
昔ですよ、数人が乗って久米島を出た船がね、台風に流されて、それがずうっと方角を失って流れ流れて来て与那国に着くんですね。その船がこの島にきたときに、その船には女が一人と大きな雄犬が一匹乗っておって、その船の人が島に上がったときにね、その猛犬の雄犬はね、その船で着いた男を一人一人を喰い殺すんだね。そうして、この犬と女の人は、天蛇鼻(てんだばな)の東の方に上がってきて、今も石に古い漢字で文句が書いてあるところで、ヌック水っていう水が出るところに行って、久米島の女とその犬が住まいしてみたい。そのころ既に犬は人間ではないけれども女とはもう相通じておったわけさ。そこを今は犬神と言うよ。その後で、小浜島(こばまじま)の男が舟に乗って漁に出たそうだが、その小浜男も波に流されて、流れ流れて着いたところは与那国だった。その男が島に上がって、あっちこっち行ってみるうちに、犬神に辿り着いたわけさね。そこに来たら女が一人おったわけ。その小浜男はね、この女の美貌に魅かれていたら、その久米島の女が、「こっちには猛犬がおるんだ。今猛犬はこっちの犬神を出て留守だけれど、あんたはもう猛犬に会ったら、殺されるから早く逃げなさい。」と、その小浜男に言うわけさね。小浜男はね、「そうですか。」って帰る真似をして、考えたわけさ。「よし、この猛犬を退治してやる。」と腹を決めたわけさ。そこの犬神から二、三間ぐらい真上に上がったところに、サカイイソバが趣味で作ったパサグっていう断層になっておって、そこは、ヌクイタっていう一つの拝所になっているんだけど、昔は、牛や馬なんかも通しておったわけさ。この小浜島の男は、「そこの犬を退治して、あの美貌な久米島女を一つ自分のものにしてやりたい。」という野望を企んだから、そこから、上のパサグ上がって行って、木の上に乗って銛なんか構えて待ってるわけさね。そしたら、向こうから大きな犬がどしどしどしと歩いてくるわけさ。小浜島の男は、「この犬を殺して退治してやる。」とますます勇気を出していたら、犬はもう臭覚が大変きいてるでしょ。だから、犬はこの小浜男が木の上に乗ってるのをすぐ察知して、小浜男に攻撃し始めるわけさね。小浜男も木の上に乗ってもうばっと槍を突いて犬とやり合いするわけさね。そしたら犬は突いて突いてもますますもう男を襲ってくるわけさ。だからその男は、よしっと思って下に降りて、鉈で首を切って、犬を退治してしまったわけさ。そうして、その男は、与那国祭の拝所になっているヌクイタっていう拝所があるそこの上の台に犬を埋めるわけさね。そしてやれやれと、女にも知らん顔でね、パサグを降りて天蛇鼻の犬神のところの女のいるところに行くわけさ。女は既に犬とは同棲して夫婦になってるからね、犬が帰って来るはずなのに来ないもんだからもう、女は、「犬が来ない。」って言って、考えてるわけさな。また、この小浜(こばま)の男は、この女の美貌にかられて、「これをなんとかものにしよう。」と思っていたら、いつまでもたっても犬が帰ってこない間に、内心この女はなんか考えておる間に、小浜(こばま)の男とこの女との間に、七人も子どもができるわけさ。そのうちに、小浜(こばま)の男もその女も、七人も子どもできている間に二人とも年をとってしまっておるわけさね。小浜(こばま)の男は、「やれやれもう小浜にはどうなっておるだろう。本妻はどうしておるだろう。家(うち)はどうなっておるだろう。」というなんか郷愁の思いでね、また自分の舟で小浜に帰るわけさね。その男の妻は、一〇年も二〇年離れておったから、夫は死んだものと思っていたら、自分の夫が現れてしまったわけさ。帰ってきた男から、事情をどんどんどんどん聞いて、「なるほど。」と聞いてね、本妻はもう分かったわけさね。そしてまたその男は小浜島で一年もしばらく、暮らしているけれど、今度はどうしても与那国の子どものことが思われるわけさね。だから、子どもの顔を見たいとか、あの美人な妻を見たいって、また舟で与那国に行くわけさ。そしたら、女と子どもたちはまた喜んでその男を迎えるさね。そうして、与那国で暮らしてるうちに、この犬のことを話さねばよかったわけさね。それなのに、小浜の男は、もう七人も子供が生まれて、だいぶ年月もたっているから、小浜の男は、「あの時、あんたが欲しいもんだからね、犬もあんなして自分が退治したんだよ。」ってちゅうあの当時の昔話を漏らして、その婆ちゃんになっている女はね、犬を埋めたところも、「あっちらへん埋めたんだよ。」って教えてやったわけさ。ほったら、夜になったらその女がいないもんだから、上に行って探してみたら、その女は、死んだ犬を埋めた上に、自殺したかどうか分からんけどね、死んでおったと。だから、「夫婦になって子どもが七人できても、こういうことは話すもんでない。」ちゅんだけれどね。これはやっぱ嘘と思がね、話したほうがいいと思ったから話したよ。話の第一巻、終わり。
| レコード番号 | 47O341726 |
|---|---|
| CD番号 | 47O34C130 |
| 決定題名 | 犬神(共通語) |
| 話者がつけた題名 | - |
| 話者名 | 宮良保全 |
| 話者名かな | みやらほぜん |
| 生年月日 | 19180626 |
| 性別 | 男 |
| 出身地 | 沖縄県八重山郡与那国町祖納 |
| 記録日 | 19960918 |
| 記録者の所属組織 | 沖縄口承文芸学術調査団 |
| 元テープ番号 | 与那国町祖納 T05 B06 |
| 元テープ管理者 | 沖縄伝承話資料センター |
| 分類 | 12 |
| 発句(ほっく) | - |
| 伝承事情 | - |
| 文字化資料 | - |
| キーワード | 久米島,台風,与那国,女,雄犬,男,天蛇鼻,犬神,小浜島,退治,サカイイソバ,パサグ,ヌクイタ,拝所,七人,子ども,本妻 |
| 梗概(こうがい) | 昔ですよ、数人が乗って久米島を出た船がね、台風に流されて、それがずうっと方角を失って流れ流れて来て与那国に着くんですね。その船がこの島にきたときに、その船には女が一人と大きな雄犬が一匹乗っておって、その船の人が島に上がったときにね、その猛犬の雄犬はね、その船で着いた男を一人一人を喰い殺すんだね。そうして、この犬と女の人は、天蛇鼻(てんだばな)の東の方に上がってきて、今も石に古い漢字で文句が書いてあるところで、ヌック水っていう水が出るところに行って、久米島の女とその犬が住まいしてみたい。そのころ既に犬は人間ではないけれども女とはもう相通じておったわけさ。そこを今は犬神と言うよ。その後で、小浜島(こばまじま)の男が舟に乗って漁に出たそうだが、その小浜男も波に流されて、流れ流れて着いたところは与那国だった。その男が島に上がって、あっちこっち行ってみるうちに、犬神に辿り着いたわけさね。そこに来たら女が一人おったわけ。その小浜男はね、この女の美貌に魅かれていたら、その久米島の女が、「こっちには猛犬がおるんだ。今猛犬はこっちの犬神を出て留守だけれど、あんたはもう猛犬に会ったら、殺されるから早く逃げなさい。」と、その小浜男に言うわけさね。小浜男はね、「そうですか。」って帰る真似をして、考えたわけさ。「よし、この猛犬を退治してやる。」と腹を決めたわけさ。そこの犬神から二、三間ぐらい真上に上がったところに、サカイイソバが趣味で作ったパサグっていう断層になっておって、そこは、ヌクイタっていう一つの拝所になっているんだけど、昔は、牛や馬なんかも通しておったわけさ。この小浜島の男は、「そこの犬を退治して、あの美貌な久米島女を一つ自分のものにしてやりたい。」という野望を企んだから、そこから、上のパサグ上がって行って、木の上に乗って銛なんか構えて待ってるわけさね。そしたら、向こうから大きな犬がどしどしどしと歩いてくるわけさ。小浜島の男は、「この犬を殺して退治してやる。」とますます勇気を出していたら、犬はもう臭覚が大変きいてるでしょ。だから、犬はこの小浜男が木の上に乗ってるのをすぐ察知して、小浜男に攻撃し始めるわけさね。小浜男も木の上に乗ってもうばっと槍を突いて犬とやり合いするわけさね。そしたら犬は突いて突いてもますますもう男を襲ってくるわけさ。だからその男は、よしっと思って下に降りて、鉈で首を切って、犬を退治してしまったわけさ。そうして、その男は、与那国祭の拝所になっているヌクイタっていう拝所があるそこの上の台に犬を埋めるわけさね。そしてやれやれと、女にも知らん顔でね、パサグを降りて天蛇鼻の犬神のところの女のいるところに行くわけさ。女は既に犬とは同棲して夫婦になってるからね、犬が帰って来るはずなのに来ないもんだからもう、女は、「犬が来ない。」って言って、考えてるわけさな。また、この小浜(こばま)の男は、この女の美貌にかられて、「これをなんとかものにしよう。」と思っていたら、いつまでもたっても犬が帰ってこない間に、内心この女はなんか考えておる間に、小浜(こばま)の男とこの女との間に、七人も子どもができるわけさ。そのうちに、小浜(こばま)の男もその女も、七人も子どもできている間に二人とも年をとってしまっておるわけさね。小浜(こばま)の男は、「やれやれもう小浜にはどうなっておるだろう。本妻はどうしておるだろう。家(うち)はどうなっておるだろう。」というなんか郷愁の思いでね、また自分の舟で小浜に帰るわけさね。その男の妻は、一〇年も二〇年離れておったから、夫は死んだものと思っていたら、自分の夫が現れてしまったわけさ。帰ってきた男から、事情をどんどんどんどん聞いて、「なるほど。」と聞いてね、本妻はもう分かったわけさね。そしてまたその男は小浜島で一年もしばらく、暮らしているけれど、今度はどうしても与那国の子どものことが思われるわけさね。だから、子どもの顔を見たいとか、あの美人な妻を見たいって、また舟で与那国に行くわけさ。そしたら、女と子どもたちはまた喜んでその男を迎えるさね。そうして、与那国で暮らしてるうちに、この犬のことを話さねばよかったわけさね。それなのに、小浜の男は、もう七人も子供が生まれて、だいぶ年月もたっているから、小浜の男は、「あの時、あんたが欲しいもんだからね、犬もあんなして自分が退治したんだよ。」ってちゅうあの当時の昔話を漏らして、その婆ちゃんになっている女はね、犬を埋めたところも、「あっちらへん埋めたんだよ。」って教えてやったわけさ。ほったら、夜になったらその女がいないもんだから、上に行って探してみたら、その女は、死んだ犬を埋めた上に、自殺したかどうか分からんけどね、死んでおったと。だから、「夫婦になって子どもが七人できても、こういうことは話すもんでない。」ちゅんだけれどね。これはやっぱ嘘と思がね、話したほうがいいと思ったから話したよ。話の第一巻、終わり。 |
| 全体の記録時間数 | 12:44 |
| 物語の時間数 | 12:36 |
| 言語識別 | 共通語 |
| 音源の質 | ◯ |
| テープ番号 | - |
| 予備項目1 | - |