
ある所に、爺さんと女の子が住んでいたそうだ。ある日道を侍が通ったのに、この爺さんは気づかなかったと。侍が通ったら頭を下げるのだが、気がつかなかったから畑を耕していた。すると侍が来て、「なぜお前は、侍が通っても無視するか。」と叱ったそうだ。「気がつきませんで、失礼しました。」「そんなら、よい。お前の首は落とさない。ただし俺たちが、あそこへ行って用事を済ませて帰るまで間、お前が耕した鍬は何回振りおろしたのか、回数を数えておけ。」と命令したと。数えておけと命令されたので、爺さんは、「はい。」と、いちいち数えながら耕していたと。一回二回三回と数えながら耕していたところ、ちょうど十二時になったので、娘が昼食を差しあげようと爺さんを呼んだそうだ。ところがその爺さんは、何回、何回と数えながら一生懸命、夢中になって耕していたので、その娘の声はいくら呼んでも聞こえない。この娘は、爺さんを押し倒してしまったそうだ。「何度、食事だよと呼んでも返事がない。爺さんは食べないの。」と言って、押すと爺さんははっとして倒れてしまった。「どうして、爺さんはぼうっとしていたの。」と言うと爺さんは、「お前は何というとをするか。侍が戻って来るまでの間、何回鍬を振りおろしたか、数えておけと命令されたのだが、お前に押し倒されて忘れてしまった。」と言うと娘は、「いや、心配しないで。返答は、私がすぐに上手にするから、心配することないよ。」と爺さんに話していた。そのうち侍たちは戻って来て、「おい、お前は何回鍬を振りおろして耕したのか。」と尋ねたそうだ。そこで、爺さんは娘を呼んで、「お前が返事してくれ。」と言ったので、「はい、私がします。心配しないで。」と言って、「そんならお侍さんたちは、ここからあそこへ行って、ここで休まれるまで何歩であそこから歩いて来たのですか。」と尋ねたそうだ。「さあ、俺たちはわからない。」「あなた方、そんな侍も知らないようなことを百姓が知るわけはないでしょう。」と言ったら、侍たちは黙ってしまったそうだ。侍は思案してから、「そんならよし、お前は頭が良いから、お前が乗り物にも乗らず、履物も履かずに土に足をつけないで、俺の家まで来たら、お前を嫁にしよう。」と言うと、「本当ですか。あなたの家まで下駄を履かずに、乗物に乗らず土を踏まずに行けたら、本当に私をあなたの奥さんにしますか。確かでしょうね。」と言うと、侍は、「きっとだ。」と約束した。「はい、分かりました。」と娘は言うと娘は藁を集めて来て、それからどんどん縄を長く綯い、その縄を自分の身体いっぱいに全部巻きつけて、牛にぶら下がって、侍の家に行き、「はい、このとおりやって来ました。どうします。」と言った。侍は約束したことだから、「お前に約束したことだ。妻に迎えよう。」と娶ったそうだ。その侍には牛の牧場があり、その隣に馬の牧場があって、ある日、その馬の牧場の馬が牛の牧場へ入ってしまったと。牛の牧場の主は、その馬を返してくれと言ったが、その侍は、「ここは牛の牧場だ。ここに入ったからには、自分の牛だ。」と言って、馬の主に返さなかったそうだ。馬の主は、「そうですか。何度言っても返さないつもりですか。」と言っても、「ここは牛の牧場で馬なんかいないから返さない。」と答えたので、馬の主人は、その侍の奥さんに、「あなたの主人は、こうこうで私の馬があなたのところの牛の牧場へ入ってしまったら、ここにいるのは牛だから馬を牛だと言って返してくれません。」と話したそうだ。すると、その奥さんは、「ああ、はい、よろしい。そしたら私が教えましょう。あなたは私の主人がそこから帰って来るころに釣り竿を持って来て、どんどん魚を釣るような仕草で振り回して、私の主人が聞いたら、こうこう返事しなさい。」と教えたので、その人は、侍が帰ってくるころに釣り竿を振り回しると、侍が帰ってきて聞いたそうだ。「なぜ、お前は釣竿を振り回すのだ。」と尋ねると、「俺は魚を釣っている。」「ヘえ、陸の上に魚がいるのか。」と侍が言ったところ、「そんなら、馬が牛になったりするのか。」と言ったので、「ああ、お前はその知恵を誰から教わったのか。」と言うと、「あなたの奥さんが教えてくれたよ。」と言うので、侍は怒って、「ええ、何だって。こらしめてやる。」と侍は帰って来て、自分の奥さんに、「出て行け。」とどなったそうだ。すると奥さんは、「そうですか。ではご心配なく出て行きます。」と言ったので、侍は、「出て行くなら、この家の中でいちばん欲しいものはなんでも持って行け。」と言ったそうだ。すると、「はい、分かりました。」と言うと酒を持って来て、どんどん侍に差しあげて飲ませたから、侍は酔って寝てしまったと。侍が寝てしまうと、今度は乗物を呼んで来て、侍をそうっとそうっと起こさないように乗せ、近くの農家に連れて行って寝かしたそうだ。侍が目を覚ましてみると農家だから、侍は起きて、「なぜ、俺を農家に寝かしたのだ。」と怒りだした。すると、「あなたがいちばん欲しいものをなんでも持って行きなさいと言ったから、私はあなたが欲しいので、あなたを乗せて来ました。」と答えたそうだ。「こりゃ、しょうがないな。」と言って戻って行ったという話だよ。おしまい。
| レコード番号 | 47O201926 |
|---|---|
| CD番号 | 47O20C103 |
| 決定題名 | 沖縄のやんばるの話(共通語) |
| 話者がつけた題名 | - |
| 話者名 | 棚原長正 |
| 話者名かな | たなはらちょうせい |
| 生年月日 | 18941116 |
| 性別 | 男 |
| 出身地 | 沖縄県八重山郡竹富町小浜 |
| 記録日 | 19750808 |
| 記録者の所属組織 | 沖縄県口承文芸学術調査団 |
| 元テープ番号 | 竹富町字小浜T47B01 |
| 元テープ管理者 | 沖縄伝承話資料センター |
| 分類 | 12 |
| 発句(ほっく) | - |
| 伝承事情 | - |
| 文字化資料 | - |
| キーワード | 侍,畑,回数,嫁,牛,釣り |
| 梗概(こうがい) | ある所に、爺さんと女の子が住んでいたそうだ。ある日道を侍が通ったのに、この爺さんは気づかなかったと。侍が通ったら頭を下げるのだが、気がつかなかったから畑を耕していた。すると侍が来て、「なぜお前は、侍が通っても無視するか。」と叱ったそうだ。「気がつきませんで、失礼しました。」「そんなら、よい。お前の首は落とさない。ただし俺たちが、あそこへ行って用事を済ませて帰るまで間、お前が耕した鍬は何回振りおろしたのか、回数を数えておけ。」と命令したと。数えておけと命令されたので、爺さんは、「はい。」と、いちいち数えながら耕していたと。一回二回三回と数えながら耕していたところ、ちょうど十二時になったので、娘が昼食を差しあげようと爺さんを呼んだそうだ。ところがその爺さんは、何回、何回と数えながら一生懸命、夢中になって耕していたので、その娘の声はいくら呼んでも聞こえない。この娘は、爺さんを押し倒してしまったそうだ。「何度、食事だよと呼んでも返事がない。爺さんは食べないの。」と言って、押すと爺さんははっとして倒れてしまった。「どうして、爺さんはぼうっとしていたの。」と言うと爺さんは、「お前は何というとをするか。侍が戻って来るまでの間、何回鍬を振りおろしたか、数えておけと命令されたのだが、お前に押し倒されて忘れてしまった。」と言うと娘は、「いや、心配しないで。返答は、私がすぐに上手にするから、心配することないよ。」と爺さんに話していた。そのうち侍たちは戻って来て、「おい、お前は何回鍬を振りおろして耕したのか。」と尋ねたそうだ。そこで、爺さんは娘を呼んで、「お前が返事してくれ。」と言ったので、「はい、私がします。心配しないで。」と言って、「そんならお侍さんたちは、ここからあそこへ行って、ここで休まれるまで何歩であそこから歩いて来たのですか。」と尋ねたそうだ。「さあ、俺たちはわからない。」「あなた方、そんな侍も知らないようなことを百姓が知るわけはないでしょう。」と言ったら、侍たちは黙ってしまったそうだ。侍は思案してから、「そんならよし、お前は頭が良いから、お前が乗り物にも乗らず、履物も履かずに土に足をつけないで、俺の家まで来たら、お前を嫁にしよう。」と言うと、「本当ですか。あなたの家まで下駄を履かずに、乗物に乗らず土を踏まずに行けたら、本当に私をあなたの奥さんにしますか。確かでしょうね。」と言うと、侍は、「きっとだ。」と約束した。「はい、分かりました。」と娘は言うと娘は藁を集めて来て、それからどんどん縄を長く綯い、その縄を自分の身体いっぱいに全部巻きつけて、牛にぶら下がって、侍の家に行き、「はい、このとおりやって来ました。どうします。」と言った。侍は約束したことだから、「お前に約束したことだ。妻に迎えよう。」と娶ったそうだ。その侍には牛の牧場があり、その隣に馬の牧場があって、ある日、その馬の牧場の馬が牛の牧場へ入ってしまったと。牛の牧場の主は、その馬を返してくれと言ったが、その侍は、「ここは牛の牧場だ。ここに入ったからには、自分の牛だ。」と言って、馬の主に返さなかったそうだ。馬の主は、「そうですか。何度言っても返さないつもりですか。」と言っても、「ここは牛の牧場で馬なんかいないから返さない。」と答えたので、馬の主人は、その侍の奥さんに、「あなたの主人は、こうこうで私の馬があなたのところの牛の牧場へ入ってしまったら、ここにいるのは牛だから馬を牛だと言って返してくれません。」と話したそうだ。すると、その奥さんは、「ああ、はい、よろしい。そしたら私が教えましょう。あなたは私の主人がそこから帰って来るころに釣り竿を持って来て、どんどん魚を釣るような仕草で振り回して、私の主人が聞いたら、こうこう返事しなさい。」と教えたので、その人は、侍が帰ってくるころに釣り竿を振り回しると、侍が帰ってきて聞いたそうだ。「なぜ、お前は釣竿を振り回すのだ。」と尋ねると、「俺は魚を釣っている。」「ヘえ、陸の上に魚がいるのか。」と侍が言ったところ、「そんなら、馬が牛になったりするのか。」と言ったので、「ああ、お前はその知恵を誰から教わったのか。」と言うと、「あなたの奥さんが教えてくれたよ。」と言うので、侍は怒って、「ええ、何だって。こらしめてやる。」と侍は帰って来て、自分の奥さんに、「出て行け。」とどなったそうだ。すると奥さんは、「そうですか。ではご心配なく出て行きます。」と言ったので、侍は、「出て行くなら、この家の中でいちばん欲しいものはなんでも持って行け。」と言ったそうだ。すると、「はい、分かりました。」と言うと酒を持って来て、どんどん侍に差しあげて飲ませたから、侍は酔って寝てしまったと。侍が寝てしまうと、今度は乗物を呼んで来て、侍をそうっとそうっと起こさないように乗せ、近くの農家に連れて行って寝かしたそうだ。侍が目を覚ましてみると農家だから、侍は起きて、「なぜ、俺を農家に寝かしたのだ。」と怒りだした。すると、「あなたがいちばん欲しいものをなんでも持って行きなさいと言ったから、私はあなたが欲しいので、あなたを乗せて来ました。」と答えたそうだ。「こりゃ、しょうがないな。」と言って戻って行ったという話だよ。おしまい。 |
| 全体の記録時間数 | 6:48 |
| 物語の時間数 | 6:17 |
| 言語識別 | 共通語 |
| 音源の質 | ○ |
| テープ番号 | - |
| 予備項目1 | - |