1. オカヤドカリ―沖縄の自然海岸を象徴する生き物―

オカヤドカリ―沖縄の自然海岸を象徴する生き物―

最終更新日:2009.12.03

放幼生のため降海するの雌。オカヤドカリ(Coenobita cavipes)

放幼生のため降海するの雌。オカヤドカリ(Coenobita cavipes)

放幼生した瞬間。オカヤドカリ (Coenobita cavipes)

放幼生した瞬間。オカヤドカリ(Coenobita cavipes)

漂着した餅を食べる。ナキオカヤドカリ(Coenobita rugosus)

漂着した餅を食べる。ナキオカヤドカリ(Coenobita rugosus)

リンゴに群がり食べる。ナキオカヤドカリ(Coenobita rugosus)、ムラサキオカヤドカリ(Coenobita purpureus)

リンゴに群がり食べる。ナキオカヤドカリ(Coenobita rugosus)、ムラサキオカヤドカリ(Coenobita purpureus)

海岸をのんびり歩くオカヤドカリ、沖縄に住んでいる方なら誰しも目にしたことのある光景ではないでしょうか。でも、生物としてのオカヤドカリの特徴はあまり知られていないようです。今回は、沖縄の自然海岸を象徴する生き物、そして国の天然記念物でもある「オカヤドカリ」を紹介します。
オカヤドカリはエビやカニの仲間です。海のヤドカリから進化した生き物ではありますが、陸上生活に適応しており、もはや水中では生きていけません。海水の中では呼吸できないため、数時間で溺れ死んでしまいます。世界の熱帯・亜熱帯域に十数種類が生息していて、そのうち日本では和歌山県以南に7種、沖縄県では6種(オカヤドカリ、ナキオカヤドカリ、ムラサキオカヤドカリ、オオナキオカヤドカリ、コムラサキオカヤドカリ、サキシマオカヤドカリ)が分布しています。
親のオカヤドカリは陸上で生活しますが、幼生は母親によって海に放たれ、1ヶ月程度プランクトンとして暮らします。その後、小さな巻貝に入って上陸し、雄は基本的に生涯海にもどりません。一方、雌は幼生を放すためときどき海に降ります。この降海には規則性があり、夏の大潮の日の暗くなった直後に特に集中して行われます。6月末から8月くらいにかけて、満月か新月の日の晩、懐中電灯をもって自然の残っている海岸に行ってみましょう。日が沈んで30分ぐらいすると、残照も殆ど消えて暗くなってきます。このとき汀でじっと待っていると、陸側の茂みの中からオカヤドカリの雌たちがゴソゴソとやってきます。このとき、懐中電灯の光をまともにあててはいけません。彼女たちを驚かせないように、懐中電灯の光の輪の端のほうでそっと観察しましょう。雌はしばらくして海に入り、宿貝をポンプのように動かして中の幼生を海に放出します。幼生は、数ミリしかないので、数百の幼生が放出された瞬間はこげ茶色の霧のように見えます。母親は幼生を放し終えると、海から上がり、森の方に去っていきます。
オカヤドカリの食事を観察するのも面白いです。オカヤドカリは雑食性で、基本的に有機物は何でも食べてしまうため、海岸の「掃除屋」として役立っています。外国の研究ですが、オカヤドカリのいる海岸と、いない海岸で(それ以外の条件は基本的に同じです)、ハエの個体数が違うという論文を読んだことがあります。オカヤドカリがいる海岸では、魚の死骸などがすぐ片付けられてしまうため、ウジがわく間がないということだそうです。

以前、沖縄島南部のある海岸でオカヤドカリの調査をしているとき、近くの拝所から、お供え物のリンゴや餅が流れ着いてきました。「おいしそうだなー」とぼんやり見ていると、ほどなくナキオカヤドカリが集まってきて餅に取り付き、小さなハサミを器用に動かしてちぎって食べ始めました。まるで、円卓を囲むような感じでほほえましく感じました。リンゴのほうは日中はそのままでしたが、暗くなると多数のオカヤドカリが集まってきて4時間ほどで芯だけになってしまいました。「掃除屋」の機能を目の当たりにするという経験でした。
オカヤドカリは天然記念物なので採集などはできませんが、海岸に遊びに行ったら、足を止めて彼らに目を向けてみてください。意外と新しい世界が展開されていて面白いと思いますよ。

博物館班長 濱口 寿夫

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