【開催趣旨】
美しいサンゴ礁の海は本県にとって重要な観光資源であり、近海漁業にとってもサンゴ礁の存在は不可欠である。また、沖縄県のさまざまな文化はサンゴ礁から影響を受けており、近年までのくらしの中でも、サンゴおよびサンゴ由来のものがさまざまな形で利用されてきた。このように、私たちはサンゴ礁からの有形・無形のサービスを受けて生きているといえる。
ところが近年、埋め立て等の開発、オニヒトデによる捕食、白化や病気などにより、本県のサンゴ礁は危機的状況に陥っており、その機能が失われてしまうことが懸念されている。生物多様性の保全はいまや世界的にきわめて重要な課題の一つであり、海域でもっとも生物多様性の高いサンゴ礁とそれをつくりあげている造礁サンゴ類の保全は、生物多様性条約締約国としての義務であるだけでなく、私たちの存在基盤を維持する上でも見過ごすことのできない課題である。
本企画展は、褐虫藻との共生によって造礁サンゴがどのようにサンゴ礁をつくりあげるのかを軸に、造礁サンゴ類の興味深い自然誌を標本・模型・グラフィックパネル等で展示するとともに、関連催事の実施をとおして、造礁サンゴやサンゴ礁からもたらされてきた恩恵を再確認し、危機的状況にあるサンゴ礁をより健全な形で残すことの重要性を伝えることを趣旨とする。
【開催形式】
主 催:沖縄県立博物館・美術館、沖縄県教育委員会
共 催:NPO 法人日本ウミガメ協議会附属黒島研究所
協 賛:沖電開発株式会社
協力機関:海と船の博物館ネットワーク、琉球大学資料館、国際サンゴ礁研究モニタリングセンター、本部町教育委員会、恩納村教育委員会、恩納村漁業協同組合、NPO法人ミュージアム研究会、首里琉染、琉球大学熱帯生物圏研究センター瀬底実験所、(財)海洋博覧会記念公園管理財団、琉球大学理学部海洋自然科学科、(株)キーエンス
後 援:沖縄県サンゴ礁保全推進協議会、沖縄県高等学校理科教育研究協議会、沖縄生物教育研究会、沖縄県理科教育協会、NHK沖縄放送局、沖縄テレビ放送、琉球放送、琉球朝日放送、沖縄ケーブルネットワーク、沖縄タイムス社、琉球新報社、ラジオ沖縄、エフエム沖縄、FMレキオ、タイフーンfm、(財)沖縄観光コンベンションビューロー
【展示監修委員】
西平守孝(財団法人海洋博覧会記念公園管理財団参与・東北大学名誉教授)
日高道雄(琉球大学理学部海洋自然科学科教授)
【展示内容】
プロローグ「生きものに満ちあふれた楽園-美しく、多様なサンゴ礁の世界-」
沖縄島南部のサンゴ礁を俯瞰する航空写真や魚類が群泳する水中写真のパネルを展示した。
第1章「造礁サンゴの正体は?」
造礁サンゴがふくまれる刺胞動物について、解説パネル、骨格標本やアクアリウムによる生体展示によって、その特徴と多様性を伝えた。
第2章「サンゴ礁はどのようにしてできるのか」
サンゴ礁が、造礁サンゴをはじめ、硬組織をつくる生きものの営みによって造られることや、琉球石灰岩を作り上げた生物の化石、ノッチ模型などを展示し、サンゴ礁が生物のすみ場所として重要であることを伝えた。また、沖縄のサンゴ礁地形やそこで暮らす生きものを俯瞰できる裾礁模型を展示した。
第3章「サンゴ礁はどこにある-サンゴ礁の地理的分布-」
緯度、海流(暖流・寒流)、大きな河川の存在、沿岸域の長さなどが、世界的にみたサンゴ礁の発達にどのように影響しているのかが一目でわかるようなグラフィックパネルを展示した。
第4章「藻類とのコラボレーション-褐虫藻との共生-」
栄養の少ない、透明度の高いサンゴ礁海域で、サンゴ礁を発達させる上で、造礁サンゴと藻類との共生関係が重要であることを示し、さらに、藻類から得た栄養の大半を粘液という形で排出することによって、栄養的に多くの生物を支えていることをパネルで示した。また、造礁サンゴ以外の共生藻をもつ動物についても、骨格標本や生体(シャコガイ類・サカサクラゲ・有孔虫)展示により紹介した。
第5章「造礁サンゴの成長・繁殖」
造礁サンゴの多様な生殖の方法、褐虫藻を取り込む方法、褐虫藻から得たエネルギーによって、堅固な骨格をつくるしくみなどを骨格標本とパネルで伝えた。
第6章「生き残るためのさまざまな戦略」
さまざまな状況のなかで、造礁サンゴが生き残るために示すさまざまな適応戦略を紹介した。また、多様性コーナーに設置したアクアリウムでは、生きたアザミサンゴがほかのサンゴを攻撃する時に使うスウィーパー触手の動きも見せることができた。
第7章「サンゴ礁における造礁サンゴの役割」
サンゴヤドリガニの「カニこぶ」をもつ骨格標本、さまざまな生物が穿孔した後の穴のある骨格標本、パネル類により、造礁サンゴがつくる構造が、ほかのさまざまな生物に生活場所を提供していることを示した。
第8章「琉球列島の造礁サンゴの多様性」
琉球列島に分布する造礁サンゴ類の骨格標本、タイプの異なるサンゴの生体、造作壁一面に貼り付けたすべての属の写真パネルにより、琉球列島の造礁サンゴ類の多様さを伝えた。
第9章「沖縄ゆかりのサンゴたち」
沖縄の地名や人名にちなむ造礁サンゴを写真パネルで紹介した。
第10章「サンゴ礁と人びとのくらし」
サンゴを素材として造られた生活の道具として、猪垣、ムジシリイシ、厨子甕、石臼などの資料を展示し、古来人びとの生活のなかでサンゴやサンゴに由来する琉球石灰岩が素材としていかに重宝されてきたかを伝えた。
第11章「造礁サンゴにみられる造形」
造礁サンゴ類の骨格やポリプのさまざまな形を写真パネルで示し、視覚的に造礁サンゴの造形の面白さを伝えた。また、素材として活用されている実例として「サンゴ染」を紹介した。
第12章「沖縄のサンゴ礁の現状と保全活動」
普及啓発活動やサンゴの養殖・移植など、サンゴ礁の保全を目指したさまざまな取り組み事例を紹介した。
エピローグ「美しいサンゴ礁を未来へ」
魚の群れる健全なサンゴ礁と死滅したサンゴ礁の水中景観の写真パネルを示し、「あなたはどちらを選びますか?」という問いかけで展示を結んだ。
体験コーナー
資料などを手に取りながらサンゴやサンゴ礁の生きものを学べるコーナーで、NPO 法人ミュージアム研究会の全面的な協力により設置することができた。
【関連催事】
1)博物館文化講座「サンゴ礁の保全と活用」
講 師:西平守孝(財団法人海洋博覧会記念公園管理財団参与・東北大学名誉教授)
期 日:2010年2月20日(土) 14:00 ~ 16:00
場 所:沖縄県立博物館・美術館 講堂
2)シンポジウム「パネル座談会 サンゴ礁保全って何?」
主 催:沖縄県サンゴ礁保全推進協議会、沖縄県立博物館・美術館
期 日:2010年2月27日(土) 14:00 ~ 17:00
場 所:沖縄県立博物館・美術館 講堂
3)学芸員による展示解説会
期 日:2010年2月13日(土)・3月6日(土) 14:00 ~ 15:00
場 所:博物館企画展示室
4)ワークショップ 「サンゴ染め体験教室」
日 時:2010年3月7日(日)・3月24日(日) 13:00 ~ 17:00
場 所:沖縄県立博物館・美術館 正面玄関外側スペース
主 催:文化の杜共同企業体
協 力:首里琉染