最終更新日:2008.02.22
沖縄県立博物館・美術館の開館にあたって、企業6社に協賛いただき、古代人4体の復元模型を作製しました。人類の祖先は、猿人、原人、旧人、新人という4つの進化段階にわけられます。猿人は、二足歩行をしていましたが脳は小さく、顔つきも類人猿に似ていました。原人段階では、脳がやや大きくなり、体型は現代人と変わらなくなります。旧人になると、脳はさらに大きくなり、現代人とよく似た顔立ちになります。そして、私たち現代人を含むグループである新人が誕生しました。
復元模型を作る過程では、最初にポーズを決め、大雑把な模型を発泡スチロールで作製しました(写真1)。この段階で、骨から身長や肩幅、腕の長さ、脚の長さなどを計測し、そのデータに従って模型を作りました。
ヒトや動物の体では、筋肉の多くは基本的に骨に付着しています。筋肉が発達すると骨の形が変化するので、骨の形態から筋肉の量を推測することができます。脂肪の量は、骨からは推定できませんが、寒い地域に住んでいる民族や野生動物は、保温性の高い脂肪を蓄えやすい傾向があります。また、暑い地方にすむ動物や狩猟採集生活を送っている民族が豊かな脂肪を蓄えることは稀です。こうした事実に基づくと、発見場所の気候から脂肪量を推測することができます。
顔の復元にあたっては、はじめに化石のレプリカに粘土で肉付けをしました(写真2)。レプリカをベースにすることで、頬の筋肉の量や鼻の高さ、彫りの深さなどを、骨の形態から正確に復元することができます。
体型とポーズが決まったら、皮膚のシワや耳や爪の形など、細かい特徴をさらに作りこんでいきます(写真3)。皮膚のシワ、耳の形などは骨格からはわからないため、さまざまな民族の写真やチンパンジーの写真などを参考にして、どの程度にするべきか、複数の専門家が相談しながら決定しました。
続いて、粘土原型を型にとって、FRPという合成樹脂の素材で模型を作っていきます(写真4)。この時点で、肌の色を決定しておき、その色に近いFRPで模型を作製します。肌の色は、一般的に緯度が低く日差しの強い地域に住んでいると黒や褐色になり、緯度が高く日差しの弱い地域に住んでいると黄色から白色に近くなります。そこで、熱帯に住んでいたアウストラロピテクスは肌の色を黒っぽくし、高緯度にすんでいたネアンデルタールや北京原人は黄色から白色、沖縄の港川人は、これらの中間でやや日焼けした肌にしました。最後の仕上げとして、髪の毛や体毛を植え、血管や傷跡などの細かい表現をもりこんで着色していきます(写真5)。目の色を決定し、視線の方向を決めて完成です。
古代人復元模型は、このように、骨格から得られる事実や、現在の民族や野生動物の事例を参考に、科学的に精密に復元されたものです。しかし、このような復元模型は、研究者の考え方によって違ってくることもあります。沖縄県立博物館・美術館が考えて作った、復元模型は、今後も常設展や移動博物館で展示していきます。この模型が本当に正しいかどうか、皆さんも専門家になったつもりで、ぜひ考えてみてください。
協賛企業
専門員 藤田 祐樹