犬女房(共通語)

概要

昔、ある所にとても貧乏な夫婦が細々と暮らしていた。そのうちに妻は身ごもって子供が生まれたが、貧乏だからやって行けるかと心配して暮らしているうちに、男の子が生まれた。夫婦が喜んでいるうちに妻は病気になり死んでしまった。父親は母親が亡くなった子供をできるだけ手を尽して育てていたが、慣れない子育てで夜も寝る暇もなく苦労していた。そのとき、その家に飼れている犬が三匹の子犬を生んで育てていたが、父親が苦労をしているのを見ると、夜中に三匹の自分の子犬を連れて外に出て行くと、三匹の子犬を崖から突き落として捨て、帰って来ると、疲れはてて寝ている主人の寝床にこっそり入って、側に寝ている子供に自分の乳を飲ませてあげた。それから犬は毎晩こっそりと子供に乳を飲ませてやったので、子供はすくすくと育った。ある晩、父親が赤ん坊と一緒に眠っていると、何者かに自分の足を踏まれたので、目を覚まして何者だろうと部屋から出て行く者の姿を見ると、どうもそれは家で飼っている犬のようだった。父親は、朝になってもどうして夜中に飼い犬が来るのか分からなかったので、「今晩来たら、よく見てみよう。」と思って、その日は、夕飯をすませるといつもの通り親子二人で床に入り、父親は眠っているふりをしていた。すると夜中に飼い犬が音もなくやってきて、父親の傍に寝ている赤ん坊に、お乳を飲ませて、また物音をさせないで部屋を出て行った。父親は、ようやくあまり食べ物をやれない赤ん坊が元気に育っているわけが分かったので、「だから、この子はすくすく成長していたんだ。」と感謝し、それからはその犬を大ことにかわいがり、子供も思いの外健康に育った。そのうちに、病気ひとつせずその子供が七歳の誕生日を迎えると、七歳とは思えないほど体が大きくなった。だから、父親も、「わが子ながらずいぶん大きく育ったな。」と喜び、子供の成長を楽しみにしていた。そのころ、村に乱暴者がいて、夜になると道を通る人を片端から殺していたので、村人は怖くて夜になると家から一歩も出歩くことが出来ず大変困っており、村人はその乱暴者を鬼と呼んでいた。七歳になる子供がその鬼の話を聞くと、父親に、「お父さん、鬼は俺が退治するから心配しないでいいよ。」と言うから、父親はあわてて、「お前はまだ子供だ。あの鬼にかなうはずがない。もし、あの鬼にお前が殺されたら、私の生き甲斐はなくなってしまう。そんな冒険はしてくれるな。」と止めたが、その子供は、「お父さん、なんにも心配はいらないよ。俺が必ずその鬼を倒すからぜひお許し下さい。」と言って、子供は鬼退治に出かけて行った。子供は、夜中に鬼が出そうなところを廻って歩いているうちに、その鬼と呼ばれている乱暴者の男と出会った。その男が子供を殺そうとすると、わざと怖がっているふりをして、「とても俺はあなたにかないません。頼むから殺さないで下さい。」と言った。その男は、「俺は毎晩、道で会う人は誰でも皆殺しにしている。君も見逃す逃がすわけにはいかない。」と言った。その子供は暗闇でも、昼と同じようによく見える目の持ち主だったので、「そうか、俺の頼みも聞き入れないのか。さあこい、お前なんか恐れるものか。」というと、その男は刀を抜いて子供に襲いかかった。子供は六尺棒を振り回すと、武士の足を強く打ったので男は前にどっと倒れてそのまま起き上れないうちに、六尺棒でめった打ちにして家に帰ってきた。「お父さん、武士はちゃんと退治してきました。」と話すと、父は、「ほんとうか。私は君が殺されはしないかと心配して、震えあがっていたよ。あの強い武士をお前一人でほんとに退治したのか。」と感心すると、子供は、「嘘だと思うなら、もう倒して置いたから夜が明けたらご覧下さい。」と言ったので、父は夜が明けるのを待ちかねて、明け方早速見に行くと、鬼と言われていた大きな体の乱暴者は仰向けに倒れて死んでいた。お父さんは、「よくもあんな強い男に勝てたな。」と喜び、村の人々に、「みんなが心配していた鬼は、俺の子供が退治した。それ見ろ。」と言ったので、みんな集まって見に行って、その男の死体の始末をし、村はその子のおかげで、平穏無こと(へいおんぶ じ)になったので、人々は喜び、「これからは安心して暮らせる。七歳になる子供に、あんなことができるなんて、この子はただ者ではない。」とみんなに認められ、村の人々からとてもかわいがられた。子供は成長して大人になると、犬の乳で育てられたせいなのか、夜も昼同様に目が見えて不目由がないので、人の三倍も夜昼となく働き、人に頼まれたどんな仕こともやったので、たちまち金持ちになり、尊敬されるようになったので、村中の人々が集まって相談して、村の王様にした。村はその子の手腕で豊かになり、村人たちは幸福な生活ができたという話だ。だから、昔から、「誠の心があれば子孫代々幸せに暮せる。悪い心を持てばたちまち滅びる。」という伝えがある。

再生時間:11:50

民話詳細DATA

レコード番号 47O341607
CD番号 47O34C123
決定題名 犬女房(共通語)
話者がつけた題名
話者名 前粟蔵加祢
話者名かな まえあわくらかね
生年月日 19050612
性別
出身地 沖縄県八重山郡与那国町比川
記録日 19760804
記録者の所属組織 沖縄口承文芸学術調査団
元テープ番号 与那国町比川 T71 A01
元テープ管理者 沖縄伝承話資料センター
分類 12
発句(ほっく) ムカシ
伝承事情
文字化資料 日本昔話通観第26巻 P 584 八重山諸島民話集 P25
キーワード 貧乏,夫婦,男の子,妻,病気,苦労,犬,子犬,突き落として,寝床,乳,感謝,七歳,村,乱暴者,鬼,退治,刀,六尺棒,金持ち,尊敬
梗概(こうがい) 昔、ある所にとても貧乏な夫婦が細々と暮らしていた。そのうちに妻は身ごもって子供が生まれたが、貧乏だからやって行けるかと心配して暮らしているうちに、男の子が生まれた。夫婦が喜んでいるうちに妻は病気になり死んでしまった。父親は母親が亡くなった子供をできるだけ手を尽して育てていたが、慣れない子育てで夜も寝る暇もなく苦労していた。そのとき、その家に飼れている犬が三匹の子犬を生んで育てていたが、父親が苦労をしているのを見ると、夜中に三匹の自分の子犬を連れて外に出て行くと、三匹の子犬を崖から突き落として捨て、帰って来ると、疲れはてて寝ている主人の寝床にこっそり入って、側に寝ている子供に自分の乳を飲ませてあげた。それから犬は毎晩こっそりと子供に乳を飲ませてやったので、子供はすくすくと育った。ある晩、父親が赤ん坊と一緒に眠っていると、何者かに自分の足を踏まれたので、目を覚まして何者だろうと部屋から出て行く者の姿を見ると、どうもそれは家で飼っている犬のようだった。父親は、朝になってもどうして夜中に飼い犬が来るのか分からなかったので、「今晩来たら、よく見てみよう。」と思って、その日は、夕飯をすませるといつもの通り親子二人で床に入り、父親は眠っているふりをしていた。すると夜中に飼い犬が音もなくやってきて、父親の傍に寝ている赤ん坊に、お乳を飲ませて、また物音をさせないで部屋を出て行った。父親は、ようやくあまり食べ物をやれない赤ん坊が元気に育っているわけが分かったので、「だから、この子はすくすく成長していたんだ。」と感謝し、それからはその犬を大ことにかわいがり、子供も思いの外健康に育った。そのうちに、病気ひとつせずその子供が七歳の誕生日を迎えると、七歳とは思えないほど体が大きくなった。だから、父親も、「わが子ながらずいぶん大きく育ったな。」と喜び、子供の成長を楽しみにしていた。そのころ、村に乱暴者がいて、夜になると道を通る人を片端から殺していたので、村人は怖くて夜になると家から一歩も出歩くことが出来ず大変困っており、村人はその乱暴者を鬼と呼んでいた。七歳になる子供がその鬼の話を聞くと、父親に、「お父さん、鬼は俺が退治するから心配しないでいいよ。」と言うから、父親はあわてて、「お前はまだ子供だ。あの鬼にかなうはずがない。もし、あの鬼にお前が殺されたら、私の生き甲斐はなくなってしまう。そんな冒険はしてくれるな。」と止めたが、その子供は、「お父さん、なんにも心配はいらないよ。俺が必ずその鬼を倒すからぜひお許し下さい。」と言って、子供は鬼退治に出かけて行った。子供は、夜中に鬼が出そうなところを廻って歩いているうちに、その鬼と呼ばれている乱暴者の男と出会った。その男が子供を殺そうとすると、わざと怖がっているふりをして、「とても俺はあなたにかないません。頼むから殺さないで下さい。」と言った。その男は、「俺は毎晩、道で会う人は誰でも皆殺しにしている。君も見逃す逃がすわけにはいかない。」と言った。その子供は暗闇でも、昼と同じようによく見える目の持ち主だったので、「そうか、俺の頼みも聞き入れないのか。さあこい、お前なんか恐れるものか。」というと、その男は刀を抜いて子供に襲いかかった。子供は六尺棒を振り回すと、武士の足を強く打ったので男は前にどっと倒れてそのまま起き上れないうちに、六尺棒でめった打ちにして家に帰ってきた。「お父さん、武士はちゃんと退治してきました。」と話すと、父は、「ほんとうか。私は君が殺されはしないかと心配して、震えあがっていたよ。あの強い武士をお前一人でほんとに退治したのか。」と感心すると、子供は、「嘘だと思うなら、もう倒して置いたから夜が明けたらご覧下さい。」と言ったので、父は夜が明けるのを待ちかねて、明け方早速見に行くと、鬼と言われていた大きな体の乱暴者は仰向けに倒れて死んでいた。お父さんは、「よくもあんな強い男に勝てたな。」と喜び、村の人々に、「みんなが心配していた鬼は、俺の子供が退治した。それ見ろ。」と言ったので、みんな集まって見に行って、その男の死体の始末をし、村はその子のおかげで、平穏無こと(へいおんぶ じ)になったので、人々は喜び、「これからは安心して暮らせる。七歳になる子供に、あんなことができるなんて、この子はただ者ではない。」とみんなに認められ、村の人々からとてもかわいがられた。子供は成長して大人になると、犬の乳で育てられたせいなのか、夜も昼同様に目が見えて不目由がないので、人の三倍も夜昼となく働き、人に頼まれたどんな仕こともやったので、たちまち金持ちになり、尊敬されるようになったので、村中の人々が集まって相談して、村の王様にした。村はその子の手腕で豊かになり、村人たちは幸福な生活ができたという話だ。だから、昔から、「誠の心があれば子孫代々幸せに暮せる。悪い心を持てばたちまち滅びる。」という伝えがある。
全体の記録時間数 12:18
物語の時間数 11:50
言語識別 方言
音源の質
テープ番号
予備項目1

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