収穫祝と甘菓子(方言)

概要

〔方言原話〕 収穫祝(かしちー)とぅ甘菓子(あまがし)ぬ話い。収穫祝(かしちー)ぬ時(ばー)にぬーんち甘菓子(あまがし)かむが、又菖蒲(そーぶ)ぬ葉(ふぁー)さーに、うぬ甘菓子(あまがし)かむが、ぬーんちが、んでぃる話い。かーま昔(んか)せー、謝苅地(じゃあがるぢー)ぬ人達(ちゅぬちゃー)や、食物(むぬ)うふぉくかみゆうすしる、婿取(むくどぅい)嫁取(ゆみどぅい)んする、んでぃちやたんでぃしが、やしが赤土地(まーぢ)ぬ人達(ちゅぬちゃー)や、食物(むぬ)うふぉくかむせー婿取(むくどぅい)嫁取(ゆみどぅい)んさんたんでぃ。うれえー謝苅地(じゃあがるぢー)や土地(ぢー)ん肥沃(くぇー)とぉーんくとぅ、天気(てぃんち)ぬゆたさわっさーあてぃん。水(みじ)むちぬ、ゆたたさくとぅ、作物(ちゅくい)諸作(むぢゅくい)ゆーでぃきーん。やしが、ちゅー仕事(しぐとぅ)ぬうふさくとぅ、食物(むぬ)だてぃーんかでぃ、身体(どぅー)ぬ頑強(がんぢゅー)さしやれー、婿取(むくどぅい)嫁取(ゆみどぅい)しん、まちげーやねーらんでぃちやしが、赤土地(まーぢ)ぬ人達(ちゅぬちゃー)や、雨(あみ)ぬふらんなたい、雨(あみ)ぬふいちぢちゃいしーねー、天気(てぃんち)ぬうまーしこーねえらん時(ばー)ねえ、諸作(むぢゅくい)やでぃきらんないくとぅ、うんにんねーなーまた飢饉(がし)ぬ始まいん。やくとぅ、一生懸命(うーはまい)働ちん、前(めー)ねえーあがかんしがるうふさる。うんぐとぉーる暮らしそうる、赤土地(まーぢ)ぬ所(とぅくま)んかいあてぇーる話(はな)しいやしが。昔(んかし)ある所(とぅくま)んかい、母親(いなぐぬうや)とぅ、夫婦(みーとぅんだ)とぅ、子供一人(わらばーちゅい)ぬ四人(ゆったい)暮らしぬ、貧乏者(ふぃんすーむん)ぬうたんでぃ。土地(ぢー)はたから家屋敷(やーやしち)までぃ、全部(むる)かかいがねーし、自分(どぅ)ぬ土地(ぢー)んちぇー、一坪(ちゅちぶ)んねーらんくとぅ、朝んふぇーくから夜にっかまでぃ、一生懸命(うーはまい)働ちん、てぃーちん前(めー)ねえーあがかん。ちゃーいんきらふぁーしさくとぅ、あとーなーうぬ妻(とぅぜー)、「なーくんぐとぅそうてぇー、一生涯(いちみとぅとぅ)いんきらふぁーるやる、てぃーちん前(めー)ねえーあがかん、家庭(ぢねー)やうくしいゆうさんくとぅ。」んち、「なー私(わん)ねえやー実家(やー)かいいちゅん。」でぃち、実家(やー)かいはちねえーらん。あんさくとぅ、うぬ青年(にーせー)や、自分一人(どぅーちゅい)さーに、母親(いなぐぬうや)とぅ自分(どぅー)ぬ子供(くゎ)んちかなてぃ、一生懸命(うーはまい)働らちょーるしじやしが、友達(どぅしぬちゃー)がうりんーち、「君(やー)や今(なま)若さるむんぬ、うんぐとぅそうてぃんないんなー。後妻(あとぅどぅみ)とぅめーしるましやえーさに。」んでぃち話(はな)しいさくとぅ、うぬ青年(にーせー)や、「私(わん)にんあんうむいしが、私達(わったー)や土地畑(ぢーはた)んねーらん貧乏者(ふぃんすーむん)どぅやくとぅ、ちゃっさぱったらげーい働ちゃんてぃーまん、てぃちん前(めー)ねえーあがかんぬる、妻(とぅじ)んふぃんぎてぃんうらんくとぅ、なー私(わん)ねえー、食物(むぬ)んかまん女(いなぐ)妻(とぅぜー)する。」んでぃち、話(はな)しいさくとぅ、友達(どぅしぬちゃー)ん、「えーあんどぅやるい。」んでぃちさーに、しいてぇー進みらんたんでぃしが、あんしちゅてぇーさくとぅ、食物(むのー)かまん女(いなぐ)ぬうんでぃ、んでぃる話いぬんぢぃてぃさくとぅ、友達(どぅしぬちゃー)がち、うぬ話いちかちゃくとぅ、うぬ青年(にーせー)がんぢ、話しいさくとぅ、「甘菓子(あまがせー)かむしが食物(むのー)かまん。」でぃちさくとぅ、「えーあんやみ。」んでぃちさーに、後(あとぉー)二人夫婦(たいみーとぅんだ)なてぃ暮ちゃくとぅ、なるふどぅんちゃ、甘菓子(あまがせー)かむしが、食物(むのー)かまんさくとぅ、「んーくれえー赤豆(あかまーみー)や自分(どぅー)しちゅくいるすくとぅ、うれえーしむん。」でぃち、夫婦(みーとぅんだ)なてぃさくとぅ、じこー一生懸命(うーはまい)働ちさくとぅ、暮らしん次第(しでぇー)にましないんねえーさーに、うっさそうるばーやしが、なーちゅてぇーさくとぅ、今度(くんどぉー)なー自分(どぅー)ぬ子供(くゎ)ぬ顔(ちら)みーらんなてぃ、朝んふぇーくから夜んにっかまでぃ、仕事(しぐとぅ)しちゅーるしじやくとぅ、「だーあんし、うぬ子供(わらばー)や、まーかいんぢゃが。」んでぃち、妻(とぅじ)んかいとぅたくとぅ、「近頃(ちかぐろー)いふぇ、ふどぅうぃたくとぅ、友達(どぅし)とぅむちりてぃあしでぃ、朝んふぇーくから夜んにっかまでぃ、むる家(やー)ねえーかからん。」でぃ言ちゃくとぅ、「えーあんどぅやみ。」んち、そうたんでぃるむんぬ、あんし一月、二月(ちゅちち、たちち)さくとぅ、今度(くんどぅー)母親(いなぐぬうや)ぬ顔(ちら)ぬ見ーらんなてぃさくとぅ、「だーあんし母親(いなぐぬうやー)。」んちとぅたくとぅ、「母親(いなぐぬうや)ん、あんし毎日(めーにち)家(やー)んかいびけーくまてぃーならんでぃち、今度(くんどぉー)孫(んまが)ん一緒(まじゅー)んあしでぃあっちょーん。」でぃちさくとぅ、「んーん、あんどぅやんなー。」んち、そうたんでぃるむんぬ、あんしんなーちゅてぇー待っちさんてぇーん、全然(むる)二人(たい)が顔(ちらー)みーらんなてぃさくとぅ、くれえー不思議(ふぃるましー)くとぅ、子供(くゎ)んうらん、親(うや)んうらんなてぃ、あんし全然(むる)顔(ちら)ぬみーらんでぃちん、あがやー、んでぃちさーなかい、後(あとぉー)夫(うとぅ)ぬ、「今日(ちゅー)やな、一日畑仕事(ふぃっちーばるー)しわるやくとぅ、弁当(あしー)ちゅくりよう。」んち、昼食物(ふぃるまむん)でぃち、弁当(あしー)ちゅくらさーに、「馬(んま)ぐゎーや小屋(やー)ぬ後(くし)んかいくんぢゃーなかい、草んだてぇーん前(めー)なしみてぇくとぅ、飼料(はめー)なーあまんぢくゎせー。今日(ちゅー)や私(わん)ねえー夕方(ゆさんでぃ)にっかる家(やー)かいけーてぃちゅーさ。」んち、弁当(あしー)むっち、畑(はる)かいんぢてぃんぢゃーに、「まぜーぬーやらわん。」でぃち、うぬ夫(うとぉー)昼食前(ふぃるまめー)なたくとぅ、自分(どぅー)ぬ家(やー)んかい、よんなーよんなー、家(やー)ぬ後(くしー)からいっちゃくとぅ、家(やー)ねえーたーんうらん。家畜(いちむし)ぬ飼料(はみ)んくゎーちぇーしが、ぬーがまーかいんぢゃがやーんち、裏座(くちゃ)ぐゎーんかいいちょーたくとぅ、いふぃちゅてぇーさくとぅ、家(やー)ぬ門(ぢょ)から、誰(たー)がやらいっちちゃーぎーんねえーし、がさがささくとぅ、誰(たー)がやーんちんちゃくとぅ、妻(とぅじ)ぬいっちちゃーぎーん。昼食前(ふぃるまめー)やくとぅ、なーまた昼食物(ふぃるまむん)ちゅくいがちぇさやーんでぃちかんげぇてぃ、ぬーがちゅくてぃかむら、ぬーがすら、んちようーくゎっくぃてぃんーちょーたくとぅ、ふぃざなんかいさぎてぇーる鍋(なーび)から、ぬーがやらとぅってぃんぢゃさーに、しちゃぬ鍋(なーび)んかいいってぃにーぎいん。ぬーやがやーんちんーちゃくとぅ、はじちちちぇーる自分(どぅ)ぬ母親(いなぐぬうや)てぃーいてぃ、煮やーさぎいん。うりんーぢゃーに、「とぉくれえー人(ちょー)あらん鬼(うに)るやてぇーっさ。」んち、「くりがる子(くゎ)から親(うや)までぃ、うちくゎてぃるうてぇーっさみ。」んち、よんなよんな、後(くし)んかいみぐやーなかい、しぐ馬(んま)ぐゎーぬ手綱(ちなー)木(きー)からかちはんさーに、うちぬてぃまるがちしみてぃ、いっさんばーえーしふぃんぎとぉーるしじやしが、だーうんにんに、うぬ鬼(うに)、わかやーなかい、なーくれーわからっとぉーんでぃち、ぶーないちらかち、うぬ馬(んま)うーてぃいちゃーに、なーやがてぃとぅっかちみらりーがたーなとぉーる時(ばー)に、うぬ青年(にーせー)や馬(んま)ぐゎーしいてぃー、しぐ側(すば)んかいある菖蒲田(そーぶだー)ぬ中(なーか)んかい、まるとぅびんちさくとぅ、鬼(うねー)菖蒲田(そーぶだー)ぬ中(なーか)んかえーいっちぇーちゆうさん。ぬーがどぅんやれえー、幽霊(ゆーりー)ぬ魔除札(ふーふだ)はてぇーるとぅくまんかえー、いっちぇちゆうさんでぃしとぉー同様(いーぬむん)、鬼(うねー)菖蒲(そーぶ)ぬ葉(ふゎー)やうとぅるむんやくとぅ、菖蒲(そーぶ)ぬ葉(ふゎー)ぬ前(めー)んかえーいちゆうさん。あんさーに、うぬ青年(にーせー)やたしかたんでぃ。あんさくとぅうんにんから、収穫祝(かしちー)ねえー甘菓子ちゅくやーなかい、菖蒲(そーぶ)ぬ葉(ふゎー)さーに、甘菓子かむるぐとぅなとぉーんでぃ。菖蒲(そーぶ)ぬ葉(ふゎー)さーに、うぬ甘菓子かみゆうーすせー人(ちゅ)、かみゆうーさんせー鬼(うに)やんでぃる話(はな)しいやしが、ぬーんでぃち、鬼(うに)ぬ菖蒲(そーぶ)ぬ葉(ふゎー)うとぅるさすがんでぃせー、昔(んかし)、一人(ちゅい)ぬ子供(わらばー)が鬼(うに)んかいうぃーまーさってぃ、なーやがてぃとぅっかちみらりーんでぃいる時(ばー)に、菖蒲田(そーぶだー)んかいとぅびんち、「母親(あやー)父親(たーりー)、たしきてぃくぃみそうりー。」さがなー、うぬ子供(わらばー)や、みっくゎたっくゎ菖蒲(そーぶ)ぬ葉(ふゎー)ふぃっちっち、ちゃーしんくぃーしん鬼(うに)んかいちゃーなぎーさくとぅ、うぬ菖蒲(そーぶ)ぬ葉(ふゎー)や槍(やい)ぬ先(さち)なてぃ、鬼(うに)ぬ身体(どぅ)んかいたっちさくとぅ、鬼(うねー)血(ちー)ぬはしりてぃ死亡(けーし)ぢゃんでぃ。あんすくとぅ、鬼(うねー)菖蒲(そーぶ)ぬ葉(ふゎー)や、ぬーやかにんうとぅる物(むん)やんでぃ。また収穫祝(かしちー)や旧ぬ六月(るくぐゎち)ぬ二十五日(にじゅうぐにち)にする所(とぅくま)んあれえー、旧ぬ五月五日(ぐんぐゎちぐにち)にする所(とぅくま)んあん。収穫祝(かしちー)とぅ甘菓子ぬ話い。〔共通語訳〕 収穫祝(かしちー)と甘菓子の話。収穫祝(かしちー)の時に、なぜ甘菓子を食べるのか、又、何で菖蒲の葉で、その甘菓子を食べろのかという話。ずっと昔は、謝苅地質の所で生活している人達は、食べ物をたくさん喰う事のできる人を、婿或いは嫁にしたそうですが、赤土地域の人達は、食べ物をたくさん食べる人は、婿にも嫁にもしなかったそうです。それは、謝苅地質の土質は、土地が肥沃で、天候の良し悪しがあっても水保が良いので、作物は諸作、良くできますが、力仕事が多く、食べ物をたくさん食べて体力の強い人を婿や嫁にしたら間違いないという事ですが、赤土質地域の人達は、雨が降らなかったり、雨降り続き等で天候が思わしくない場合には農作物は不作になり、それが続くと飢饉が始まりますので、一生懸命働いても、一向に前に進まない場合が多い。その様な赤土地域に暮らしている或る人の話なんだが。昔或る所に、母親と夫婦に子ども一人の四人暮らしの、貧乏な家族がありました。土地や畑、屋敷まで全部他人の物を借地して生活し、自分の土地、畑は一坪もありません。それで、朝早くから夜遅くまで働いているのですが、一向に家庭は豊かにならず前に進みません。いつも貧乏暮らしですので、とおとおその妻は、「この調子でいては一生涯、同じ貧乏暮らしだ。少しも前に進まず、家庭を興すこともできない。」と思い、「もう私は実家に帰る。」と言って、行ってしまいました。するとその青年は、自分一人で母親と子どもを養って一生懸命働いているのですが、友達がそれを見て、「君はまだ若いのだから、そのままではいけないよ。後妻を探した方が良いではないか。」と話しますと、「私もそう思うのだが、私達は土地も悪い、畑も無い貧乏者だから、いくらがむしゃらに働いても一向に前に進まないので、妻も逃げだして実家に帰ってしまって居ないから、もう私は食べ物を食べない女を妻にするつもりだ。」と話しますので、友達も皆、「ああそうか。」と言って、強いては進めませんでした。そして暫くすると、食べ物を食べない女がが居るという話が出ましたので、友達が来てその話をしました。するとその青年が行って話してみると、「甘菓子は食べるが食べ物は食べません。」と言いますので、「えーそうか。」という事で、後で夫婦になって暮らしますと、なるほど、甘菓子は食べますが御飯はたべません。すると、「んーこれは、小豆は自分で作ってあるからそれは良い。」と言って夫婦になりますと、とても一生懸命働きますので、暮らしも次第に良くなり喜んでいるのですが、暫くするとどうした事か、自分の子どもの姿が見えません。朝も早くから夜遅くまで仕事をしてくるのですから、「どうした。子どもはどこに行った。」と妻に問いますと、「近頃は少し大人になって、友達と連れ立って遊びに夢中ぬなり、朝早くから夜遅くまで全然家に居ない。」と言いますので、「ああそうか。」と言っているのですが、それから一、二カ月すると、今度は母親の姿が見えなくなったのです。それで、「母親はどうした。」と問いますと、「母親も、こうして毎日家に籠もっていても仕方がないと言って、今度は孫も一緒に遊んで歩いています。」と言いますので、「んーん、そうか。」と話していましたが、それから暫くしても全然二人の姿が見えませんので、これは不思議な事だ、子どもも居ない、親も居なくなって、全然姿が見られないという事があるのかなあ、と思い、後は夫が、「今日は一日中畑仕事をしなければいけないから、弁当を作りなさい。お昼は弁当を持っていくから。」と言いますと、「はい。」と答えて、弁当を作って持たせますと、「馬は家の後ろの方に繋いで、草もたくさん前に置いてあるから、飼料はここで喰わせなさい。今日私は夕方の遅くしか家に帰ってこないから。」と言って弁当を持って畑に行き、「まずは、何はともあれ。」と言って、その夫はお昼前になりますと自分の家に、抜き足差し足で後ろの方から裏座敷に忍び込んでみますと、誰も居りません。家畜の飼料もやってあるが、どこにいったのかと思って、座って少し待っていると、家の門の方から誰か入ってくる様子でガサガサ音がするので、誰かと思って見ていると、妻が入ってくるので、お昼前だからお昼の食べ物の用意をしにきたのかと考え、何を作って食べるのか何をするのかと、隠れて見ていると、煙上棚に吊るして下げてある鍋から何かを取り出して、下の方に置いてある鍋に入れて煮ています。何かと思ってよく見ますと、自分の母親の手を入れて煮ています。それを見て、「ああ、これは人間ではなくて鬼だったのか。これが子どもから親まで食べ尽くしていたか。」とわかり、抜き足差し足で後ろにまわり、すぐに馬の手綱を木から外して、それに乗って丸駆、一目散に逃げたのですが、もうその時には鬼も気がつき、もうこれは自分の正体が知られたという事で、飛ぶような走りでその馬を追いかけて行き、もう少しでとっ捕まえられそうになった時、その青年は馬もろともすぐ側にある菖蒲田の中に飛び込んだのです。鬼は菖蒲田の中に入って行けません。なぜかといいますと、幽霊が魔除札の張ってある所に入って行けないのと同様に、鬼は菖蒲の葉は恐ろしい物ですから、菖蒲田の前には行けないのです。それでその青年は助かったのです。そうすると、その時から収穫祝(かしちー)の時には甘菓子を作って、菖蒲の葉でその甘菓子を食べるようになったとの事ですが、菖蒲の葉でその甘菓子を食べる事のできるのは人。食べる事のできないのは鬼だ、という話ですが、なぜ鬼が菖蒲の葉を恐れるかと言いますと。昔、一人のこどもが鬼に追われて、もうすぐとっ捕まえられそうになった時に、菖蒲田に飛び込んで、「母上、父上、助けてください。」と叫びながら、その子どもは無二無三に菖蒲の葉を引きちぎって、夢中になって鬼に投げつけたのです。するとその菖蒲の葉は槍の先になって、鬼の身体に突き刺さり、鬼は血を流して死んだのです。だから鬼は、菖蒲の葉は何よりも恐ろしい物だそうです。また、収穫祝(かしちー)は、旧六月二十五日にする所もあれば、旧五月五日にする所もある。収穫祝(かしちー)と甘菓子の話。識名隆人翻字 T5A3

再生時間:8:58

民話詳細DATA

レコード番号 47O170039
CD番号 47O17C005
決定題名 収穫祝と甘菓子(方言)
話者がつけた題名 収穫祝と甘菓子(カシチーとアマガシ)
話者名 阿波根昌栄
話者名かな あはごんしょうえい
生年月日 19210309
性別
出身地 沖縄県中頭郡北谷町字上勢頭
記録日 19970217
記録者の所属組織 沖縄口承文芸学術調査団
元テープ番号 T05A03
元テープ管理者 沖縄伝承話資料センター
分類 12,80
発句(ほっく)
伝承事情
文字化資料 『想い出の昔話』
キーワード ご飯を食べない嫁,鬼,菖蒲
梗概(こうがい) 〔方言原話〕 収穫祝(かしちー)とぅ甘菓子(あまがし)ぬ話い。収穫祝(かしちー)ぬ時(ばー)にぬーんち甘菓子(あまがし)かむが、又菖蒲(そーぶ)ぬ葉(ふぁー)さーに、うぬ甘菓子(あまがし)かむが、ぬーんちが、んでぃる話い。かーま昔(んか)せー、謝苅地(じゃあがるぢー)ぬ人達(ちゅぬちゃー)や、食物(むぬ)うふぉくかみゆうすしる、婿取(むくどぅい)嫁取(ゆみどぅい)んする、んでぃちやたんでぃしが、やしが赤土地(まーぢ)ぬ人達(ちゅぬちゃー)や、食物(むぬ)うふぉくかむせー婿取(むくどぅい)嫁取(ゆみどぅい)んさんたんでぃ。うれえー謝苅地(じゃあがるぢー)や土地(ぢー)ん肥沃(くぇー)とぉーんくとぅ、天気(てぃんち)ぬゆたさわっさーあてぃん。水(みじ)むちぬ、ゆたたさくとぅ、作物(ちゅくい)諸作(むぢゅくい)ゆーでぃきーん。やしが、ちゅー仕事(しぐとぅ)ぬうふさくとぅ、食物(むぬ)だてぃーんかでぃ、身体(どぅー)ぬ頑強(がんぢゅー)さしやれー、婿取(むくどぅい)嫁取(ゆみどぅい)しん、まちげーやねーらんでぃちやしが、赤土地(まーぢ)ぬ人達(ちゅぬちゃー)や、雨(あみ)ぬふらんなたい、雨(あみ)ぬふいちぢちゃいしーねー、天気(てぃんち)ぬうまーしこーねえらん時(ばー)ねえ、諸作(むぢゅくい)やでぃきらんないくとぅ、うんにんねーなーまた飢饉(がし)ぬ始まいん。やくとぅ、一生懸命(うーはまい)働ちん、前(めー)ねえーあがかんしがるうふさる。うんぐとぉーる暮らしそうる、赤土地(まーぢ)ぬ所(とぅくま)んかいあてぇーる話(はな)しいやしが。昔(んかし)ある所(とぅくま)んかい、母親(いなぐぬうや)とぅ、夫婦(みーとぅんだ)とぅ、子供一人(わらばーちゅい)ぬ四人(ゆったい)暮らしぬ、貧乏者(ふぃんすーむん)ぬうたんでぃ。土地(ぢー)はたから家屋敷(やーやしち)までぃ、全部(むる)かかいがねーし、自分(どぅ)ぬ土地(ぢー)んちぇー、一坪(ちゅちぶ)んねーらんくとぅ、朝んふぇーくから夜にっかまでぃ、一生懸命(うーはまい)働ちん、てぃーちん前(めー)ねえーあがかん。ちゃーいんきらふぁーしさくとぅ、あとーなーうぬ妻(とぅぜー)、「なーくんぐとぅそうてぇー、一生涯(いちみとぅとぅ)いんきらふぁーるやる、てぃーちん前(めー)ねえーあがかん、家庭(ぢねー)やうくしいゆうさんくとぅ。」んち、「なー私(わん)ねえやー実家(やー)かいいちゅん。」でぃち、実家(やー)かいはちねえーらん。あんさくとぅ、うぬ青年(にーせー)や、自分一人(どぅーちゅい)さーに、母親(いなぐぬうや)とぅ自分(どぅー)ぬ子供(くゎ)んちかなてぃ、一生懸命(うーはまい)働らちょーるしじやしが、友達(どぅしぬちゃー)がうりんーち、「君(やー)や今(なま)若さるむんぬ、うんぐとぅそうてぃんないんなー。後妻(あとぅどぅみ)とぅめーしるましやえーさに。」んでぃち話(はな)しいさくとぅ、うぬ青年(にーせー)や、「私(わん)にんあんうむいしが、私達(わったー)や土地畑(ぢーはた)んねーらん貧乏者(ふぃんすーむん)どぅやくとぅ、ちゃっさぱったらげーい働ちゃんてぃーまん、てぃちん前(めー)ねえーあがかんぬる、妻(とぅじ)んふぃんぎてぃんうらんくとぅ、なー私(わん)ねえー、食物(むぬ)んかまん女(いなぐ)妻(とぅぜー)する。」んでぃち、話(はな)しいさくとぅ、友達(どぅしぬちゃー)ん、「えーあんどぅやるい。」んでぃちさーに、しいてぇー進みらんたんでぃしが、あんしちゅてぇーさくとぅ、食物(むのー)かまん女(いなぐ)ぬうんでぃ、んでぃる話いぬんぢぃてぃさくとぅ、友達(どぅしぬちゃー)がち、うぬ話いちかちゃくとぅ、うぬ青年(にーせー)がんぢ、話しいさくとぅ、「甘菓子(あまがせー)かむしが食物(むのー)かまん。」でぃちさくとぅ、「えーあんやみ。」んでぃちさーに、後(あとぉー)二人夫婦(たいみーとぅんだ)なてぃ暮ちゃくとぅ、なるふどぅんちゃ、甘菓子(あまがせー)かむしが、食物(むのー)かまんさくとぅ、「んーくれえー赤豆(あかまーみー)や自分(どぅー)しちゅくいるすくとぅ、うれえーしむん。」でぃち、夫婦(みーとぅんだ)なてぃさくとぅ、じこー一生懸命(うーはまい)働ちさくとぅ、暮らしん次第(しでぇー)にましないんねえーさーに、うっさそうるばーやしが、なーちゅてぇーさくとぅ、今度(くんどぉー)なー自分(どぅー)ぬ子供(くゎ)ぬ顔(ちら)みーらんなてぃ、朝んふぇーくから夜んにっかまでぃ、仕事(しぐとぅ)しちゅーるしじやくとぅ、「だーあんし、うぬ子供(わらばー)や、まーかいんぢゃが。」んでぃち、妻(とぅじ)んかいとぅたくとぅ、「近頃(ちかぐろー)いふぇ、ふどぅうぃたくとぅ、友達(どぅし)とぅむちりてぃあしでぃ、朝んふぇーくから夜んにっかまでぃ、むる家(やー)ねえーかからん。」でぃ言ちゃくとぅ、「えーあんどぅやみ。」んち、そうたんでぃるむんぬ、あんし一月、二月(ちゅちち、たちち)さくとぅ、今度(くんどぅー)母親(いなぐぬうや)ぬ顔(ちら)ぬ見ーらんなてぃさくとぅ、「だーあんし母親(いなぐぬうやー)。」んちとぅたくとぅ、「母親(いなぐぬうや)ん、あんし毎日(めーにち)家(やー)んかいびけーくまてぃーならんでぃち、今度(くんどぉー)孫(んまが)ん一緒(まじゅー)んあしでぃあっちょーん。」でぃちさくとぅ、「んーん、あんどぅやんなー。」んち、そうたんでぃるむんぬ、あんしんなーちゅてぇー待っちさんてぇーん、全然(むる)二人(たい)が顔(ちらー)みーらんなてぃさくとぅ、くれえー不思議(ふぃるましー)くとぅ、子供(くゎ)んうらん、親(うや)んうらんなてぃ、あんし全然(むる)顔(ちら)ぬみーらんでぃちん、あがやー、んでぃちさーなかい、後(あとぉー)夫(うとぅ)ぬ、「今日(ちゅー)やな、一日畑仕事(ふぃっちーばるー)しわるやくとぅ、弁当(あしー)ちゅくりよう。」んち、昼食物(ふぃるまむん)でぃち、弁当(あしー)ちゅくらさーに、「馬(んま)ぐゎーや小屋(やー)ぬ後(くし)んかいくんぢゃーなかい、草んだてぇーん前(めー)なしみてぇくとぅ、飼料(はめー)なーあまんぢくゎせー。今日(ちゅー)や私(わん)ねえー夕方(ゆさんでぃ)にっかる家(やー)かいけーてぃちゅーさ。」んち、弁当(あしー)むっち、畑(はる)かいんぢてぃんぢゃーに、「まぜーぬーやらわん。」でぃち、うぬ夫(うとぉー)昼食前(ふぃるまめー)なたくとぅ、自分(どぅー)ぬ家(やー)んかい、よんなーよんなー、家(やー)ぬ後(くしー)からいっちゃくとぅ、家(やー)ねえーたーんうらん。家畜(いちむし)ぬ飼料(はみ)んくゎーちぇーしが、ぬーがまーかいんぢゃがやーんち、裏座(くちゃ)ぐゎーんかいいちょーたくとぅ、いふぃちゅてぇーさくとぅ、家(やー)ぬ門(ぢょ)から、誰(たー)がやらいっちちゃーぎーんねえーし、がさがささくとぅ、誰(たー)がやーんちんちゃくとぅ、妻(とぅじ)ぬいっちちゃーぎーん。昼食前(ふぃるまめー)やくとぅ、なーまた昼食物(ふぃるまむん)ちゅくいがちぇさやーんでぃちかんげぇてぃ、ぬーがちゅくてぃかむら、ぬーがすら、んちようーくゎっくぃてぃんーちょーたくとぅ、ふぃざなんかいさぎてぇーる鍋(なーび)から、ぬーがやらとぅってぃんぢゃさーに、しちゃぬ鍋(なーび)んかいいってぃにーぎいん。ぬーやがやーんちんーちゃくとぅ、はじちちちぇーる自分(どぅ)ぬ母親(いなぐぬうや)てぃーいてぃ、煮やーさぎいん。うりんーぢゃーに、「とぉくれえー人(ちょー)あらん鬼(うに)るやてぇーっさ。」んち、「くりがる子(くゎ)から親(うや)までぃ、うちくゎてぃるうてぇーっさみ。」んち、よんなよんな、後(くし)んかいみぐやーなかい、しぐ馬(んま)ぐゎーぬ手綱(ちなー)木(きー)からかちはんさーに、うちぬてぃまるがちしみてぃ、いっさんばーえーしふぃんぎとぉーるしじやしが、だーうんにんに、うぬ鬼(うに)、わかやーなかい、なーくれーわからっとぉーんでぃち、ぶーないちらかち、うぬ馬(んま)うーてぃいちゃーに、なーやがてぃとぅっかちみらりーがたーなとぉーる時(ばー)に、うぬ青年(にーせー)や馬(んま)ぐゎーしいてぃー、しぐ側(すば)んかいある菖蒲田(そーぶだー)ぬ中(なーか)んかい、まるとぅびんちさくとぅ、鬼(うねー)菖蒲田(そーぶだー)ぬ中(なーか)んかえーいっちぇーちゆうさん。ぬーがどぅんやれえー、幽霊(ゆーりー)ぬ魔除札(ふーふだ)はてぇーるとぅくまんかえー、いっちぇちゆうさんでぃしとぉー同様(いーぬむん)、鬼(うねー)菖蒲(そーぶ)ぬ葉(ふゎー)やうとぅるむんやくとぅ、菖蒲(そーぶ)ぬ葉(ふゎー)ぬ前(めー)んかえーいちゆうさん。あんさーに、うぬ青年(にーせー)やたしかたんでぃ。あんさくとぅうんにんから、収穫祝(かしちー)ねえー甘菓子ちゅくやーなかい、菖蒲(そーぶ)ぬ葉(ふゎー)さーに、甘菓子かむるぐとぅなとぉーんでぃ。菖蒲(そーぶ)ぬ葉(ふゎー)さーに、うぬ甘菓子かみゆうーすせー人(ちゅ)、かみゆうーさんせー鬼(うに)やんでぃる話(はな)しいやしが、ぬーんでぃち、鬼(うに)ぬ菖蒲(そーぶ)ぬ葉(ふゎー)うとぅるさすがんでぃせー、昔(んかし)、一人(ちゅい)ぬ子供(わらばー)が鬼(うに)んかいうぃーまーさってぃ、なーやがてぃとぅっかちみらりーんでぃいる時(ばー)に、菖蒲田(そーぶだー)んかいとぅびんち、「母親(あやー)父親(たーりー)、たしきてぃくぃみそうりー。」さがなー、うぬ子供(わらばー)や、みっくゎたっくゎ菖蒲(そーぶ)ぬ葉(ふゎー)ふぃっちっち、ちゃーしんくぃーしん鬼(うに)んかいちゃーなぎーさくとぅ、うぬ菖蒲(そーぶ)ぬ葉(ふゎー)や槍(やい)ぬ先(さち)なてぃ、鬼(うに)ぬ身体(どぅ)んかいたっちさくとぅ、鬼(うねー)血(ちー)ぬはしりてぃ死亡(けーし)ぢゃんでぃ。あんすくとぅ、鬼(うねー)菖蒲(そーぶ)ぬ葉(ふゎー)や、ぬーやかにんうとぅる物(むん)やんでぃ。また収穫祝(かしちー)や旧ぬ六月(るくぐゎち)ぬ二十五日(にじゅうぐにち)にする所(とぅくま)んあれえー、旧ぬ五月五日(ぐんぐゎちぐにち)にする所(とぅくま)んあん。収穫祝(かしちー)とぅ甘菓子ぬ話い。〔共通語訳〕 収穫祝(かしちー)と甘菓子の話。収穫祝(かしちー)の時に、なぜ甘菓子を食べるのか、又、何で菖蒲の葉で、その甘菓子を食べろのかという話。ずっと昔は、謝苅地質の所で生活している人達は、食べ物をたくさん喰う事のできる人を、婿或いは嫁にしたそうですが、赤土地域の人達は、食べ物をたくさん食べる人は、婿にも嫁にもしなかったそうです。それは、謝苅地質の土質は、土地が肥沃で、天候の良し悪しがあっても水保が良いので、作物は諸作、良くできますが、力仕事が多く、食べ物をたくさん食べて体力の強い人を婿や嫁にしたら間違いないという事ですが、赤土質地域の人達は、雨が降らなかったり、雨降り続き等で天候が思わしくない場合には農作物は不作になり、それが続くと飢饉が始まりますので、一生懸命働いても、一向に前に進まない場合が多い。その様な赤土地域に暮らしている或る人の話なんだが。昔或る所に、母親と夫婦に子ども一人の四人暮らしの、貧乏な家族がありました。土地や畑、屋敷まで全部他人の物を借地して生活し、自分の土地、畑は一坪もありません。それで、朝早くから夜遅くまで働いているのですが、一向に家庭は豊かにならず前に進みません。いつも貧乏暮らしですので、とおとおその妻は、「この調子でいては一生涯、同じ貧乏暮らしだ。少しも前に進まず、家庭を興すこともできない。」と思い、「もう私は実家に帰る。」と言って、行ってしまいました。するとその青年は、自分一人で母親と子どもを養って一生懸命働いているのですが、友達がそれを見て、「君はまだ若いのだから、そのままではいけないよ。後妻を探した方が良いではないか。」と話しますと、「私もそう思うのだが、私達は土地も悪い、畑も無い貧乏者だから、いくらがむしゃらに働いても一向に前に進まないので、妻も逃げだして実家に帰ってしまって居ないから、もう私は食べ物を食べない女を妻にするつもりだ。」と話しますので、友達も皆、「ああそうか。」と言って、強いては進めませんでした。そして暫くすると、食べ物を食べない女がが居るという話が出ましたので、友達が来てその話をしました。するとその青年が行って話してみると、「甘菓子は食べるが食べ物は食べません。」と言いますので、「えーそうか。」という事で、後で夫婦になって暮らしますと、なるほど、甘菓子は食べますが御飯はたべません。すると、「んーこれは、小豆は自分で作ってあるからそれは良い。」と言って夫婦になりますと、とても一生懸命働きますので、暮らしも次第に良くなり喜んでいるのですが、暫くするとどうした事か、自分の子どもの姿が見えません。朝も早くから夜遅くまで仕事をしてくるのですから、「どうした。子どもはどこに行った。」と妻に問いますと、「近頃は少し大人になって、友達と連れ立って遊びに夢中ぬなり、朝早くから夜遅くまで全然家に居ない。」と言いますので、「ああそうか。」と言っているのですが、それから一、二カ月すると、今度は母親の姿が見えなくなったのです。それで、「母親はどうした。」と問いますと、「母親も、こうして毎日家に籠もっていても仕方がないと言って、今度は孫も一緒に遊んで歩いています。」と言いますので、「んーん、そうか。」と話していましたが、それから暫くしても全然二人の姿が見えませんので、これは不思議な事だ、子どもも居ない、親も居なくなって、全然姿が見られないという事があるのかなあ、と思い、後は夫が、「今日は一日中畑仕事をしなければいけないから、弁当を作りなさい。お昼は弁当を持っていくから。」と言いますと、「はい。」と答えて、弁当を作って持たせますと、「馬は家の後ろの方に繋いで、草もたくさん前に置いてあるから、飼料はここで喰わせなさい。今日私は夕方の遅くしか家に帰ってこないから。」と言って弁当を持って畑に行き、「まずは、何はともあれ。」と言って、その夫はお昼前になりますと自分の家に、抜き足差し足で後ろの方から裏座敷に忍び込んでみますと、誰も居りません。家畜の飼料もやってあるが、どこにいったのかと思って、座って少し待っていると、家の門の方から誰か入ってくる様子でガサガサ音がするので、誰かと思って見ていると、妻が入ってくるので、お昼前だからお昼の食べ物の用意をしにきたのかと考え、何を作って食べるのか何をするのかと、隠れて見ていると、煙上棚に吊るして下げてある鍋から何かを取り出して、下の方に置いてある鍋に入れて煮ています。何かと思ってよく見ますと、自分の母親の手を入れて煮ています。それを見て、「ああ、これは人間ではなくて鬼だったのか。これが子どもから親まで食べ尽くしていたか。」とわかり、抜き足差し足で後ろにまわり、すぐに馬の手綱を木から外して、それに乗って丸駆、一目散に逃げたのですが、もうその時には鬼も気がつき、もうこれは自分の正体が知られたという事で、飛ぶような走りでその馬を追いかけて行き、もう少しでとっ捕まえられそうになった時、その青年は馬もろともすぐ側にある菖蒲田の中に飛び込んだのです。鬼は菖蒲田の中に入って行けません。なぜかといいますと、幽霊が魔除札の張ってある所に入って行けないのと同様に、鬼は菖蒲の葉は恐ろしい物ですから、菖蒲田の前には行けないのです。それでその青年は助かったのです。そうすると、その時から収穫祝(かしちー)の時には甘菓子を作って、菖蒲の葉でその甘菓子を食べるようになったとの事ですが、菖蒲の葉でその甘菓子を食べる事のできるのは人。食べる事のできないのは鬼だ、という話ですが、なぜ鬼が菖蒲の葉を恐れるかと言いますと。昔、一人のこどもが鬼に追われて、もうすぐとっ捕まえられそうになった時に、菖蒲田に飛び込んで、「母上、父上、助けてください。」と叫びながら、その子どもは無二無三に菖蒲の葉を引きちぎって、夢中になって鬼に投げつけたのです。するとその菖蒲の葉は槍の先になって、鬼の身体に突き刺さり、鬼は血を流して死んだのです。だから鬼は、菖蒲の葉は何よりも恐ろしい物だそうです。また、収穫祝(かしちー)は、旧六月二十五日にする所もあれば、旧五月五日にする所もある。収穫祝(かしちー)と甘菓子の話。識名隆人翻字 T5A3
全体の記録時間数 8:58
物語の時間数 8:58
言語識別 方言
音源の質
テープ番号
予備項目1

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