
この島の総大将がクッシアジマクだったころこの島にはクッシ山、カタナブル、ペミシク、アラブツ、ブルブチ、タカフリ、それから、クスクと八人の守りの武士が配置されていたんです。その武士の中のアラブツ武士とペミシク武士の争いの話がおもしろいんです。とにかくですね、ペミシク武士とアラブツ武士の屋敷の距離は大体五、六〇〇メートルぐらいで、僅かしか離れてないから、すぐお互いの家が見えるんです。ところが二人は仲が悪く、それぞれ自分の土地に相手を入れなかったから、その中間に小屋を造って二人が話し合いをしていたというんです。この二人のうち、アラブツ武士は秀才でもの凄く知恵があったが、田圃も財産も少なく、妻はちょっと形は悪く頭もちょっと悪かったらしい。ペミシク武士の方は、頭は弱いが田圃がすごく多く財産も多い富豪家で、妻がまた美人で頭は凄く優れた女であった。それでアラブツ武士は知恵があるからね、「あいつは頭が弱いから、知恵比べみたいにして財力を弱らして、何とかこのペミシク武士の妻を自分が横取りしよう。」という魂胆があったらしいですね。だから、最初からもう計画的に仕組んで争いごとをやったっというんです。それから色々な競争が始まるんですがね、一番最初にアラブツ武士が仕掛けた競争がおもしろいんです。糞の競争で、誰が綺麗な大便が出来るか、いつも二人が集まる場所で何月何日何時と期日もちゃんと決めて競争することにしたんです。二人は、何食べれば立派な糞が出来るかめいめい考えたんですな。一方のアラブツ武士は、お芋の皮をきれいにむいのを煮て食べたというんですね。ペミシク武士はもう財産多くお米もようとれていたから、餅米は白いでしょう。その白い餅米で御飯を炊いて食べれば良い糞ができるという考えて、餅米のご飯を腹いっぱい食べたんだよ。二人で決めた時間になるといつもの小屋に行って糞較べをしただよ。最初に糞を出したのは芋を食べたアラブツ武士で、ちょうどこう蛇がとぐろを巻いているような糞がピュっと出た。それはもう真っ白い形の良い立派な糞だったと言うんですね。ペミシク武士は、餅米のご飯を腹一杯食べてきれい大便を作ろうとしたんだが、ご飯を食べすぎたもんだから下痢してさ、べったらんこのだらっとした糞をやったから、アラブツ武士が勝ち、ペミシク武士が負けで勝負あった。ペミシク武士が悔しがっていたら、アラブツ武士が、「屋根の上に牛を乗せる競争をしよう。」と二番目の競争を提案したらしいですよ。このアラブツ武士の提案はちゃんと前からの計画だったわけですよ。昔はこっちの島の人は正月に必ず牛を殺して正月はやったんです。アラブツ武士はその正月に牛を殺した後で、山の林の中に牛の皮をきれいに張って、その皮を引っ張って置いてさ、時期を待っていたわけさ。そして牛を屋根に乗せる競争のときになるとその皮を持って来て、木灰にこうつけると少し柔らかくだらっとこうなりますからね、その牛の皮で模型を作って屋根に上げたんですよ。これはもう遠くから見ると頭には角もあるし、当に生き物みたいに見えたらしいです。そうしておいてアラブツ武士は、「自分は約束通り牛を屋根の上に乗せたが、あんたはまだか。」とこう攻めたら、ペミシク武士は、それを遠い所からこう見てですね、「ああもうアラブツ武士はもうその屋根の上にこの牛が出来ている。自分もこりゃ急がなくちゃあならん。」と言ったが、アラブツ武士のようなその前もっての準備っていうのは全く無いからね、親戚を集めてさ、自分の家の庭に石をうんと集めて、アラブツ武士に負けないように特別大きい牛が屋根の上に乗れるように庭に石垣をこう積むと、生きた牛を連れてきて屋根の上に乗せようとするというんだが、乗せよう乗せようとするんだが暴れてなかなか乗らない。ようやく乗ったと思ったら、あの当時の家というのは、茅葺き屋根だから、重い牛が乗ると屋根は踏み潰されて家まで崩れてしまったからよ、ペミシク武士は家は壊れたから家も造り直すことになり、雇った親戚者にも飯も上げんとならんしよ、財力はもうどんどん落ちて行くし、勝負にも負けた。また次の問題は何月何日までに自分の家の壁をきれいにする競争ということになった。これも始めから相手の財力を弱らせようと思って仕組んだ競争だったいうんだな。アラブツ武士は田畑が少ないからね、毎日海に行って魚を捕って来て生活をしておったらしいです。昔はよく鯨が波照間近海なんかに来ていて、当時は鯨がこちらの人がクブシミと言う甲イカを食べておって、鯨は甲イカの甲を流したらしい。今の製糖工場から西には何千メートルかの浜があって、あの浜には鯨が来る冬になるとその甲イカの甲がよう流れてくるんですよ。アラブツ武士は頭がいいから日頃からその甲を拾って集めてきてためておいたわけさ。その甲を砕いて約束の日の何日も前に自分の家の周囲の壁を塗り固めると壁はみんなきれいに真っ白くなった。これを遠くから見たとペミシク武士は、これは何でこう壁を白くしたっていうのが分からんわけさ。そしたら、アラブツ武士は、ペミシク武士に、「自分は貧乏者だが、餅米の粉で壁を真っ白にしてある。あんたは財閥で田圃も沢山ありながら、そのぐらいのその米はないのか。またまた自分に負けたら駄目じゃないか。が。」と嘘をついて聞かすわけです。ペミシク武士は、「もう分けておれない。」と倉庫には米がいっぱいあるから、また親戚を集めて一生懸命に自分の倉庫から餅米を出してきて、これをきれいに粉にしてさ、自分の家の壁みんな塗り付けたわけさ。しかし、お米は雨に濡れるとカビが付いて黒くなったり色々な色になって汚くなるでしょう。だから、何日か過ぎて約束の日になるとアラブツ武士の壁は真っ白だが、ペミシク武士の壁はもうすっかり汚れた色になっていたのでまたペミシク武士が負けてしまったというんだな。アラブツ武士は、最初からペミシク武士の美しい妻を手に入れようという魂胆で仕掛けた競争で、三度の競争に勝ってペミシク武士の財力を大分弱らせたが、まだ、目的は達していないので最後の勝負に賭けることにして、ペミシク武士に、「舟で仲の神島まで行って廻ってくる舟こぎ競走をしよう。」と勝負を持ちかけた。仲の神島は、西表島の西にある絶海の無人の孤島で、波照間からは二十キロほども離れた遠い島なので、舟こぎ競走に誘ってペミシク武士を亡き者にすれば、ペミシク武士の美人の妻も自分のものになるという魂胆でもって誘った勝負だったわけだよ。この勝負には約束があったらしいですよ。同じ寸法の舟を作って食糧もいくら出発する日は何日と決めて、櫓のこの下につけとく櫓綱をこっちではハイブーと言うが、その櫓綱はこっちでパマサラという浜に這っているグンバイヒルガオの浜葛を身体に巻き付けられるだけ持って行ってもよいということにしたというんだよ。アラブツ武士は、浜葛を櫓綱にするとポキンポキンと折れて切れることが分かっているから、牛の手綱にも使う丈夫なアダンの気根を乾燥させて綯った綱を外から見ても分からないように肌にじかに巻き付けて、着物の上に浜葛を巻いて行った。ペミシク武士は、アラブツ武士がそんな用意をしているとは夢にも思わないから、「今度こそアラブツ武士に負けるもんか。」と正直に葉ばかり多い浜葛を身体に巻き付けられるだけたくさん巻き付けて舟を出したというんです。アラブツ武士は漁師もしていて海は専門で、その上頭も良いからね、そのころに吹く風を知っていたんだね。こっちでは六月に吹く東風をアリヤッターと言い、七月に一時吹く西風をイリヤッターいうさ。これは季節風なんです。だから、風を知っている人は六月ごろは東風のアリヤッターを利用して西に行く、七月なると西風のイリヤッターを利用してこう東に来るのは楽だったんです。このアラブツ武士とペミシク武士の仲の神島までの舟こぎ競走は六月だったから、西の方角にある仲の神島までは東風のアリヤッターが追い風で押してくれるから櫓綱が切れても身体にまいた浜葛だけで行けるんですよ。ところが仲の神島を廻って東にあるこの波照間に向かうと逆風で、しかもこの辺の潮はしょっちゅう西に流れるからね、ペミシク武士の弱い浜葛だけではもう櫓綱がぽんぽん切れて、いくら付け替えてもどんどん切れて、しまいには付け替える浜葛もなくなったから、東風と潮に流されて西に西へと流されて、とうとうペミシク武士はもう戻らなくなったと。アラブツ武士の方は風も潮の流れも知っていたから浜葛がなくなると肌に巻いていたダンの気根の綱を物を取り出してきて付け替えるとどんどん、どんどん東に向かって漕いだから無事にこの島に帰ってくることが出来たわけですよ。アラブツ武士の最初のこの魂胆はペミシク武士の美人の奥さんを娶ろうということだから、また作戦を練るわけさあな。すぐは出来んからちょっと時間をおいて後で、ペミシク武士の奥さんに会ったら、夫もなくなったし、今まであった財力も牛を屋根に載せて家が壊れたから建て直したり、餅米を壁に塗ったりして、どんどんどんどんもうその財産も失ってしまってもう女もその困ってるわけさ。だけど、ペミシク武士の妻は、頭が良くて、この男が自分の夫を殺したと知っていて敵討ちをしようと思っていたからね、「もうもう本当に夫を亡くして倒れそうになっておる。」と言って、アラブツ武士の申込みを承諾して、「だけどこっちで二人で恋愛するって言っても、こっちにはあんたの奥さんもいらっしゃるからこの島では出来ない。西表に行って暮らすならいいです」と言った。二人で西表に行くと、「ここで暮らすなら家を建てるなければならんから、山に行ってあんたが木を抱いて、両手の掌がピッタリと合う木があれば、あんたの妻になれます。なければ出来ない。」と言って、ペミシク武士の妻は、こっそり自分の下袴(はかん)の下に、四寸釘四本と玄翁一つを隠し持って、アラブツ武士と一緒に山に入ると、アラブツ武士は、「山だからそんな木は沢山ある。」と自信満々でもう喜んで行ったんだよ。その女は、アラブツ武士に、「掌と掌が合うこの木があるかなあ。これも抱いてみ。」と抱かせて、また、「これも抱いてみ。」と言って、次々に抱かせて、アラブツ武士がちょうど両手の掌がピッシャリと合う木が抱とく、すぐ玄翁と四寸釘を取り出して、て両手の掌を木にボンと打ち込んだらしいですよ。そういうふうに両手の掌を木に打ちつけられたらもう動けないだろう。それでペミシク武士の妻は敵討ちが出来たから、凱歌を上げて波照間に帰ってきたという話だよ。
| レコード番号 | 47O201368 |
|---|---|
| CD番号 | 47O20C067 |
| 決定題名 | アラブツ武士とペミシク武士(共通語) |
| 話者がつけた題名 | - |
| 話者名 | 勝連文雄 |
| 話者名かな | かつれんふみお |
| 生年月日 | 19170518 |
| 性別 | 男 |
| 出身地 | 沖縄県八重山郡竹富町波照間 |
| 記録日 | 19950911 |
| 記録者の所属組織 | 竹富町口承文芸学術調査団 |
| 元テープ番号 | 竹富町字波照間T22B01 |
| 元テープ管理者 | 沖縄伝承話資料センター |
| 分類 | 13 |
| 発句(ほっく) | - |
| 伝承事情 | - |
| 文字化資料 | - |
| キーワード | うんこ比べ,屋根の牛,壁,舟,釘 |
| 梗概(こうがい) | この島の総大将がクッシアジマクだったころこの島にはクッシ山、カタナブル、ペミシク、アラブツ、ブルブチ、タカフリ、それから、クスクと八人の守りの武士が配置されていたんです。その武士の中のアラブツ武士とペミシク武士の争いの話がおもしろいんです。とにかくですね、ペミシク武士とアラブツ武士の屋敷の距離は大体五、六〇〇メートルぐらいで、僅かしか離れてないから、すぐお互いの家が見えるんです。ところが二人は仲が悪く、それぞれ自分の土地に相手を入れなかったから、その中間に小屋を造って二人が話し合いをしていたというんです。この二人のうち、アラブツ武士は秀才でもの凄く知恵があったが、田圃も財産も少なく、妻はちょっと形は悪く頭もちょっと悪かったらしい。ペミシク武士の方は、頭は弱いが田圃がすごく多く財産も多い富豪家で、妻がまた美人で頭は凄く優れた女であった。それでアラブツ武士は知恵があるからね、「あいつは頭が弱いから、知恵比べみたいにして財力を弱らして、何とかこのペミシク武士の妻を自分が横取りしよう。」という魂胆があったらしいですね。だから、最初からもう計画的に仕組んで争いごとをやったっというんです。それから色々な競争が始まるんですがね、一番最初にアラブツ武士が仕掛けた競争がおもしろいんです。糞の競争で、誰が綺麗な大便が出来るか、いつも二人が集まる場所で何月何日何時と期日もちゃんと決めて競争することにしたんです。二人は、何食べれば立派な糞が出来るかめいめい考えたんですな。一方のアラブツ武士は、お芋の皮をきれいにむいのを煮て食べたというんですね。ペミシク武士はもう財産多くお米もようとれていたから、餅米は白いでしょう。その白い餅米で御飯を炊いて食べれば良い糞ができるという考えて、餅米のご飯を腹いっぱい食べたんだよ。二人で決めた時間になるといつもの小屋に行って糞較べをしただよ。最初に糞を出したのは芋を食べたアラブツ武士で、ちょうどこう蛇がとぐろを巻いているような糞がピュっと出た。それはもう真っ白い形の良い立派な糞だったと言うんですね。ペミシク武士は、餅米のご飯を腹一杯食べてきれい大便を作ろうとしたんだが、ご飯を食べすぎたもんだから下痢してさ、べったらんこのだらっとした糞をやったから、アラブツ武士が勝ち、ペミシク武士が負けで勝負あった。ペミシク武士が悔しがっていたら、アラブツ武士が、「屋根の上に牛を乗せる競争をしよう。」と二番目の競争を提案したらしいですよ。このアラブツ武士の提案はちゃんと前からの計画だったわけですよ。昔はこっちの島の人は正月に必ず牛を殺して正月はやったんです。アラブツ武士はその正月に牛を殺した後で、山の林の中に牛の皮をきれいに張って、その皮を引っ張って置いてさ、時期を待っていたわけさ。そして牛を屋根に乗せる競争のときになるとその皮を持って来て、木灰にこうつけると少し柔らかくだらっとこうなりますからね、その牛の皮で模型を作って屋根に上げたんですよ。これはもう遠くから見ると頭には角もあるし、当に生き物みたいに見えたらしいです。そうしておいてアラブツ武士は、「自分は約束通り牛を屋根の上に乗せたが、あんたはまだか。」とこう攻めたら、ペミシク武士は、それを遠い所からこう見てですね、「ああもうアラブツ武士はもうその屋根の上にこの牛が出来ている。自分もこりゃ急がなくちゃあならん。」と言ったが、アラブツ武士のようなその前もっての準備っていうのは全く無いからね、親戚を集めてさ、自分の家の庭に石をうんと集めて、アラブツ武士に負けないように特別大きい牛が屋根の上に乗れるように庭に石垣をこう積むと、生きた牛を連れてきて屋根の上に乗せようとするというんだが、乗せよう乗せようとするんだが暴れてなかなか乗らない。ようやく乗ったと思ったら、あの当時の家というのは、茅葺き屋根だから、重い牛が乗ると屋根は踏み潰されて家まで崩れてしまったからよ、ペミシク武士は家は壊れたから家も造り直すことになり、雇った親戚者にも飯も上げんとならんしよ、財力はもうどんどん落ちて行くし、勝負にも負けた。また次の問題は何月何日までに自分の家の壁をきれいにする競争ということになった。これも始めから相手の財力を弱らせようと思って仕組んだ競争だったいうんだな。アラブツ武士は田畑が少ないからね、毎日海に行って魚を捕って来て生活をしておったらしいです。昔はよく鯨が波照間近海なんかに来ていて、当時は鯨がこちらの人がクブシミと言う甲イカを食べておって、鯨は甲イカの甲を流したらしい。今の製糖工場から西には何千メートルかの浜があって、あの浜には鯨が来る冬になるとその甲イカの甲がよう流れてくるんですよ。アラブツ武士は頭がいいから日頃からその甲を拾って集めてきてためておいたわけさ。その甲を砕いて約束の日の何日も前に自分の家の周囲の壁を塗り固めると壁はみんなきれいに真っ白くなった。これを遠くから見たとペミシク武士は、これは何でこう壁を白くしたっていうのが分からんわけさ。そしたら、アラブツ武士は、ペミシク武士に、「自分は貧乏者だが、餅米の粉で壁を真っ白にしてある。あんたは財閥で田圃も沢山ありながら、そのぐらいのその米はないのか。またまた自分に負けたら駄目じゃないか。が。」と嘘をついて聞かすわけです。ペミシク武士は、「もう分けておれない。」と倉庫には米がいっぱいあるから、また親戚を集めて一生懸命に自分の倉庫から餅米を出してきて、これをきれいに粉にしてさ、自分の家の壁みんな塗り付けたわけさ。しかし、お米は雨に濡れるとカビが付いて黒くなったり色々な色になって汚くなるでしょう。だから、何日か過ぎて約束の日になるとアラブツ武士の壁は真っ白だが、ペミシク武士の壁はもうすっかり汚れた色になっていたのでまたペミシク武士が負けてしまったというんだな。アラブツ武士は、最初からペミシク武士の美しい妻を手に入れようという魂胆で仕掛けた競争で、三度の競争に勝ってペミシク武士の財力を大分弱らせたが、まだ、目的は達していないので最後の勝負に賭けることにして、ペミシク武士に、「舟で仲の神島まで行って廻ってくる舟こぎ競走をしよう。」と勝負を持ちかけた。仲の神島は、西表島の西にある絶海の無人の孤島で、波照間からは二十キロほども離れた遠い島なので、舟こぎ競走に誘ってペミシク武士を亡き者にすれば、ペミシク武士の美人の妻も自分のものになるという魂胆でもって誘った勝負だったわけだよ。この勝負には約束があったらしいですよ。同じ寸法の舟を作って食糧もいくら出発する日は何日と決めて、櫓のこの下につけとく櫓綱をこっちではハイブーと言うが、その櫓綱はこっちでパマサラという浜に這っているグンバイヒルガオの浜葛を身体に巻き付けられるだけ持って行ってもよいということにしたというんだよ。アラブツ武士は、浜葛を櫓綱にするとポキンポキンと折れて切れることが分かっているから、牛の手綱にも使う丈夫なアダンの気根を乾燥させて綯った綱を外から見ても分からないように肌にじかに巻き付けて、着物の上に浜葛を巻いて行った。ペミシク武士は、アラブツ武士がそんな用意をしているとは夢にも思わないから、「今度こそアラブツ武士に負けるもんか。」と正直に葉ばかり多い浜葛を身体に巻き付けられるだけたくさん巻き付けて舟を出したというんです。アラブツ武士は漁師もしていて海は専門で、その上頭も良いからね、そのころに吹く風を知っていたんだね。こっちでは六月に吹く東風をアリヤッターと言い、七月に一時吹く西風をイリヤッターいうさ。これは季節風なんです。だから、風を知っている人は六月ごろは東風のアリヤッターを利用して西に行く、七月なると西風のイリヤッターを利用してこう東に来るのは楽だったんです。このアラブツ武士とペミシク武士の仲の神島までの舟こぎ競走は六月だったから、西の方角にある仲の神島までは東風のアリヤッターが追い風で押してくれるから櫓綱が切れても身体にまいた浜葛だけで行けるんですよ。ところが仲の神島を廻って東にあるこの波照間に向かうと逆風で、しかもこの辺の潮はしょっちゅう西に流れるからね、ペミシク武士の弱い浜葛だけではもう櫓綱がぽんぽん切れて、いくら付け替えてもどんどん切れて、しまいには付け替える浜葛もなくなったから、東風と潮に流されて西に西へと流されて、とうとうペミシク武士はもう戻らなくなったと。アラブツ武士の方は風も潮の流れも知っていたから浜葛がなくなると肌に巻いていたダンの気根の綱を物を取り出してきて付け替えるとどんどん、どんどん東に向かって漕いだから無事にこの島に帰ってくることが出来たわけですよ。アラブツ武士の最初のこの魂胆はペミシク武士の美人の奥さんを娶ろうということだから、また作戦を練るわけさあな。すぐは出来んからちょっと時間をおいて後で、ペミシク武士の奥さんに会ったら、夫もなくなったし、今まであった財力も牛を屋根に載せて家が壊れたから建て直したり、餅米を壁に塗ったりして、どんどんどんどんもうその財産も失ってしまってもう女もその困ってるわけさ。だけど、ペミシク武士の妻は、頭が良くて、この男が自分の夫を殺したと知っていて敵討ちをしようと思っていたからね、「もうもう本当に夫を亡くして倒れそうになっておる。」と言って、アラブツ武士の申込みを承諾して、「だけどこっちで二人で恋愛するって言っても、こっちにはあんたの奥さんもいらっしゃるからこの島では出来ない。西表に行って暮らすならいいです」と言った。二人で西表に行くと、「ここで暮らすなら家を建てるなければならんから、山に行ってあんたが木を抱いて、両手の掌がピッタリと合う木があれば、あんたの妻になれます。なければ出来ない。」と言って、ペミシク武士の妻は、こっそり自分の下袴(はかん)の下に、四寸釘四本と玄翁一つを隠し持って、アラブツ武士と一緒に山に入ると、アラブツ武士は、「山だからそんな木は沢山ある。」と自信満々でもう喜んで行ったんだよ。その女は、アラブツ武士に、「掌と掌が合うこの木があるかなあ。これも抱いてみ。」と抱かせて、また、「これも抱いてみ。」と言って、次々に抱かせて、アラブツ武士がちょうど両手の掌がピッシャリと合う木が抱とく、すぐ玄翁と四寸釘を取り出して、て両手の掌を木にボンと打ち込んだらしいですよ。そういうふうに両手の掌を木に打ちつけられたらもう動けないだろう。それでペミシク武士の妻は敵討ちが出来たから、凱歌を上げて波照間に帰ってきたという話だよ。 |
| 全体の記録時間数 | 4:02 |
| 物語の時間数 | 26:00:00 |
| 言語識別 | 共通語 |
| 音源の質 | △ |
| テープ番号 | - |
| 予備項目1 | - |