
王様が非常に寂しい日を過ごしておりました。なんで寂しい日かというと、台風が吹き荒れて、王様としては下々の人民は、この台風で家が壊れて押しつぶされてはいないか、何のけがもないだろうかと心配で、居ても立ってもおれない。「このようにもの思いにふけっていると、今にも死んでしまいそうなので、渡嘉敷を呼んで来い。」と言って、使いを行かせた。「そうしたら、今でございますか。」「今すぐだ。」とおっしゃったので、「それでは、すぐにもご案内してまいりましょう。」と言って、使いは出かけた。行ってみると、渡嘉敷は寝ていらっしやったって。その日は台風だったから、「サリ(ごめん下さい)、さり。」と言って、渡嘉敷を呼んだら、「誰だ。」と言ったので、「お城からの使いでございます。」と答えた。「どうしたというのだ。」「あなた様をお連れするようにとのことです。」と言うと、「私は何も悪いことはしてないのに、城に呼ばれなければならないのか。」と言うと、「そう言うことではありません。あなた様を今日中にご案内するようにということです。何か悪いことをしたからではありません。」と言った。ペークは、「それではしばらく待っておきなさい。私はまだ何も食べておらず、おなかがすいているので、ご飯を作って食べてから行くからと伝えてくれ、おまえは先に行きなさい。」と言った。それはね、渡嘉敷ペークはお城でご飯を食べる考えだったわけ。すると、使いの者は、「いいえ、お城でお食べください。あなた様は私と一緒に行かなければなりません。食事は向こうで召し上がってください。」と言った。渡嘉敷ペークは、「そうするか。でも私はまだ何も食べてないよ。」と言って、一緒に行ったらしいね。城では、王様が、「よく来た渡嘉敷。おまえには、何かめずらしい話があるだろう。」と聞いたから、「話は、いくらでもあります。」と答えた。「いい話があれば、聞かせてくれ。」とおっしゃったから、「あの、待ってください。私は、昨日の夕飯からなにも食べていません。食事を作って食べてから行こうと思ったのですが、あなたの使いの者に『城で食べてください』と言われ、あわてて参ったわけです。」「それだったら、私の食事から分けて持って来てあげなさい。」ということになった。王様の食べるものだから、アギジャビヨー、大変なご馳走であった。なんといっても王様が召し上がるものを持って来てあげなさいと言っているから、アシティビチやらいろんなご馳走を持ってきて差し上げた。そうして、腹いっぱい食べてから、「どうだ渡嘉敷、おまえはもう腹はいっぱいになったかな。」と王様が聞いたから、「はい、もう腹いっぱいになりました。」と。「さあ、それでは話をひとつ聞かせてくれ。実は、今度の台風で下々の人民が、家に押しつぶされはしないか、風もだんだん強くなり、死にはしないかとか怪我はしないかといったことを心配して、居ても立ってもおれないから、おまえに来てもらったんだよ。」と言ったら、「ああ、そういうことですか。ではこれからいい話をしますので、あなた様は耳をすましてお聞きください。」と言った。そうしたら、「何の話なのか渡嘉敷。」と聞かれたので、「王様もご存じの通り、私は船手役人をしてから、かなり長いことになりますよね。」と申し上げた。「確かにおまえが、船手役についてから長いことなるよ。」と。「それでですね、船は出して中国に行ったものの、ちょうど今日のような台風に遇って、船は流されてしまってですね。」と言ったわけ。「船は流されて、それからどうなったか、渡嘉敷。」もう、一週間分の食糧も持ってないから、食べ物が残っている間は芋の皮まで食べた。そうするうちに、腹はすくし、船酔いもするしでヤーサクリサ(ひもじい思い)したあと、ある島に流れ着いた。この島で少し船酔いを直してからでないと、物考えはできないといって、そこで、しばらくの間、寝たいたらしい。その浜に上がって寝ていたら、節々は痛いし、腹は減っているし、何か食べ物を捜して食べようとしたら、そこにとても大きな岩があった。この岩が食べられればといって、爪を立てたらふんわりして柔らかい。これほど柔らかいのであれば食べられるかもしれないと嘗めてみたら、もう甘くてフシガンバー(たまらないわけ)。何とこれは食べられるものではないか。生まれつき私はクェーブー(食い得)がある男だ。こんなに長いこと海に漂流し、すぐにも食べ物にありつけるのは不思議なことだ、と思って食べ始めたら、すっかりなくなるまで食べつくし、この岩の上に登って行った。すると、そこには白髪がジャージャー(ぼさぼさ)している白髪のタンメー(老人)がおられ、「この人間に似た獣め。おまえという奴は、こんな年寄りが朝夕水をかけて育ててきたスイカにいたずらするのか。」と言った。これは岩ではなくてスイカであったらしいのだ。そうして、ユーイブシというのは、昔はカンプーを結っているさあねえ、そのカンプーをつかまえて引っ張り出されて、渡嘉敷は白髪ジャージャーしているタンメーの手の平に置かれた。タンメーは大きな人であるわけ。渡嘉敷はタンメーに捕らえられ家に連れて行かれた。「おまえという奴は、人間に似た獣だ。私が手塩にかけて育てたスイカにいたずらするとは許せん。おまえのような奴は被っておこうね。」と言って、渡嘉敷を茶碗で被ってしまった。それで、仏壇の上に被って置かれたって。渡嘉敷も思案のしどころであるわけさ。「さて、どうしたらいいものか。」と考えたあげくに、日が暮れるのを待ってタンメーが寝た時分、逃げようと考えをめぐらしたわけさ。そして、日が暮れたので、少しずつ、少しずつ移動して、仏壇の端まで茶碗が来たら下から出られるでしょう。それで、「今だ、逃げてみせるぞ。」と言って、一目散に逃げたらしい。これで命拾いしたと言って、一生懸命逃げたものの、また、捕まえられてしまった。一生懸命逃げたとはいっても、明け方までにその家の戸口までしか逃げて来れなかったって。もう少しのところでタンメーが起きてしまい、またも捕らえられてしまった。「おまえは、被って置いてもここから逃げるのか。今度はただではすまさん、罰として私の言いつけを聞かなければ、すぐにも揉みくちゃにして、フーと吹っ飛ばすからな。」と言われた。「ああ、言うことを聞きます。」と言ったら、「それなら、ここにいておきなさい。」と言って、タンメーは石鍬を持って来て、「この石鍬で、私の耳糞をほじくれ。」と言われた。渡嘉敷はその石鍬で耳糞をほじくったら、古い石垣が壊れるように足を押しつぶしてしかたがない。左右の耳糞を取ってすっかりなくなったので、今度は鼻くそをほじくれということになった。「この人は、耳糞をほじくっただけでなく、鼻糞までほじくれ。」とおっしゃるのかと、今度は思い切り石鍬を振り回して、鼻にたたき込んで鼻糞をつつくと同時に、「ヘーックション。」と、くしゃみをしたわけ。そうしたら、渡嘉敷はこの人のくしゃみした力で吹っ飛ばされてしまった。「それで、どうなったのか渡嘉敷。」と、王様がおっしゃったら、 「はあ、もう、こんなにびっくりしたことはありません。起きたら夢だったんですよ。」と言ったって。 「何だ、渡嘉敷、夢なら夢だと言えばいいのに、私は本当かと思って聞いていたのに、夢だったのか。」とおっしゃったって。
| レコード番号 | 47O421790 |
|---|---|
| CD番号 | 47O42C055 |
| 決定題名 | 渡嘉敷ペーク 夢(シマグチ) |
| 話者がつけた題名 | - |
| 話者名 | 古謝振裕 |
| 話者名かな | こじゃしんゆう |
| 生年月日 | 19080605 |
| 性別 | 男 |
| 出身地 | 具志川市西原 |
| 記録日 | 19800801 |
| 記録者の所属組織 | 沖縄口承文芸調査団 |
| 元テープ番号 | 具志川市T50 A4 |
| 元テープ管理者 | 沖縄伝承話資料センター |
| 分類 | 13 |
| 発句(ほっく) | - |
| 伝承事情 | 雨降りや祝の席などに聞いた |
| 文字化資料 | 具志川市史第3巻下585頁 通観770頁 |
| キーワード | 渡嘉敷ペーク,台風,御主加那志,夕飯,ご馳走,唐,西瓜,海,夢 |
| 梗概(こうがい) | 王様が非常に寂しい日を過ごしておりました。なんで寂しい日かというと、台風が吹き荒れて、王様としては下々の人民は、この台風で家が壊れて押しつぶされてはいないか、何のけがもないだろうかと心配で、居ても立ってもおれない。「このようにもの思いにふけっていると、今にも死んでしまいそうなので、渡嘉敷を呼んで来い。」と言って、使いを行かせた。「そうしたら、今でございますか。」「今すぐだ。」とおっしゃったので、「それでは、すぐにもご案内してまいりましょう。」と言って、使いは出かけた。行ってみると、渡嘉敷は寝ていらっしやったって。その日は台風だったから、「サリ(ごめん下さい)、さり。」と言って、渡嘉敷を呼んだら、「誰だ。」と言ったので、「お城からの使いでございます。」と答えた。「どうしたというのだ。」「あなた様をお連れするようにとのことです。」と言うと、「私は何も悪いことはしてないのに、城に呼ばれなければならないのか。」と言うと、「そう言うことではありません。あなた様を今日中にご案内するようにということです。何か悪いことをしたからではありません。」と言った。ペークは、「それではしばらく待っておきなさい。私はまだ何も食べておらず、おなかがすいているので、ご飯を作って食べてから行くからと伝えてくれ、おまえは先に行きなさい。」と言った。それはね、渡嘉敷ペークはお城でご飯を食べる考えだったわけ。すると、使いの者は、「いいえ、お城でお食べください。あなた様は私と一緒に行かなければなりません。食事は向こうで召し上がってください。」と言った。渡嘉敷ペークは、「そうするか。でも私はまだ何も食べてないよ。」と言って、一緒に行ったらしいね。城では、王様が、「よく来た渡嘉敷。おまえには、何かめずらしい話があるだろう。」と聞いたから、「話は、いくらでもあります。」と答えた。「いい話があれば、聞かせてくれ。」とおっしゃったから、「あの、待ってください。私は、昨日の夕飯からなにも食べていません。食事を作って食べてから行こうと思ったのですが、あなたの使いの者に『城で食べてください』と言われ、あわてて参ったわけです。」「それだったら、私の食事から分けて持って来てあげなさい。」ということになった。王様の食べるものだから、アギジャビヨー、大変なご馳走であった。なんといっても王様が召し上がるものを持って来てあげなさいと言っているから、アシティビチやらいろんなご馳走を持ってきて差し上げた。そうして、腹いっぱい食べてから、「どうだ渡嘉敷、おまえはもう腹はいっぱいになったかな。」と王様が聞いたから、「はい、もう腹いっぱいになりました。」と。「さあ、それでは話をひとつ聞かせてくれ。実は、今度の台風で下々の人民が、家に押しつぶされはしないか、風もだんだん強くなり、死にはしないかとか怪我はしないかといったことを心配して、居ても立ってもおれないから、おまえに来てもらったんだよ。」と言ったら、「ああ、そういうことですか。ではこれからいい話をしますので、あなた様は耳をすましてお聞きください。」と言った。そうしたら、「何の話なのか渡嘉敷。」と聞かれたので、「王様もご存じの通り、私は船手役人をしてから、かなり長いことになりますよね。」と申し上げた。「確かにおまえが、船手役についてから長いことなるよ。」と。「それでですね、船は出して中国に行ったものの、ちょうど今日のような台風に遇って、船は流されてしまってですね。」と言ったわけ。「船は流されて、それからどうなったか、渡嘉敷。」もう、一週間分の食糧も持ってないから、食べ物が残っている間は芋の皮まで食べた。そうするうちに、腹はすくし、船酔いもするしでヤーサクリサ(ひもじい思い)したあと、ある島に流れ着いた。この島で少し船酔いを直してからでないと、物考えはできないといって、そこで、しばらくの間、寝たいたらしい。その浜に上がって寝ていたら、節々は痛いし、腹は減っているし、何か食べ物を捜して食べようとしたら、そこにとても大きな岩があった。この岩が食べられればといって、爪を立てたらふんわりして柔らかい。これほど柔らかいのであれば食べられるかもしれないと嘗めてみたら、もう甘くてフシガンバー(たまらないわけ)。何とこれは食べられるものではないか。生まれつき私はクェーブー(食い得)がある男だ。こんなに長いこと海に漂流し、すぐにも食べ物にありつけるのは不思議なことだ、と思って食べ始めたら、すっかりなくなるまで食べつくし、この岩の上に登って行った。すると、そこには白髪がジャージャー(ぼさぼさ)している白髪のタンメー(老人)がおられ、「この人間に似た獣め。おまえという奴は、こんな年寄りが朝夕水をかけて育ててきたスイカにいたずらするのか。」と言った。これは岩ではなくてスイカであったらしいのだ。そうして、ユーイブシというのは、昔はカンプーを結っているさあねえ、そのカンプーをつかまえて引っ張り出されて、渡嘉敷は白髪ジャージャーしているタンメーの手の平に置かれた。タンメーは大きな人であるわけ。渡嘉敷はタンメーに捕らえられ家に連れて行かれた。「おまえという奴は、人間に似た獣だ。私が手塩にかけて育てたスイカにいたずらするとは許せん。おまえのような奴は被っておこうね。」と言って、渡嘉敷を茶碗で被ってしまった。それで、仏壇の上に被って置かれたって。渡嘉敷も思案のしどころであるわけさ。「さて、どうしたらいいものか。」と考えたあげくに、日が暮れるのを待ってタンメーが寝た時分、逃げようと考えをめぐらしたわけさ。そして、日が暮れたので、少しずつ、少しずつ移動して、仏壇の端まで茶碗が来たら下から出られるでしょう。それで、「今だ、逃げてみせるぞ。」と言って、一目散に逃げたらしい。これで命拾いしたと言って、一生懸命逃げたものの、また、捕まえられてしまった。一生懸命逃げたとはいっても、明け方までにその家の戸口までしか逃げて来れなかったって。もう少しのところでタンメーが起きてしまい、またも捕らえられてしまった。「おまえは、被って置いてもここから逃げるのか。今度はただではすまさん、罰として私の言いつけを聞かなければ、すぐにも揉みくちゃにして、フーと吹っ飛ばすからな。」と言われた。「ああ、言うことを聞きます。」と言ったら、「それなら、ここにいておきなさい。」と言って、タンメーは石鍬を持って来て、「この石鍬で、私の耳糞をほじくれ。」と言われた。渡嘉敷はその石鍬で耳糞をほじくったら、古い石垣が壊れるように足を押しつぶしてしかたがない。左右の耳糞を取ってすっかりなくなったので、今度は鼻くそをほじくれということになった。「この人は、耳糞をほじくっただけでなく、鼻糞までほじくれ。」とおっしゃるのかと、今度は思い切り石鍬を振り回して、鼻にたたき込んで鼻糞をつつくと同時に、「ヘーックション。」と、くしゃみをしたわけ。そうしたら、渡嘉敷はこの人のくしゃみした力で吹っ飛ばされてしまった。「それで、どうなったのか渡嘉敷。」と、王様がおっしゃったら、 「はあ、もう、こんなにびっくりしたことはありません。起きたら夢だったんですよ。」と言ったって。 「何だ、渡嘉敷、夢なら夢だと言えばいいのに、私は本当かと思って聞いていたのに、夢だったのか。」とおっしゃったって。 |
| 全体の記録時間数 | 9:10 |
| 物語の時間数 | 9:10 |
| 言語識別 | 方言 |
| 音源の質 | ◎ |
| テープ番号 | - |
| 予備項目1 | - |