1. 博物館企画展「三線のチカラ-形の美と音の妙-」に寄せて(2)―三線の音色-

博物館企画展「三線のチカラ-形の美と音の妙-」に寄せて(2)―三線の音色-

最終更新日:2014.03.28

年度をまたぐ展示会をすることは珍しいが、三線のチカラ展は2月18日~5月11日まで開催する。2月の学芸員コラムでは三線の形の魅力について語ったが、今回は楽器の本分である三線の音色の魅力について言及したい。

 

15年ぶりに三線展を開催することで、展示の目玉づくりが思案のしどころであった。従来の視点とは違う切り口を通して、三線の魅力アップを考える必要がある。それには勇気とリスクが伴うが、鳴り物としての楽器の切り口を「音の妙」という副題に記すことで、三線所有者のご御理解とご協力をいただいた。

 

そのために、研究助成金をもらい展示会開催の1年以上前から音色の調査研究を行った。何をもって三線の良い音と規定するかは難しい。王国時代の文献には、「絃音(げんおん)佳き」などと真壁作の三線の優位性が記されたりする。開鐘(けーじょー)型といわれる真壁型(まかべ)の本来の絃音とはどのような音であっただろうか。それを現代の私たちは良い音と評価することができるのだろうか。琉球大学工学部の高良富夫教授にご指導をいただき、三線音を収録し、昨年度の私の学芸員講座で聴取実験を試みた。160名余りの方々のご協力をいただいた。参加者は、三線製作者、三線の実演家、三線を嗜む程度の方、三線に疎遠な方、と大きく4つのグループに分けることができた。

 

聴取実験では、いくつかの実験を試みた。一つ目は盛嶋開鐘の棹と蛇皮五分張りチーガ(胴)を用い、絃の種類(ナイロン絃と絹絃)でどちらを良い音と評価するかを知りたかった。案の定、聴き親しんだナイロン絃を良い音と評価する人が多かった。二つ目の実験は、盛嶋開鐘(もりしまけーじょー)の棹に、胴の内部細工の有無で実験した。複製した凹凸の内部細工のある胴と扁平な胴を試料として用いた。ここでは細工有りの方が少し評価が高かった。三つ目の実験では、盛嶋開鐘の新旧の棹に、本来の胴を付けどちらが良い音と評価するかというものであった。とくに、三つ目の実験は、戦後棹を偏重する開鐘三線の本質的な部分に踏み込んだものである。結果如何では「開鐘」神話の崩壊を意味するものであったが、幸いにも、今回の実験では年を経た古三線(文化財)に軍配があがり、胸をなでおろした。

 

今回の展示は、観覧者自身の耳で筆頭開鐘といわれる盛嶋開鐘の音色を聴くことができる。既述の3つの実験で用いた収録音である。どちらが良い音かは、観覧者自身が決めることである。また、盛嶋、翁長(おなが)、志多伯(したはく)、湧川(わくがわ)、富盛(ともり)の各開鐘に加え、江戸与那(えどよな)の6つの音色はすべて異なる。比較が可能なように、かぎやで風節のイントロを6つの楽器で演奏してもらった。どちらを好きな音だと決めるのも観覧者自身である。どうぞご自身の耳で、王国時代の三線の音色を聴いてほしいものである。参考までに、これら6つの三線で用いた絃は絹絃である。

 

3月16日には関連催事として「三線名器・開鐘の競演」を行った。展示ケースから三線を出して、沖縄県立芸術大学教授の比嘉康春教授の監修・指導のもと、同大卒業生らに演奏してもらった。学芸員にとっては展示ケースから文化財資料を出すことは、大きなリスクを負うことで、この催事が無事に終わることを祈り続けていた。幸いに、絹絃が切れることもなく、無事に全員が弾くことができ、320名(中継で講座室に配信120名)参加者すべてが十分満足いただけた催事であったと思っている。「ヌチグスィ(命の薬)」だと称賛の言葉もいただいた。所有者のご英断と学芸員の勇気とリスクを背負う覚悟で、夢の催事が実現した瞬間であった。なお、この催事は、5月9日(金)のNHK沖縄の番組「沖縄の歌と踊り」で放映される予定である。

文化財三線を慎重に弾く県立芸術大学卒業生ら(沖縄県立博物館・美術館 講堂)

文化財三線を慎重に弾く県立芸術大学卒業生ら(沖縄県立博物館・美術館 講堂)

主幹学芸員 園原謙

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