
昔、あれは内地の薩摩から沖縄を攻めてきた軍との戦(いくさ)に沖縄が負けたから、それから沖縄は薩摩の配下になってね、沖縄のもう全てのことは薩摩が指導していたあの時代であろうと思うんだけれどもね、沖縄の人がやっぱもう金が無いものであるからね、「いつの何月何日まで金貸してください。」と言って、金を借りたらしい。その相手は薩摩の人で、人に金を貸して利息で儲かって御飯食べていく高利貸しみたいな人だろうね。それで、薩摩のその人はこれに貸した期限が来たから、沖縄に来て、「お前、金はどんなしたか。」と聞いたら、「金はまだ準備してないから、まあ少し待っておきなさい。」と言うから、薩摩の人は、「そんなら、これ一遍は許すが、もう何月までに払わんと、その時はお金取らんで、お前のもう命は無いと覚悟を決めなさいよ。」と言ってね、薩摩に帰って、またこの期限来たから行ったそうですよ。行って、「お前は、金を準備してるか。」と言うたら、「そうですね、田舎は米でも芋でも何でも作るが、台湾暴風が吹いて、もう金にもならんし、食べるだけで精一杯です。どうか許してくれませんですか。」と言うたら、「いや許さない。もうお前はどうにもならんから、お前を殺す。」と言うてね、剣を抜いてね、その沖縄の人を切ろうとしたら、沖縄の人が薩摩の人の手を捕まえてね、「手(てぃー)ぬ出(ん)じれー、意地(いじ)引き、意地ぬ出(ん)じれー、手(てぃー)引き。」と言ったから、「この意味はどんなもんか。」と聞いたらね、沖縄の人がこの言葉の意味を説明して、「どんな貧乏者(ひんすーむん)であっても、人間の命は同しものであるから許してくれ。今度沖縄に帰ってくるまではもう必ず金を準備しますから。」と頼むから、「ああ、そうか。そんならお前は三回目には必ず準備するか。」と言って、剣をまた引っ込めて、一応薩摩に帰ったそうだ。その薩摩の人の家では、ちょうど内地でもどこでも同じことがあるでしょうが。女一人での暮らしでは、いつ乱暴されるか分からないから、年取ったお母さんがね、これをもう自分の嫁が乱暴されないように用心しているわけさ。それで、お母さんは男の羽織着けてね、髪も男の真似して嫁と一緒に寝ているわけさ。この人が鹿児島に着くと、自分が道中であっちこっち駆け回って歩いている間に、自分の奥さんがやっぱ浮気でもしてないか様子をみようと、ゆっくりして夜中ごろ家に行ったそうですよ。家に行って見たら、やっぱ、自分の奥さんと男とがこんなに寝ているわけさ。それを見たから、もうやけくそになって、「これはもう色男こしらえてるから、殺さなければいけない。」と言って、手を出そうというときに、沖縄で聞いたあの百姓の言葉が、心に飛び込んでね、「ああ、手が出ればもう意地を引き、意地が出そうになったら手を引けという沖縄の格言があるから、先ず起こしてみてからしよう。」と起こしてみたら、男に見えたのは、自分のお母さんになっているからね、「どうしてお母さんはこんなふうな振舞いしたか。」と言うと、「お前があっちこっち旅して歩く間、もし嫁が一人寝ていたならば、人に乱暴される恐れもあるから、自分の嫁の用心棒でこういうふうにしていたんだ。こんな男の姿をして一緒に寝ていたらば、誰かが来ても、夫婦が寝ているからと退いていくよ。」と言うていたって。それを聞いて、薩摩の金貸しは、「向こう沖縄で聞いた『手(てぃー)ぬ出(ん)じれー、意地(いじ)引(ひ)き、意地(いじ)ぬ出(ん)じれー、手(てぃー)引き。』という教えがなければ、自分の親も妻子も皆殺しよった。やっぱこれ思い出してやめたのが幸いした。」と、沖縄であったことを自分の奥さんにもお母さんにも話して、それで、また沖縄に来るときには、沖縄の人に渡すお礼の金を用意して持って来たら、沖縄の人は、今度は返す金を準備して待っていたから、この薩摩の人は、「自分の親も自分の妻も殺すところだったが、あんたの言葉のお蔭で助かった。あんたは命の親だ。」と言うてね、もう金やりに来ているが、またこの百姓はもう今度は、「あんたのあの時の金もようやくこしらえて準備して来ているからどうか受け取ってください。」と言ったそうですよ。「いや、その金はもういいから、お前にくれるから。」「今までは期限たてて、取らさなければ殺すということだったが、今になって、この金いいですかとはどう意味ですか。」と聞くと、「自分は国に帰って行って、自分の親が嫁の用心のためにこんなふうにしていた。あんたが私に言うたことを思い出さなかったら、自分の親も妻も殺していたわけで、あんた命の親であるから、金も返さなくてもいい。私がこれ以上に金くれるから、これで何かの財産造って立派な人間になって働いて暮らしなさい。」と言って、かえってお金をその沖縄の人に与えたそうだ。
| レコード番号 | 47O380892 |
|---|---|
| CD番号 | 47O38C045 |
| 決定題名 | 白銀堂由来(共通語) |
| 話者がつけた題名 | - |
| 話者名 | 仲里文蔵 |
| 話者名かな | なかざとぶんぞう |
| 生年月日 | 19101107 |
| 性別 | 男 |
| 出身地 | 沖縄県島尻郡伊平屋村字田名 |
| 記録日 | 19800907 |
| 記録者の所属組織 | 沖縄口承文芸学術調査団 |
| 元テープ番号 | 島尻郡伊平屋村田名 T08 B02 |
| 元テープ管理者 | 沖縄伝承話資料センター |
| 分類 | 12,52 |
| 発句(ほっく) | - |
| 伝承事情 | - |
| 文字化資料 | 伊平屋村民話集 P100 |
| キーワード | 薩摩,沖縄,戦,利息,剣,浮気,色男,意地,格言,用心棒,命の親 |
| 梗概(こうがい) | 昔、あれは内地の薩摩から沖縄を攻めてきた軍との戦(いくさ)に沖縄が負けたから、それから沖縄は薩摩の配下になってね、沖縄のもう全てのことは薩摩が指導していたあの時代であろうと思うんだけれどもね、沖縄の人がやっぱもう金が無いものであるからね、「いつの何月何日まで金貸してください。」と言って、金を借りたらしい。その相手は薩摩の人で、人に金を貸して利息で儲かって御飯食べていく高利貸しみたいな人だろうね。それで、薩摩のその人はこれに貸した期限が来たから、沖縄に来て、「お前、金はどんなしたか。」と聞いたら、「金はまだ準備してないから、まあ少し待っておきなさい。」と言うから、薩摩の人は、「そんなら、これ一遍は許すが、もう何月までに払わんと、その時はお金取らんで、お前のもう命は無いと覚悟を決めなさいよ。」と言ってね、薩摩に帰って、またこの期限来たから行ったそうですよ。行って、「お前は、金を準備してるか。」と言うたら、「そうですね、田舎は米でも芋でも何でも作るが、台湾暴風が吹いて、もう金にもならんし、食べるだけで精一杯です。どうか許してくれませんですか。」と言うたら、「いや許さない。もうお前はどうにもならんから、お前を殺す。」と言うてね、剣を抜いてね、その沖縄の人を切ろうとしたら、沖縄の人が薩摩の人の手を捕まえてね、「手(てぃー)ぬ出(ん)じれー、意地(いじ)引き、意地ぬ出(ん)じれー、手(てぃー)引き。」と言ったから、「この意味はどんなもんか。」と聞いたらね、沖縄の人がこの言葉の意味を説明して、「どんな貧乏者(ひんすーむん)であっても、人間の命は同しものであるから許してくれ。今度沖縄に帰ってくるまではもう必ず金を準備しますから。」と頼むから、「ああ、そうか。そんならお前は三回目には必ず準備するか。」と言って、剣をまた引っ込めて、一応薩摩に帰ったそうだ。その薩摩の人の家では、ちょうど内地でもどこでも同じことがあるでしょうが。女一人での暮らしでは、いつ乱暴されるか分からないから、年取ったお母さんがね、これをもう自分の嫁が乱暴されないように用心しているわけさ。それで、お母さんは男の羽織着けてね、髪も男の真似して嫁と一緒に寝ているわけさ。この人が鹿児島に着くと、自分が道中であっちこっち駆け回って歩いている間に、自分の奥さんがやっぱ浮気でもしてないか様子をみようと、ゆっくりして夜中ごろ家に行ったそうですよ。家に行って見たら、やっぱ、自分の奥さんと男とがこんなに寝ているわけさ。それを見たから、もうやけくそになって、「これはもう色男こしらえてるから、殺さなければいけない。」と言って、手を出そうというときに、沖縄で聞いたあの百姓の言葉が、心に飛び込んでね、「ああ、手が出ればもう意地を引き、意地が出そうになったら手を引けという沖縄の格言があるから、先ず起こしてみてからしよう。」と起こしてみたら、男に見えたのは、自分のお母さんになっているからね、「どうしてお母さんはこんなふうな振舞いしたか。」と言うと、「お前があっちこっち旅して歩く間、もし嫁が一人寝ていたならば、人に乱暴される恐れもあるから、自分の嫁の用心棒でこういうふうにしていたんだ。こんな男の姿をして一緒に寝ていたらば、誰かが来ても、夫婦が寝ているからと退いていくよ。」と言うていたって。それを聞いて、薩摩の金貸しは、「向こう沖縄で聞いた『手(てぃー)ぬ出(ん)じれー、意地(いじ)引(ひ)き、意地(いじ)ぬ出(ん)じれー、手(てぃー)引き。』という教えがなければ、自分の親も妻子も皆殺しよった。やっぱこれ思い出してやめたのが幸いした。」と、沖縄であったことを自分の奥さんにもお母さんにも話して、それで、また沖縄に来るときには、沖縄の人に渡すお礼の金を用意して持って来たら、沖縄の人は、今度は返す金を準備して待っていたから、この薩摩の人は、「自分の親も自分の妻も殺すところだったが、あんたの言葉のお蔭で助かった。あんたは命の親だ。」と言うてね、もう金やりに来ているが、またこの百姓はもう今度は、「あんたのあの時の金もようやくこしらえて準備して来ているからどうか受け取ってください。」と言ったそうですよ。「いや、その金はもういいから、お前にくれるから。」「今までは期限たてて、取らさなければ殺すということだったが、今になって、この金いいですかとはどう意味ですか。」と聞くと、「自分は国に帰って行って、自分の親が嫁の用心のためにこんなふうにしていた。あんたが私に言うたことを思い出さなかったら、自分の親も妻も殺していたわけで、あんた命の親であるから、金も返さなくてもいい。私がこれ以上に金くれるから、これで何かの財産造って立派な人間になって働いて暮らしなさい。」と言って、かえってお金をその沖縄の人に与えたそうだ。 |
| 全体の記録時間数 | 10:17 |
| 物語の時間数 | 10:07 |
| 言語識別 | 共通語 |
| 音源の質 | ○ |
| テープ番号 | - |
| 予備項目1 | - |