てていたというほどではないが、私らの生活のものはほとんど山から取っていたからね。』
『戦後しばらくしてから、いろんな物が手に入るようになった。山から取る物もだんだん少なくなって、今では生活のために山から物を採ることはなくなった。水だけだね。水は今でも、山の水をひいて使っているよ。』
『もう、シマ(集落)の人たちもほとんど山には入らない。だから、山の木も昔よりも高くなって、茂っている。山の状態は、今の方が昔よりもずっといい。』
そして、続けて出た言葉は、『だけどね、川や山の動物は、昔のようにはいないんだよ。』
「う~ん。・・・」うなるしかない私。
博物館副館長 千木良 芳範